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Episode9 - SP2


【狼煙】はまだ分かる。

私が普段から狼に関連した戦い方をしていたり、もしかしたら赤ずきんコスこの格好も関係しているのかもしれない。

言葉の意味的には少しどころか結構外れているものの、納得はできるだろう。


だが、【怨煙変化】はあの戦闘だけが原因で獲得可能となっているのであれば……少しばかり話が違うと言いたいものだ。

名前だけを見れば怨念か何かを煙へと、紫煙へと変える事が出来るのかもしれないが、それはまた別だろう。

何せ、『切裂者』との戦闘で出現したあの刀は、紫煙とは掛け離れた赤い靄から出来たモノなのだから。


それぞれの詳細は分からない。

そこにあるのはフレーバーテキストだけであり、効果の内容を察するには足りていない。

だが、取らないという選択肢はなかった。


「これ取れば、もっと強くなれるだろうし……それに、『想真刀』についても知れるかもしれないしね」


【【狼煙】を獲得しました。STに貯蔵された紫煙に変化が生じました】

【【怨煙変化】を獲得しました。STに貯蔵された紫煙に変化が生じました】


瞬間、私の身体の中に変化が起こったのを感じた。

今まで噛み合っていなかった歯車がスムーズに動き出したかの様に、身体の調子が良くなったかの様に、肩の重荷が外れたかの様に。


それと共に、視界の隅に見えていたSTゲージの下に新たに2本のゲージが出現した。

片方は群青色の、もう片方は赤褐色の小さなゲージだ。


【【狼煙】起動用キーを設定してください】

【【怨煙変化】起動用キーを設定してください】


「あーそういう感じか」


パパッとそれらしい言葉を考え、設定するものの。

視覚的に分かりやすく表示されるものだなと思う。

想像していた限りでは、もう少し分かりにくいというか……紫煙を吐く度に全ての煙質が混ざった状態で出てくるのかと思っていた。


「よし、設定完了っと。……見てみるかぁ」


まずは【狼煙】の詳細から見ていこう。


――――――――――

【狼煙】

起動キー:『煙を上げろワイルドハント

効果:纏った状態での初行動時にボーナス

説明:狼煙を上げよ。理由は何でもいい。

   敵襲の、反撃の、伝達の煙を空高く上げるのだ。

――――――――――


「なんか知らないルビ追加されてるじゃん……それにしても、初行動時限定のボーナスねぇ」


何やら勝手にシステム側に追加されているものの。

【狼煙】の効果自体は分かりやすい。

STから紫煙を引き出す事は……まぁ稀にしても、一度身体の中に入れた紫煙が対象になるのであれば、昇華煙や具現煙の過剰供給時に効果を発揮してくれる事だろう。

それ以外にも、紫煙駆動などにも適用されるのであれば……それなりに面白い事になってくれそうだ。


「えーっと……試しに使ってみるか。――『煙を上げろ』」


意識して言葉を発すると、私の身体から群青色の紫煙が漏れ出るように放出されていき、それと共に視界の群青色のゲージも減っていく。意識すれば放出する量も絞れそうだ。

【魔煙操作】によって操作する事も可能で、普段やっているように身体に纏う事も出来る。

ここから何か行動する場合にボーナスが付くのだが……生憎とこの場はマイスペースであり、軽率に手斧を投げたりなんてことは出来ない。


「やれること……ジャンプとか?」


軽くその場で跳びはねてみれば、纏っていた群青が減ると共にマイスペース内の天井へと手が付いてしまう。それなりに高く、軽く跳んだ程度では絶対に手を付く事なんで出来ないはずの天井に、だ。

しかしながら、再度軽く跳ねてみてもそこまで高くは跳べない。

……成程、正しく『初』行動なのか。

ステータス強化とは違う形でボーナスを加えてくれる、と考えれば良いのだろうが……実態はまた違うのだろう。


この群青の紫煙を纏ってからの初めてした行動らしい行動全てにボーナスが乗るとするのであれば……これを使う場面はほぼ決まったようなものだ。

なんせ、軽いジャンプですらここまでの強化具合。

これを攻撃に転用したならば……今まで以上に投擲の威力が跳ね上がる事だろう。


「良いねぇ、楽しみだ」


【狼煙】自体は【魔煙操作】によって身体の中へと戻す事で効果を終了させる事が可能なようで。

戻した分だけゲージが元に戻っていくのも確認できた。

減った分に関しては、現在貯まっている普通のSTからゆっくりと【狼煙】用のゲージへと変換されていっているようだ。自動でやってくれるのは助かる。


……さて、と。

問題本題はここからだ。


「【怨煙変化】、見てみないとダメだよねぇー……」


もう片方の、赤褐色のゲージに目を向ける。

今まで見てきたオーラのような色じゃないのが逆に違和感があるものの……同じであったなら警戒しかしていなかっただろう。

願わくば、未だ詳細の分からない怨念というリソースを紫煙へと変化させるような効果を持っていて欲しい。

そう考えながら、私は【怨煙変化】の詳細を開いた。


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