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Episode10 - SP3&D1


――――――――――

【怨煙変化】

起動キー:『変われ』

効果:紫煙を怨念に変化させる

説明:恐怖は、畏れは、絶望は伝播する。

   白を染め、赤く黒く、何物も見出さない混沌へと。

――――――――――


「あちゃー……」


天を仰いでしまった。

私が想像していた内容から180度反対。それも、扱いを間違えればSTを根こそぎ持っていかれる類だろう、これは。

次いで、怨念に対するトピックスが開放されたので【怨煙変化】の詳細ウィンドウの横に表示して読んでみる。


――――――――――

■怨念


生物から発せられる負のエネルギー。

想いが強ければ強いほど、発生する怨念は増え、周囲を侵食し汚染する。

上手く扱えば薬にも、状況を覆す刃にもなるが、一歩間違えば怨念に支配され周囲に怨念をばら撒く機械となるだろう。


『怨念』:触れた者に対し、スタック値を消費しランダムな状態異常付与

スタック値が一定以上となると制御不可能となる


――――――――――


「厄ネタじゃん。文字通り」


だが、想像していたよりも悪くはない。

直接的な攻撃手段ではないものの、今まで私が持っていなかった類の攻撃手段を埋められたと考えるべきだろう。

フレーバーテキストに書かれている通り、上手く扱う事が出来れば、今まで厳しい戦いを強いられた相手にもある程度良い勝負をすることが出来るはずだ。


だが、それも『想真刀』の存在を知らなかったらという前提がある。

……アレは、ピアスに怨念が一定以上込められたらとかだったっけ。

怨念を媒介としている以上、これを迂闊に使ったらどうなるか想像には難くない。

それに、あの時は様々な要素が重なった上で『想真刀』を使用する事へのデメリットが無くなっていたはずなのだ。

怨念のトピックスにあるような制御不能状態に陥っていた記憶はないし、何なら本当に自由勝手に刀を振るっていたのだから。


「……ま、どっかのタイミングでやらないといけない事だし……丁度良いか」


一定値以上の怨念、というのがどれくらいのモノなのか。

許容量を知っておく事で、私自身で限界を見定める事が出来るようになる、というのは大きい。

あの刀を自分の意志で操る事が出来るのであればかなりの戦力になる事は間違いない。

それに付属する形で、相手に状態異常を押し付ける怨念が使えるのであれば……それなりの強さになる事だろう。


「よし、じゃあ物は試し、という事で……」


私は消耗品等を補給した後、マイスペースを後にした。




--【峡谷の追跡者 Hard】1層


【ダンジョンへと侵入しました:プレイヤー数1】

【PvEモードが起動中です】

【どうやらここはセーフティエリアのようだ……】


「試すならここだよねぇ」


私が最初に攻略したダンジョン、その新たな難度であるHardモード。

挑んでいなかったものの、紫煙外装が強化され煙質という新たなコンテンツを解放した今、挑まない選択肢はないだろう。

それに、どうせなら『信奉者』のネックレスが本当に特殊戦利品なのかも確かめておきたい。


「見た目は変わらずか」


セーフティエリア内の様相は、特段普通の【峡谷】と変わりはない。

昇華煙、具現煙の煙草を取り出し、口に咥えながら外に一歩出てみると、


「おぉ、夜だ」


マップの時間帯が昼から夜へと変わっていた。

ほぼ完全な闇の中、私は煙草に火を点す事で心もとない灯りを調達する事にして。

少しずつ前へと進んでいくと……それは聞こえてきた。


何かが羽ばたくような音。

それと共に、息を荒く吐く音が連続して私は悟る。

前半は兎も角、後半の音はこのダンジョン内で聞いた事があったからだ。


「……ッ!そんなのあり?!」


見上げ、ようやっと暗闇に慣れてきた視界に映ったのは、こちらへと突撃するように飛んでくる狼・・・・・・の姿だった。

口の端からは青い炎を零しているそれは、どう見ても私の知っているマノレコおおかみの姿とはかけ離れている。

それが、3体。難度が上がる前と同様に複数体が襲い掛かって来ていた。


「ッ!」


だが、私もそれに対応出来ないわけでは無い。

寧ろ、空中という場に相手が居てくれるのは好都合だ。

……これも普段の行いってねッ!

【観察】のHPバー表示効果によって、ざっくりとした相手の位置を把握しつつ、私は周囲の紫煙を操って空中へと躍り出る。

紫煙さえあるならば、空中であろうがどこであろうが私にとっては即席の戦場になり得るのだから。


一度、二度、三度とこちらへ炎が唾液のように滴る口を開きながら突っ込んできた狼達を躱した後、再び上昇していくその姿を見ながら手斧を召喚し、


「さぁ、実戦で使っていこう!『煙を上げろワイルドハント』」


鷲の羽根を1枚、力任せに千切って構える。

狙うは、先頭で飛んでいる1体へ。

余計なスキル【過集中】は使わずに、私は軽くボールを投げるかのように手斧を投擲した。


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