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Episode12 - D3


以前、初遭遇した時には調子に乗って素手で受け止めたりなんだをしていたものの。

流石に帯電している相手を素手で受け止める勇気は私には無い。

だが、横に避けようにもあの手のタイプはしっかりと追ってくる。

どこかの狩りゲーの猪のようで、猪ほど簡単に御せない相手。だが、それは二次元的動きしか出来ない場合のみだ。


「結局、ここだと空中コレが一番楽かぁ」


昇華煙によって強化された脚で軽く跳躍を行い、先程と同じ様に紫煙で足場を作り出す。

マノレコはそもそも飛んでいた為、そこまで関係もなかったものの。

今回の鹿……フュルは見たところ、追加で翼なんてものは生えてきているようには見えない。

だからこそ、空へ。

距離を取る事で、一方的に叩けるように。

私にはそちらの方が都合が良いのだから。


「おぉっと、雷か。……あれぇ?」


だが、それは向こうも同じようで。

空から青い雷を降らす事で、空中に居る私に対して当ててきた……のだが。

紫煙の足場が衝撃で崩れたのにも関わらず、私のHPは削れていない。

……衝撃だけ?いや、でもそれだったら……中々弱いままじゃないか?

ダメージはなく、衝撃だけを与えてくる類の攻撃。

それはそれで無くはないだろうが……それだけで紫煙の足場が消えるとも考えづらい。

紫煙の足場を再度作り出しつつ、1回じゃ壊されないように何重にも重ねていく。


「ちょっと後で調べた方がいいかな、これは」


どうしてダメージを受けなかったのか、それを考えつつも身体は止まらない。

手斧の羽根を引き千切り、そのまま力任せにフュルへと投げつけてみれば……先ほどのように群青の勢いはないものの。

それなりの勢いと共に、2つの手斧が帯電した胴体へと突き刺さった。


HP自体の減りはそこまで多くはない。凡そ2、3割程度だろうか。

ダンジョンの視界が悪い為に【過集中】は使っていないものの……【投擲】、そして【斧の心得】を発動させている状態ではあるはずなのだ。

……流石に難度が上がってるからこそ、かな?

だが、削れてはいるのだ。

という事は、時間さえ掛ければ倒せるのだから精神的な余裕はあるだろう。


「毎回毎回使うのも流石になぁ」


紫煙駆動を再度起動させつつ、出現した紫煙の斧に紫電を纏わせていく。

……そういえば、この紫電でもダメージ喰らってないよね、私。

紫煙の斧、そして自身の周囲に漂っている紫煙を様々な武器の形に変え射出する。

だが、ある程度は硬いのかまだまだ耐えているのには少し驚いてしまう。


「あー……試しに使うか」


試しに、紫煙を投げナイフの形にして手に持って。

万が一にも他の紫煙に触れないように操作した後、


「『変われ』」


身体から赤い紫煙のような、靄のようなものが漏れ出ていき……紫煙の投げナイフがそれによって浸食されていく。

一応は【魔煙操作】の効果範囲内らしく、形を崩そうと思えば崩す事は可能だった。

だが、今回はそれをしない。

少しだけピアスの方へと投げナイフ自体が引っ張られているような感覚もあるものの……そこは【魔煙操作】と自前の膂力でなんとかしつつ、軽く鹿へと投げつけた。


『――!?』

「うわ、すっごい」


直接的なダメージはそこまでない。

しかしながら投げナイフが胴体に突き刺さった瞬間、ナイフを中心に赤い紫煙がその身体へと纏わりついていく。

触れれば状態異常に罹るそれが、ナイフという形で突き刺さったのだ。

外皮なら兎も角、内部にまで至ってしまえば……その耐久の高さも関係ない。


「えぇっと、吐血に……あのエフェクトは毒かな?あとは……なんだろうあれ。黒い泥みたいなのが垂れ落ちてるな」


口からは血が吐かれ、頭からは緑色の泡が浮いては消え。

身体からは黒い泥のようなものが滴り落ちる。

他にも見えない部分で色々な効果が表れているのだろうが、怨念の怖さがこれだ。

怨念さえ延々供給できるのであれば、延々と状態異常を付与し続ける事が出来る。

過剰供給してしまえば操作不可能状態になるらしいが……それも相手が敵性モブならば別に関係ない。

敵性モブなんて元々操作不可能状態のようなものだからだ。


「HPゲージの減り方すっごいなコレ。ダメージ与える系のデバフが何個もスタックしてるのか?」


加速度的に増えていくデバフに比例するように、視界の隅に映る赤褐色のゲージが減っていくのも見えている。

どうやら、一度怨念に変えた投げナイフを霧散させる、もしくはゲージが無くなるまではそのまま効果が続くようで……単体相手だったら時間は掛かるもののコレだけで十分なようだった。


……スキルを乗せられるように投げナイフにしたけど、纏わりつかせられれば何でもいいなコレ。

【投擲】によって精度が上がるから良いものの、怨念さえ付与させ続けられれば良いのだから。


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