--紫煙駆動都市エデン・娯楽区
次の日。
これから必要になるであろう素材を買い揃えたり何だをしていた私に、メウラからの招集がかかった。
「出来たぞ、各ボスの指輪廉価版だ」
「おぉーありがとう。助かるよ。報酬はボス攻略だよね?」
「あぁ。この後、ソロで挑むつもりだから無理だったら頼む」
「了解」
見れば、彼の装備は昨日見た時よりも少しだけ変わっている。
小さめの革のポーチや、それ以外にも投げナイフや何かしらの液体が入った瓶など、これまで共に戦った時にも見た事がない様な装備を身に纏っていた。
「それがメウラのソロ用装備?」
「そうだな。素材用の小型インベントリやら、相性が良い装備、あとは自衛用が幾つかだ」
メウラの紫煙外装は、モブの素材を使う事で効果を発揮する類のモノ。
だからこそ、彼は彼なりのスタイルでその様な装備をしているのだろう。
だが、少しだけ不安にもなる。
……道中はどうにでもなると思うけど、問題はやっぱり『切裂者』だなぁ……。
あのボスの速度、そして技量を考えると……彼が紫煙駆動を起動する前にやられる可能性も否定できない。
それ以前に、出会って即首を斬られて終了なんてこともあり得るだろう。
「頑張ってね……」
「おい、こっちは挑む前なんだぞ!何だその憐れんだ目は!」
「いやいやいや、一発クリアとかもあるかなって思ってるようん。でも私と同じトラウマも受けてほしいなって」
「お前なぁ……」
しょうがないのだ。
本当にこればかりはしょうがない。一種の洗礼の様なものだと思って欲しい。
【夜塔】はそういうダンジョンだと、私は思っているのだから。
「じゃ、頑張って。私は……多分、連絡くれれば何とか行ける所にはいると思うから」
「オーケィ……絶対一発でクリアしてやらぁ」
荒々しく去っていく彼の背中に両手を合わせつつ、私はマイスペースへと移動する。
私もまた、彼とは毛色が違うものの……新たな挑戦が待っているのだから。
--マイスペース
「さて、修得しよう……イケるかな?」
ルプスに言われ、思い出した廉価版の指輪達。
これらを使って【紫煙技術】を修得出来るかは……正直、ほぼ間違いないだろう。多分。
私には確証はないものの、ルプスというある種プレイヤー専用のお助けNPCからもたらされた情報だ。ほぼ問題ないとは思っている。
だが、それもそれで信じすぎるのも誤りに繋がるだろう事も理解しているのだ。
スキル修得用のメニューを開き、【紫煙技術】の項目をタッチすると。
【ラーニング可能なスキルです】
【必要素材:『信奉者の指輪』、『四重者の指輪』、『解体者の指輪』、『切裂者の指輪』】
【通常版装備の保有を確認。通常版を優先して使用します】
【ラーニングしますか?】
「よし、大丈夫そう。承認っと」
少しだけ不安だったものの。
どうやら本当に問題はなかったようで、特に引っ掛かる事もなく修得できるようだった為、そのまま修得する事にした。
念の為、手のひらの上に廉価版の指輪達を出した上で、だが。
ラーニングが開始されると共に、手のひらの上のそれらが光の粒子となって私の身体の中へと取り込まれていく。
それと共に、身体全体が淡く紫色の光を放ち……ログが流れる。
【【紫煙技術】をラーニングしました】
「……よし、これで色々作れるっていうか……あの作業台がまともに使えるようになったわけだ。
」
私がスキルを得た事によって、ルプスにもその効果が適用される。
これで何か数が必要な物を作りたい時などは従者を頼る事も可能になった。
だが、実際の所、何がどう作れるのかはまだ分かっていない。
管理区の受付はガスマスクがどうたらこうたら言っていたが、私の知っている範囲でもガスマスク以外に様々な用途で使われているものなのだから。
「一旦、何が出来るかは確認すべき、だね」
小さい正方形の部屋へと移動して、その中心に鎮座しているボンベのようなものが左右に付いている鉄製の作業台に再び触れてみる。
すると、だ。
【紫煙技用初級クラフト台を起動します】
【ユーザー認証……完了。プレイヤー名:レラ】
【該当スキル確認】
【--Smoker's are Welcome--】
私の目の前に、作業台を中心に3枚のウィンドウが出現した。
1枚は、何を作るかを選択するウィンドウ。
必要な素材が集まっている物だけが羅列されているようだが、それでもスクロールバーがある辺り中々その数は多いだろう。
2枚目は、ボンベの中身が描かれたウィンドウ。
赤い文字で『STが足りていません』と警告文が出ている為、これはそのままこの作業台の動力として使われているSTの容量及び残量を示すものの筈だ。
そして最後、3枚目はというと。
「これは……私の煙質を出来上がりに影響させるか否か、って感じ?……中々悪さ出来そうなのがあるじゃん」
ウィンドウ内に書かれているそれは、それぞれの煙質がどういった影響を与えるか、その機能をオンにするかなどの所謂設定画面のようなものだった。