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Episode25 - BR


--マイスペース


「と、言うわけで帰ってきたわけだけど」

『……どうするんですか?』

「どうもこうも出来ないよねぇ」


紫煙の腕を維持した状態で戻ってきた私は、何とかルプスを呼び出すことに成功した。

一瞬、指輪とか腕ごと消えてるけど問題ないのだろうか、とか考えたものの……システム的に装備状態となっていれば問題がなかった様で。

今はルプス以外の2人も呼び出した上で、消耗したアイテム類の補充を手伝ってもらっていた。


「指輪がない状態で呼び出してるけど、そっちの問題は?」

『現状は特に。……いえ、ドゥオやトレスとの感覚同期や記憶同期に普段以上の遅延がみられますね』

「あちゃ、そういう問題が出たか。ちなみに動き的には?」

『一部スキルの同期が上手くいきません。【観察】などは問題ありませんが、やはり腕を使う類……【煙草製作】などの生産系スキルは誤差範囲ですが普段よりも効率が下がっていますね』

「成程」


思ったよりも問題はあったようで。

しかしながら、死ぬ以外に腕を治す方法は見つかっていないのも現状だ。

もしかしたら紫煙外装によっては治せる類の能力を持っているのかもしれないが……生憎と、私の手斧はそんな便利なものではないし、知り合いにもその類の能力を持っている者は居ない。


「ま、腕に関しては適当に……ボスの連戦とかしてればその内死ぬでしょ」

『……何だかんだで長引きそうですね』

「あは、私もそう思う」


最悪、メウラに頼んで一度死んでおいた方が確実だろう。

そんな会話をしつつ、私はマイスペースに置かれた椅子の上で胡座をかきながら今回の戦利品を確認していた。


今回得た敵性モブ達の素材は、基本的には私の装備には使えない。

ミストサシェの身体となっていた布切れなんかは外套のアップデートに使えるかもしれないが、それだけだ。

だが、ボス素材は違う。


「えぇーっと……今回は肉や骨は無し。……そもそも肉体無かったしね」


他の3体とは違い、生物的な素材は報酬には含まれていない。

代わりにと言わんばかりに、刀やナイフ、戦闘中は使っていなかった西洋剣の破片など、様々な刃物の破片が討伐報酬としてインベントリ内に詰め込まれている。

それに加え、


「怨結晶、ねぇ」


試しにインベントリ内から実体化させてみると、『切裂者』を構成していた靄と同じ黒色のオーラを纏った灰色の結晶が1つ出現した。

討伐報酬の中でもレアな物なのだろう。他の破片類はそれぞれ3個ずつほど入手出来ているのに対し、怨結晶だけは1つしかインベントリ内に入っていない。

ボス戦中の『想真刀』の事と言い、後でしっかりと調べた方が良いだろう。


「……ま、今はこっちか。どこにも着けてなかったけど、まぁいつものって事で」


怨結晶の詳細は今は置いておいて。

私はインベントリ内に追加されていたMVP報酬……『切裂者の指輪』の詳細を確認していく。


――――――――――

『切裂者の指輪』

耐久:100/100

種別:指輪

品質:EX

効果:危険域の表示

説明:『切裂者』が着けていた金属製の指輪

   怨の力に親和性が高い

――――――――――


「危険域の表示ぃ……?」


今まで得た3つの指輪とはまた別方向の能力に、頭の中に疑問符が浮かぶ。

何はともあれ、試してみれば分かる事だと指輪を装備しつつ。

近くで私のサポートをするために待機していたウヌスに適当な刃物の破片を持たせた後、


「ちょっとこれ持って、私に向かって突き出してくれる?」

『……良いのですか?』

「うん、いざとなったら紫煙の腕で防ぐから」

『畏まりました』


瞬間、私の首元目掛けて破片を突き出してくるウヌスの腕をすぐさま止める。

それと同時、『切裂者の指輪』の効果も理解した。

……危険域はそのまま、危険な位置って事ね。

私の視界の端には、赤く『!DANGER!』と書かれた文字がスクロールし続けている。

試しにウヌスから刃物の破片を回収してみると……その文字は消えてしまった。


「危険物があるか否かってよりは……こちらにダメージを与えるモノが近くにいるか否かって感じかな」

『そういうものですか?』

「そういうものだよ。その証拠に、暖炉に近づいても私の視界に警告文は出てないからね」


淡い光と熱をこちらへと放つ暖炉の前へと立ってみても、私の視界は特に変化はない。

紫煙外装である手斧を自分で持っていたとしても、変化はない。

手斧を適当にテーブルの上に置いたとしても、警告文は出現しない。

だが、ウヌスに持たせてみた瞬間……出現した。


「うん、そういう事らしいね。ある意味で索敵系のスキルの代用として使えそうだ」

『素直に修得すればいいのでは?』

「……ここまで来たら、取らないのも良いかなって」


言い訳をしつつ、椅子に深く座り直す。

これで4つ、【世界屈折空間】の中央に出現した巨大な門に嵌められた宝石の数と同じ数のダンジョンを攻略する事が出来た。

腕を再生させてからか、それともこの後に行くかは考えるものの……『門を開ける』という当面の目標は達成したと言うべきだろう。

……サブ目標は……まぁ途中途中で色々出来たり達成してたかな?

今のサブ目標は禍羅魔の打倒で間違いないだろう。その達成の為に自力を上げていくというのもそうだ。


「次のメイン目標は……門の先で、かな」


暖炉の前で、煙草に火を点す。

最近はスキルの兼ね合いもあって、吸う事が多い『薬草の煙草』。

その薬のような匂いが周囲に漂っていくのを目で観つつ、口に咥え煙を肺に入れていく。

解放されたであろうコンテンツ、それがどんなものかを想像しつつ……心の中に芽生えていく好奇心を今は少しだけ抑えながら息を吐いた。


紫煙はまだ、広がっていく。




――――――――――

プレイヤー:レラ

状態:魔煙術後遺症軽度:昇華煙


・紫煙外装

『外装一式 - 器型一種』


・所有スキル

【煙草製作】、【投擲】、【観察】、【フィルター加工】、【背水の陣】、【斧の心得】、【回避】、【過集中】、【魔煙操作】、【隠蔽工作】、【複製】、【状態変化】


・装備

赤き信仰のボディス、赤き信仰のドレススカート、赤き信仰のグローブ、赤き信仰のロングブーツ、赤き愉悦の外套、『信奉者の指輪』、『四重者の指輪』、『真斬のピアス』、『解体者の指輪』、『切裂者の指輪』


・■■■■

【狼■】、【怨■■■】

――――――――――


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