謎空間内ではあるものの、一応昇華煙と具現煙の過剰供給状態を解除していき。
私は追加されたというトピックスを確認しようとした瞬間、少し離れた位置に紫煙が集まっていくのを感じた。
「もしかして二回戦目ぇ……?」
身体の中から排出した紫煙を周囲に集めつつ、手斧を手の中に再召喚し直して。
集まっていく紫煙を警戒していると……それは少しずつ先程倒したはずの白い私を形成していった。
やはり再戦か、と思い手斧を投擲しようとしたものの。
『――ッ!』
「ん……?戦う意志はない、って感じ?」
両手を上へと挙げながら、頭を左右に振って敵意がない事を伝えてきた為、一応手斧を下げてから近づいてみる。周囲の紫煙を武器の形へと変え、その全てを白い私へと向けた状態で、だ。
一見敵意が無いように見えても、相手がどういう存在であるのかも分からない。
そもそもこの空間自体が何なのかよく分かっていない中で、一度襲い掛かってきた相手をすぐに信用するほど私は能天気でもお人好しでもないのだ。
そんな私に怯えているのか、身体を震わせながらも白い私はこちらへと何かを手渡してくる。
……これは……枝?
青白く光る、枝のように見える物。
持ってみれば、重さはないものの簡単には折れそうにはない硬さもあるのが分かる。
「うわ、紫煙出てるじゃんこれ」
よくよく見てみれば、枝からは薄っすらと紫煙が漏れ出ているのが分かった。
しかし【魔煙操作】によって操れる類のものではないらしく、指で触れても思念で操作しようとしても反応を示さなかった。
だが、唯一反応を示したものが存在する。それは、
【『外装一式 - 器型一種』の等級強化を開始します】
【『縁煙の枝』の所持を確認】
【新たなる可能性を選択する事が可能です】
私の手の中にある、未だ脈動を続けていた手斧だ。
青白く光る枝に呼応するかのように、紫煙を垂れ流しつつ少しずつ手斧自体が空気に溶けていく。
次第にそれは手斧から、このゲームで一番初め……ガンマから紫煙外装を渡された時と同じ、黒1色のルービックキューブのように変わってしまった。
それと共に、私の目の前には2つの半透明のウィンドウが出現する。
「新たなる可能性、ねぇ」
そこに書かれていたのは、それぞれどんな要素を手斧に追加するかというもの。
だが与ダメージ追加などの想像しやすい追加要素ではない。
片方には雷のように光る星が、もう片方には弓から放たれる白い狼の姿が描かれているだけで、何がどう追加される等の文章は書かれていない。
……普通に考えるなら、ここで選んだものが手斧の追加能力として追加されるんだろうけど。
脳裏に浮かぶのは、まだ記憶に新しいイベントでの戦闘だ。
黒外套、禍羅魔、そしてもう1人が使っていた紫煙外装はどれも私の手斧のような単一の機能だけを持っているわけでは無かった。
「雷、星……弓、狼……んんー?」
彼らと同じように、追加能力を得る事が出来るのであれば上々だろう。
しかしながら、心配事も勿論ある。
これを選んだ事による使い勝手の変化や、弱点の追加だ。
前半の問題は仕方ないにしても、後半は今までのプレイスタイルを維持出来ない可能性すら出てくる為、下手に情報がない状態で選択が出来ない。
こちらの選択を待っているのか、未だ消えていない白い私に視線を向けてみても首を傾げるだけで何かヒントをくれたりはしないようで。
……うーん。ここは選ぶしかないか。
出来れば私のスタイルに合っている能力が来ますように。
そんな事を願いながら、私は雷のように光る星のウィンドウを選択した。
【可能性αが選択されました】
【『外装一式 - 器型一種』の新たなる可能性が開花していきます……】
ログが流れると共に、私の手の中にあった黒いルービックキューブと青白い枝が独りでに浮かび上がり……空中で混ざり合いながらその形を変化させていく。
その形は手斧のように見えるものの、以前とは違うモノ。
片刃であるのは変わらずに、その反対側には鷲の羽根が意匠として3枚ほど添えられており。
柄の部分には、青白い五芒星が描かれている。
大きさ自体は変わらないものの、見た目が変わった手斧がそこにはあった。
【『外装一式 - 器型一種』の等級強化が完了しました】
【名称が『外装一式 - 器型一種』から『外装二式 - 亜器型一種』へと変化しました】
【Tipsが追加されます。詳しい説明はオンラインサポートを――】
ログが流れ、周囲の空間が崩れていく。
白い私はこちらへと笑いかけると共に、自身の胸を指さした後に霧散していった。
それが何を意味しているかは……分かっているものの。
「詳細は……後で、マイスペースでかな」
次第に景色が再構築されていき。
気が付けば、私は【世界屈折空間】の巨大な門の前へと戻されていた。
試しに再び門へと触れてみると、
【世界屈折空間中層へと移動が可能です。移動しますか?】
と書かれたウィンドウが表示された為、一応次の段階は開放されたようだった。
だが、今すぐに挑むつもりはない。急いでいるわけでもないし、一度マイスペースへと戻るべきだろう。
「どう変わったのやら。楽しみだねぇ」