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Episode21 - D2


--【霧燃ゆる夜塔】2層


そんなこんなで、進んでいき2層。

以前挑んだ時は軽く紫煙の足場も駆使して上へと登って行った訳だが、


「今回はどうする?」

「いつまでもレラに移動を任せるわけにはいかねぇだろ。煙草だって有限だしな」


メウラが紫煙外装を出現させ、何かの素材を捧げると。

みるみる内に【二面性の山屋敷】に存在した鴉天狗へとその姿を変えていく。


「音桜に見せるのは初だな。これが俺の紫煙外装の能力だ」

「成程、敵性モブの模倣ですね……ボスには?」

「なれねぇな。ただ、そのボスがいるダンジョンの何かには変わるし、何なら普通に模倣させるよりステータスが上がる」

「ランダム性の代わりに強力になる、良いねぇ」


彼は鴉天狗を後2体作り出すと、そのまま私達を抱えるように指示した上で、


「階段を昇るよりはこっちの方がはえぇだろ!」


飛翔させる。

階段から部屋へ、部屋からまた階段へ。

部屋の中にいるミストジェイラーを始めとした敵性モブ達は、こちらへと攻撃しようとしてくるものの……空を飛んでいる為に届かない。

通常の攻略ならば、素材も集めたい所ではあるが、今回の目標はボスの打倒。

後で幾らでも集める事が出来る素材は一旦置いておいて、時間を掛けずに塔を登っていくことを選んだのだ。


……うん、両手が自由だし……これなら手斧も使える。

そして、この移動方法は私と音桜の攻撃方法を邪魔しないという利点も存在する。

接近戦をしがちではあるものの、投擲こそが1番火力が出る私と、紫煙外装の性質上、確実に身体から離れた位置へと攻撃する事が出来る音桜。

どちらも遠距離攻撃を主体としているのだから、邪魔のしようがないのだ。


「ちっとばかし暇になるが、これはこれで良いだろ」

「そうだねぇ。今のうちに消耗品の確認とかもしておこうか」


そして両手が使えると言う事は、この間に煙草も吸える。

私は新たに作った『昇華 - 狼皮の煙草』改め――『昇華 - 魔狼皮の煙草』を口に咥え、火を点けた。

いつも吸っていたそれよりも、何処かメンソール感が強くなったソレが肺へと入っていくのを感じつつ……私の身体は少しずつ変化していく。


【昇華煙が発動します】

【対象:マノレコ】

【アバターに一時的変化が生じます……】


今まで普通の狼のように生えていた耳は、何処か禍々しい棘が小さく2本ずつ生え。

腰辺りからは小さな蝙蝠の羽が出現する。

私の吐く紫煙混じりの呼気には、【峡谷】の敵性モブ達が纏っているようなオーラが混じり、手からは薄く青い炎が漏れ始めた。


「レラさん、それ……」

「あー、うん。私の商売道具。メウラにもこれは初めて見せたかな?」

「初だな。どんな効果だ?」

「……わかんない!これが使うの初だからね!」

「おまっ」

「大丈夫大丈夫」


事実、問題はない。

多少いつもよりも音の拾える範囲が広がろうと、匂いを拾う距離が長くなろうと凡その使い方は変わらないのだから。


それよりも問題は、腰から生えた蝙蝠の羽だろう。

今はまだ小さく、それでいて動かしても推力を発生させられないこれが、過剰供給された時一体どうなってしまうのか。

……まぁ、飛べるくらいだったら良いんだけどね。

この後の事を考えると、ほぼ確実に全身を変異させる必要があるだろう。

新たに生えた器官が、普段の動きの邪魔をしなければ良いのだが。


「可愛らしいじゃないですか。良いですね」

「音桜ちゃんは使わないの?昇華煙」

「生憎と、私の場合はステータスに依らない戦い方をしているもので」

「あー、確かにね」


そのような雑談をしながら、私達は抱えられながら長く高い塔を飛んで征く。

途中途中で部屋の内部を掃除してから休憩を入れているものの……事故の様なものは起きず。

ほぼ万全といった状態で、3層へと繋がる扉の前へと辿り着くことができた。


「全員、改めて準備の確認」

「こっちは問題ねぇぞ」

「私も大丈夫です」

「オーケィ」


……まぁ、話してはあるし大丈夫だよね。

この先の戦いは正直、経験者3人による蹂躙で終わるだろう。

それよりも、私が懸念している事はたった1つ。

この場、この戦いで初めて発現した『想真刀』の事だ。


ピアスの製作者のメウラには詳細に、一応は音桜にもそれとなく伝えてはあるものの……不安でしかないだろう。

【怨煙変化】を手に入れたと言っても、それは怨念を操る能力ではなく周囲を怨念で満たす為の能力なのだから。


「……出たとこ勝負だなぁ」


小さくそう言いながら、私は扉へと手を掛ける。

警告文が出てくるものの、以前見た文章から変わりがない為、ほぼ読み飛ばしながら開いていくと。

やはり変わりがない、暗闇と霧で満たされた道が私達の目の前へと現れた。


「行こうか」


私の号令に2人は頷いた後、歩き出す。

どうか、何事もありませんように。


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