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Episode17 - SP3&F1


一応出来上がった小型の吸収缶を手に取って良く観てみる。

ちょっとした缶詰のようになっているそれには、何かに接続する為の管が付いていた。


――――――――――

『中間:吸収缶

種別:中間素材

品質:C-

説明:害ある外気を除去する事ができる

   このままでは使う事は不可能

――――――――――


「うん、おかしな所はなし。勝手に煙質が使われてるって事もないね」


設定してあるから問題ない事は分かっていても、紫煙を侵食する代物を扱っている都合上、一応調べておかねば怖いなんてものじゃない。

ガスマスクを普通に使っていたら、突然身体の制御が効かなくなって『想真刀』を片手に周囲の物を斬り続ける……なんて自体も有り得なくはないのだ。

確認できるものはしっかり確認しておいた方が、私も、そして周囲の人も安心できる。


「さて、一応もう一個作って……あとはこれを接続する仮面部分も作って……」


仮面部分の製作に関してはあまり考える必要もない。

吸収缶を作った時の様に、煙鉄のインゴットと、複数の布、そしてガラス片を合成するだけだからだ。

それらが出来上がった後、【観察】を使って確かめた上で、私はメッセージ画面へと向き直る。


「えぇっと……まぁ単刀直入で良いか。そこまで捻った文章とかゲーム内だからこそ要らないでしょ」


初めましての挨拶と、何処で知ったか。

そして今回メッセージを送った目的を打ち込んだ後、それを送信する。

すると、約5分程度で返信が返ってきた。

……うん、話が早くて助かるね。


メッセージの内容を確認した上で、私はルプスを呼び出し、適当な消耗品のアップグレード及び補充を任せた後、マイスペースを後にした。




--紫煙駆動都市エデン・娯楽区


普段、私やメウラが利用している喫茶店よりも、幾分か上品な……上流階級のおばさま方が利用していそうな喫茶店へと足を踏み入れ、少し待っていると。


「申し訳ありません、少し遅れました」

「いや、大丈夫。あんまり待ってないしね。……音桜さんであってる?」

「はい、私が音桜です。レラさん」


紅白の巫女服を着た、淡い水色の髪の女性プレイヤーが現れた。

私が言うのも何だが、中々に奇抜な姿をしているものだ。


「あれ、一応初対面だよね?」

「一部では有名ですよ?赤ずきんそのままの狼耳の女性プレイヤーなんて噂になるに決まってるじゃないですか」

「……あは、そりゃそうだ」


見た目が色物なプレイヤーは大体何処かのタイミングで発見され、そして掲示板か何かで拡散されて独りでに有名になっていく。

私も私で、好きでこんな姿赤ずきんコスをしているものの、私もそういう類のプレイヤーとして噂になっていたようだ。

嬉しいのか嬉しくないのかよく分からない気持ちになってくる。

だが、今回はそんな世間話をする為に集まったわけでは無いのだ。


「で、メッセージを拝見したんですが……」

「うん。デザインをお願いしたくてね。……あ、口調このままで大丈夫?敬語にも出来ますが」

「口調はそのままで大丈夫ですよ。……その、ガスマスクがどう、というのは……?」


音桜に対し、メッセージでは書き切れていない今回の流れを説明していくと。

彼女は少しばかり思案顔となった後、軽く頷いた。


「成程、紫煙技術関係の流れで。……私、まだダンジョンの攻略し切れてないんですが、大丈夫なんでしょうか」

「こうして私の話をきちんと聞けてる時点で問題ないんじゃないかな。ダメだったらそもそも、さっきの話も所々聞こえないようになってると思うし」

「そうなのですね……中間素材を見せていただいても?」

「うん、どうぞ」


上品な喫茶店内で無骨な中間素材を出しても良いものか、と一瞬逡巡したものの。

出さなければ話が進まない為、現状持っている中間素材である吸収缶部分と仮面部分をインベントリ内から取り出した。

私がそのまま作業台で製作しただけだから当然なのだが、本当にそのまま鉄の形が変わっただけのように見えるそれを、彼女はじっくりと……文字通り目の色が変わる勢いでじっくりと見ていた。

……何かしらのスキルだな、アレ。私の【観察】とはまた別の……何だろうなぁ。

聞けば教えてくれるだろうか。そんな事を考えていると、


「レラさん」

「んっ、はいはい?何かな」

「この中間素材を見るに、ガスマスクの形状は顔の下半分を覆う形で合っていますか?」

「合ってるよ。顔全体も考えたけど……まぁ、素材がそっちの方が安かったからね」

「成程、理解しました」


色々と確認が終わったのだろう。

彼女は手に持っていた中間素材をこちらへと返すと、虚空からスケッチブックと羽根ペンを取り出した。

何が始まるのだろうかと見ていれば、彼女はそのまま何かを一心不乱に描き始め……そして出来上がったのであろうソレをこちらへと見せてきた。


そこに描かれていたのは、白黒なのにも関わらず何処か鉄の光沢を感じさせる、イヌ科のマズルのイラストだった。

吸収缶が付いている事からガスマスクのデザイン案なのだろう。


「とりあえずこんな感じの、狼モチーフはどうでしょう?」

「良いね。……一応聞くけど、なんで狼モチーフ?」

「ほら、こう……レラさんの頭の耳に合わせて……」

「コレ私もつけたくてつけてるわけじゃないんだよなぁ……!」


早めにこの後遺症は何とかした方が良いかもしれない。


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