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Episode22 - D4


風を切る音と共に、人型モブが警棒を振るう。

硝子の割れるような音と共に、紫煙の槍は砕かれたものの……相手の振るった警棒にも僅かとは言えない程度には亀裂が入った。

……茶色なのに木製じゃないなアレ。

本気ではないとは言え、かなりの力を込めた一投。

しかしながら完全に反応された上で防がれた。


「んー……」


打つ手はまだある。

昇華の過剰供給によって人狼と化しても良いし、紫煙駆動を起動させて紫煙の斧で切り裂いたって良い。

何なら目の前の相手を無視して、空中から階段にアクセスしても良いのだ。

だが、それでは後に続かない。


今回はまだ1体しか出てきていない為にそれでも良いかもしれないが、今後集団で出てきた時にそれ以外の対処が分からないというのは問題だ。

……近接も、投擲もダメってなると……一旦連続攻撃かな。

槍を作り出すのに使ったと言っても、周囲に漂う紫煙の量はまだまだ多い。

インベントリ内の煙草を使えば更に増やす事も出来るのだからまだ余裕もある。


「ま、試しは試しって事で――」


思念によって周囲の紫煙に干渉し、その全てを槍や剣、斧など様々な武器へと変化させ。

固体にした後にその全てを人型モブへと射出した。

すると、


「――おぉ?」


一撃、二撃程度までは余裕を持って防いでいたものの。

三撃、四撃と続いていくとその身体に傷が付いていく。

そしてそれが五、六、七以上になれば……身体に穴が開き、HPが大きく削れていった。


「正解はこれかな」


【魔煙操作】によって、壊れない限りは延々と相手を狙い続ける紫煙の武器達。

相手の迎撃能力の限界値は分からないものの、コスパ的には今の私の中でもトップクラスに良い対処法だろう。

問題はこれが複数出てきた時、互いに互いを庇う様に防がれた場合だが……そちらに関しては、素直に紫煙駆動などの切り札を切ればいい話だろう。


【ミストジェイラーを討伐しました】

【ドロップ:壊れた警棒×1】


「おっ、終わった」


名前的に看守で正解だったのだろう。

私のスキル構成や、紫煙外装的には相性は悪い相手ではあったが……それでも倒せるのが分かったのならば問題はない。

消費してしまったSTを補充しつつ、対面の階段へと近づいて行った。



その後の2層の攻略は順調と言えば順調に進んだ。

ミストサシェを大量に伴ったミストジェイラーが出てきたり、1層よりも濃い霧が発生している部屋で方向感覚すらも失いかける等、道中少しばかり危険な場面もあったものの……基本は順調に進んでいる。

問題があるとすれば、


「……これで20階くらい?まだまだあるのぉこれ……」


無駄に2層が上に長い事だろうか。

途中途中で広間の攻略をせずに階段へと跳び移りつつ、自身に出来る最高速で進んできたものの。

流石に20階も似たような階層が続いていると気が滅入る。

……今更下に戻る気もないし……再挑戦する時はここには来ないだろうなぁ。

一応、敵性モブの素材自体はそれなりの数を回収出来ているのが救いと言えば救いだろうか。


「だぁーもう!面倒臭い!」


だが、流石に我慢の限界だ。

私はどうなっても良いように周囲の紫煙を自身の身のまわりへと集めつつ、紫煙駆動を起動した。

何をするつもりなのか?簡単な事だ。

どこまで上があるのか分からず、道中にある無数の広間が鬱陶しいならば、


「――壊せるなら、壊しちゃえば解決だよね!?」


紫煙の斧の形状を、柄の部分を短くする代わりに刃の部分を大きくすることで威力特化へと変化させ、手斧を構える。

次いで、昇華煙を腕へと集める事で限定的に人狼化しつつ、【観察】によって天井部……次の広間の床面の脆そうな部分を観て探し。

具現煙をいつでも纏えるようにしておきつつ、通常の紫煙をナイフの形に変え、自傷する事で普段使っていない【背水の陣】すらも発動させ、一息。

手斧を投擲した。


瞬間、空気が破裂するような音が周囲に響き渡る。

今までにない速度で飛んでいった手斧、そして紫煙の斧は天井なんてなかったかのように貫通し破壊して突き進んでいく。

空中に紫煙の足場を作る事で落ちてくる瓦礫を避けつつも、手斧が飛んでいった方向を注意深く観てみれば……何やら黒いものが見えた。


「あれも……広間か」


だが、これまでとは様子が違う。

建材が違うと言えばそれまでだが、何か威圧感のようなものが発せられているように観えたのだ。

普通に考えればただの気のせいで済ませられるものの、ここまでの経験から否と私の勘は告げている。

あれがこの階層のゴールであり、3層……つまりはボスの居る階層なのではないか、と。


「セーフティエリアはあるのかな……まぁ入る前に全部の準備は終わらせておくか」


階段からではなく、投擲によって空いた穴から紫煙を足場に昇っていきつつ、私は手早く戦闘用の準備を整えていく。

ノリで【背水の陣】の発動条件を満たした所為で、ほぼHPが無いに等しい為、具現煙を一瞬だけ過剰供給する事で一気に回復させつつ。

インベントリ内から適当な煙草を複数本取り出し、口に咥え、火を点す事で紫煙とSTを補充して。

自動回収機能によって戻ってきた手斧の紫煙駆動を停止させた辺りで、私は黒い広間へと繋がる扉の前へと到着していた。


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