--紫煙駆動都市エデン・娯楽区
【死亡しました】
【デスペナルティ30m:全ステータス
「ふぅー……助かるよ、ありがとう」
「お、おぅ……」
という事で、【霧燃ゆる夜塔】を攻略してから数日後。
私は丁度時間のあったメウラに、適当なダンジョン内で倒してもらう事で欠損していた両腕を取り戻した。
素材回収も兼ねて『信奉者』を狩りに【峡谷】へと潜っていたのだが……紫煙の腕の使い勝手が予想よりも良かったせいで中々デスペナルティを喰らう事がなかったのだ。
「で、挑むのか?」
「挑むよ。……何が待ってるかは知らないけどね?」
「まぁ俺も知らないんだがな。……というよりも、調べても出てこないだろ」
「だねぇー。攻略状況で得られる情報が分かってくるなんて偶然じゃないと気が付けないよ」
私もメウラも、【世界屈折空間】の中央にある扉の先の事は何一つ知らない。
一応は最低限調べてみようとは思ったのだ。
しかしながら、掲示板で調べてみても不自然に引っ掛からない。
それどころか、同じように質問している者が居たのにも関わらず、誰も触れずに流されていくというのをリアルタイムで観てしまった。
その上で、メウラの知り合いの検証系のプレイヤーを呼んでもらい色々試してみた所……プレイヤー同士の情報共有には縛りが存在している事に気が付けたのだ。
「ま、実際に効果を見せたりすればいいってのは実証済みだからな」
「『四重者の指輪』とかね。アレは装備の詳細を見せたからとか、そういう抜け道的な意味合いもありそうだけど」
話しつつ、インベントリ内の消耗品の数や現在の装備品などを確認していく。
私を倒すという用事が終わったメウラがこの場に居るのも、装備の点検なども兼ねている。
何せ、数日前とは言え【墓荒らしの愛した都市】と【霧燃ゆる夜塔】の2つのダンジョンを駆け足で攻略しているのだ。
あまり装備関係に明るくない私には分からない不具合などが出ていてもおかしくはないし、1つ心配な事もある。
それは、
「……やっぱり変な所はねぇな」
「あーやっぱり?」
「あぁ。こっちじゃどう見ても普通のピアスにしか見えねぇよ」
『真斬のピアス』。
『切裂者』との戦闘中に発現した『想真刀』はこのピアスによる代物なのは、ログが残っている為間違いはないだろう。
しかしながら、製作者であるメウラにはそれらしいシステムを使った記憶はなく、それらしいものを作れる技量もない。
ある程度ゲームが進んでいけばまた扱えるようになるものではあるのだろうが……心配の種であるのには変わらない。
「んー……ま、いいや。何とかなるでしょう」
「良いのか?」
「どう観たって問題がないって事は、ゲーム的なロックが掛かってるとか、そういう偽装能力を持ってるとかだろうしね。それらを私達のどっちかがどうにか出来るようにならないと話にならないよ」
だが、心配し続けていても仕様がない。
今はこの後に挑む【世界屈折空間】の門について考えるべきだろう。
「レラが良いって言うなら俺は何も言わんが……よし、他の装備は問題ねぇぞ。アップグレードはしなくていいんだな?」
「うん、しなくて良いよ。上位互換じゃなくて同列の素材しかないしね」
「了解。じゃあ……気張れよ」
「あは、言われなくても」
そう言って、私とメウラはいつも通りに別れ……そのままの足で、私は【世界屈折空間】へと向かった。
--【世界屈折空間】
【【世界屈折空間】へと侵入しました:プレイヤー数1】
【ミニマップが更新されました】
いつものログが流れると共に、巨大な門が視界の中へと映り込む。
しっかりと確認したのは『信奉者』を倒した後ぶりだろうか。あの時は1つしか輝いていなかった宝石が、今は4つとも光を放っている。
「赤、青、緑、黄色。うん、ダンジョンの門と同じ色で輝いてるね」
何があるか分からない為、一応手斧を出現させた後に煙草を2本取り出しておく。
1本はいつもの狼皮で作った昇華煙の煙草。
そしてもう1本はといえば、
「初お披露目、『上薬草の煙草』。わーぱちぱち」
育て方が良かったのか、【簡易菜園】で偶然取れた上薬草という素材を使用した具現煙の煙草だ。
今では主にルプスが様子を見ているものの、たまにこのような上位互換系の植物が採れるらしく……珍しくテンションが上がっていたのを思い出し少しだけほっこりしつつ。
私はその2つの煙草を口に咥えて火を点した。
……今更だけど、現実じゃ絶対出来ないよねぇこんな吸い方。
世の中にはやっている人もいるだろうが、確実に少数派だろう。
私もゲームでなかったら確実にやらないし、やる気も起きない。
「最終準備……よし、完了。行くか」
昇華、具現の効果がしっかりと出ている事を確認した後に、私は巨大な門へと手を触れる。
すると、だ。
【屈折上層門に接触しました】
【『遺者』4体の討伐を確認。資格所有者に認定】
【資格所有者の接触を確認。門を開放します】
ログが流れると共に、私の目の前の巨大な門がゆっくりと内側に開いていく。
同じ【世界屈折空間】の向こう側が見える……なんてオチはなく、中は白い紫煙によって覆われており、外からは内部の様子は分からないようになっていた。
息を一つ飲み、ゆっくりと吐き出して。
私はその中へと足を進めていった。