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Episode21 - D3


--【夜燃ゆる夜塔】2層


「あー……今度はそういうタイプか」


塔の内部へと侵入してみると。

壁に生えるような形で存在している階段が私の事を待ち構えていた。

螺旋階段を巨大に、塔の規模にしたようなものだろうか。

外はほぼ周囲が見えなくなる程に濃かった霧も、塔の内部には入り込んでいないのか視界自体は外よりも良い。


軽く階段へと手で触り、目で観て安全なのを確認した後に昇りだす。

どう見ても昇る以外に選択肢もなく、これで上から下へと戻るパターンであったなら……一度帰ってから再挑戦した方が精神衛生上良いだろう。


「……2階とか、そういう要素ってよりは……多分モンスターハウスとかそういう類かなぁこれ」


周囲を警戒しつつ、階段を昇っていくと1つの扉が見えてくる。

普通に考えるのであれば2階に辿り着いたのだろうが……ここはダンジョンであり、侵入者を襲う敵性モブが存在している環境だ。

塔の内部2層に侵入してから1度も敵性モブに出会っていない状態で、こんなあからさまな扉なんてものを用意されたら警戒するなという方が難しいだろう。

今一度、消耗品などや自身の状態を確認した後……私は扉を開いた。


扉を開いた先は巨大な広間のようになっており、丁度対面側に上へと昇る階段が見えていた。

しかしながら……その途中。

広間の中央には1つの影が存在している。


「あれは……警察?看守?」


警察か、看守か。

どちらかは知識が無い為分からないものの、それらしい制服を着た人型のモブがそこには立っていた。

ソレの表情は分からない。何故ならば、通常頭部が存在している位置には何もなく……代わりと言わんばかりに丸く形成された霧がそこにはあったからだ。

どういう知覚の仕方をしているのかは分からないものの、扉から中に入った私の方へと向き直り、警棒を取り出している。


……1体。匂いは無いけど……ミストサシェ1層の件があるから警戒はしておこうかな。

向こうからは近づいては来ない。

こちらがまだ扉の前から動いていないのもあるだろうが……迎撃型の可能性もある。


「んー、そうだね。1本吸うか」


私はインベントリ内からST用の煙草を取り出し、そのまま口に咥えて火を点ける。

それを敵性モブは見守っているものの……中々この状況はシュールだろう。

しっかり味わい、しっかりとSTが回復したのを確認した後。

私は一気に足に力を込めて地面を蹴った。

一息。

その間に私の身体は人型モブの目の前まで運ばれ、手斧を振るう。


これまで戦ってきたボス以外のモブならば大抵は反応出来ないであろう攻撃。

しかしながら、私の手に伝わったのは肉を断つ感触ではなく硬いものを打った甘い痺れだった。

観れば、相手は手に持っていた警棒をしっかり自身の身体と手斧の間に差し込んで反応している。

……あんまり人型との戦闘経験は……道化師も含めて良いんだったら結構あるか。言い訳出来ないな。


視界が問題ない以上、【過集中】を意識して発動させながら様々な方向から手斧を振るう。

イメージするのは、『人斬者』の太刀筋を。

袈裟を、胴体を、そして脚部を。それぞれを紫煙による姿勢制御をしながら狙って振るう。

身体が速度についてこれず持っていかれそうになれば、紫煙の手によって無理やりに軌道修正しつつ。

無理に重心を下へと持っていきすぎて前のめりに倒れそうになるのを、下から支えるようにして倒れないように。

振るい、防がれ、薙いで、躱され、叩いて、弾かれる。


「ほんっとうにモブかよ君ぃ……!」


一度離れ、再度観てみるものの……相手のHPバーは削れていない。

こちらの攻撃の精度が拙いというのはあるかもしれないが、それでもここまで完璧に防がれてしまうと挑み方に問題があるのではないか?と思ってしまう。


「……本当に、こっちから動かない限りは動かない」


考え無しに突っ込む前に、相手の性質を知る必要があるのかもしれない。

そう考え……適当に紫煙によって槍を作り出し、手にもって構える。

突く為ではない。投げる為だ。

……一回、長物でどう反応するのかは見ておかないとね。


近接戦闘がいけない場合も、手斧のようにリーチの短い武器がダメな場合も、そのどちらも考えられる。

ならば、一度そこから離れた位置にあるものを使って確かめていった方が色々と考えられて良いだろう。

検証の材料は多ければ多いほどいい。

だが、これで倒せるならばそれでもいいのだ。どうでも良い道中の相手なのだから。

私は検証班ではないし、詳しい検証なんてものは別のプレイヤーに任せておけばいい。

重要なのは、あの人型モブには今の所興味も関心もない、という所なのだから。


「込められるだけ力を込めて……【斧の心得】は乗らないけど、まぁ【投擲】は乗るから良いとして……」


いつか動画で見た、槍投げの選手のしていたフォームを思い出しつつ。

私は肩を引き、半身を回し、しっかりと投げられるように構え。

息を吸って、短くそれを吐くと同時に槍を投げた。


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