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Episode3 - OW1


【世界屈折空間】へと繋がる門の前まで近付くと、いつものように案内の半透明のウィンドウが出現した……のだが。


【外界へと調査へ向かいますか?】

【パーティを組んでいる場合、パーティメンバー全員が外界へと転移します】


という、見たことがないウィンドウが新たに出現した。

これが受付の言っていた、調査任務へと繋がる選択肢なのだろう。

無言で2人へと視線を向けると、両方共に頷いてきた為、そのまま肯定の選択肢を選ぶと。


【転移を開始します】


短いログと共に、周囲の景色が光の粒子となって消えていき、


「おぉ、凄いなこれは」


次の瞬間には、見たことがない景色が広がっていた。


青々とした木々が生え、何処か遠くからは鳥の様な鳴き声が聞こえてくる。

このゲームでは感じたことのない、青臭い匂いが辺りを漂っており、何とも言えない気分が湧き上がってくるのを感じた。


私達が転移したのはそんな鬱蒼とした森の中、その中でも周囲には木が生えておらず、何処か広場の様になっている場所だった。

中心には巨大な篝火が設置されており、その周囲には何人かのプレイヤーらしき姿も見える。


【ガスマスクが起動状態へと切り替わりました】


「……うん、ガスマスクもちゃんと機能してるね」

「ここが外界ってやつか……思ってたよりもきちんと外って感じだな」

「所謂セーフティエリアでしょうか。プレイヤーも居ますし」


お上りさんの様に周囲を見渡していると、見かねたのか1人のプレイヤーが此方へと近づいてきて説明をしてくれた。


曰く、ここは外界にある数あるセーフティエリアの中の1つらしく。

此処から外へと出れば、ダンジョンでは見られない様な敵性モブなどに遭遇出来るらしい。

また、巨大な篝火はワープポイントでもあるらしく、行ったことがある別のセーフティエリアやエデンへと瞬時に転移する事も可能なんだそうだ。


ただ、マップ機能が機能していないらしく……一度外に出てから戻ってくるならば、コンパスや手製のマップを作った方が良いともアドバイスしてくれた。


「じゃあ早速、外に出てみよっか」

「話聞いてたか?外に出たら戻ってくるのが大変らしいぞ?」

「だからって外に出ないのは違うでしょ?どうせデスペナ食らってもエデンで復活するし、コンパスも此処じゃ作れないんだから……色々見といて損は無いと思うなぁ」

「お姉様に賛成ですね。補足するなら、今の私達の実力で何処まで外界で通用するのか確認しておいた方が無難かと」

「まぁ、それはそうだが……安牌は切らせてもらうぞ」


メウラはそう言うと、彼の紫煙外装である人形を1体出現させた。

等級強化によって少しばかり人らしい造形に近付いたソレに、【峡谷】の鼠の素材を渡し。セーフティエリア内の目立たない場所へと移動させると、


「これで良し」

「場所わかるの?」

「俺なら感覚的にな。コンパスの代替品にはなるだろ」


私達は外へと……周囲の森の中へと足を踏み入れていく。

既に昇華煙、具現煙自体は吸引済。

手斧も準備は終わっていて、後は敵対存在に遭遇するのみ。

いや、遭遇しない方が良いと言えば良いのだが。


これと言った目的地も無い為、適当に私達は前へと……篝火から離れるように森の中を進んでいく。

プレイヤー達が来た、と言っても基本は未開の地ではあるようで、途中途中道を塞ぐように木々が倒れている事も少なくはない。


「んー。匂いでの索敵は諦めた方が良いかなコレは」

「そんなにですか?」

「そうだねぇ。結構匂いの強い植物が多いっぽい」


……ガスマスクもしてるし、その分もありそうだけどね。

植物特有の青臭さに加え、何やら甘い匂いなどが混ざった状態のこの森はやはりおかしいのだろう。

嗅ぎ分けようと思えば出来る自信はあるものの、それを今やる意味も薄い。

それに、


「私、別に索敵しなくても君らが居るからなぁ」


私以外が持っている索敵スキルの存在がある為に、私の嗅覚索敵は別段必要とはしていなかった。

メウラが使っているのは、【生体索敵】。

その名の通り、一定範囲内の生物を索敵する事が出来るスキルであり、基本はソロの時に使っているらしいもの。

そして音桜が使っている索敵スキルは、【空の目】という……飛翔する物体に自身の視界を同期させる事が出来る代物だ。

勝手に浮いてくれる紫煙外装に合わせた形で修得したのだろう。


兎に角、それらがあるおかげで生物に対してはほぼ確実に、安全に索敵は出来るのだ。

……非生物の時はどうしようもない、ってのが事実だしデメリットだけど……まぁ森の中だしね。

進むだけでも難儀する森の中で、生物以外が居れば……それは所謂厄ネタか何かだろう。

過去、この森に住んでいた何者か達が生み出したゴーレムだったり、それに準ずる何かだったり……どちらにしても、こちらに牙を向いてくる時点で碌なものではない筈だ。


「おっと、何か引っかかったな。2時の方向」

「畏まりました。先行させます」


どうやらそんな事を考えていると。

早速何やら索敵に引っ掛かったらしく、視界を同期している紫煙外装を音桜が偵察に向かわせた。


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