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Episode19 - D1


--【霧燃ゆる夜塔】1層


【ダンジョンへと侵入しました:プレイヤー数1】

【PvEモードが起動中です】

【どうやらここはセーフティエリアのようだ……】


流れるログは他と変わりはない。

1番最初にセーフティエリアに飛ばされるのも、そしてその中が薄暗いのも同様だ。

しかしながら、


「霧、濃いなぁ……」


ダンジョン名にもある、霧が既にセーフティエリア内に流れ込んできていた。

これ自体は特にデバフなどを与えるものではなく、単純な自然現象としての霧と同じもののようだが……如何せん、その濃さが問題だ。

室内で、まだ流れ込んできているだけだから良いものの、それだけだというのに部屋の細部が見えなくなる程度には霧が濃い。


今でこれなのだから、外に出たら……ほぼほぼ視界は塞がれていてもおかしくはないだろう。

……んー、昇華は切らせないし、道中は【過集中】は使えないな。

視覚に頼らない索敵を行える昇華を普段使いしている私にとって、視覚が使えないというのは戦闘を行うという意味ではあまり問題は無い。

しかしながら、【過集中】や【観察】といった意識せずとも使っていたスキルを使うには難しい環境であるのも間違いはない。


「ま、出たとこ勝負って事で……行こうか」


外へと続く扉へと手を掛け、そのまま押し開く。

すると、目の前に広がっていたのは予想通り白い壁のようになった濃霧だった。

その中でも、街灯のようなオレンジ色の灯りが点在しているのが分かる。


「また外国調?……いや、少しだけ様式が違うのか」


そして灯りに照らされる形で浮かび上がっているのは、英国圏に似た街並みだった。

【墓荒らし】とはまた違う様子に少しだけ興味を惹かれながらも、私は一歩前へと足を踏み出していく。


……ダンジョン名の【夜塔】は……アレか。

下手すれば1メートル先も満足に見渡せない中、かなり離れた位置に巨大な建造物があるのを発見出来る。

塔だ。

夜という時間、霧という視覚制限の所為で何で出来ているかは分からないものの、塔がそこにある、というのだけはハッキリと分かった。


「とりあえず、あそこに向かって走ってみようか」


いつも通り、昇華煙の効果を発揮させた上で走る為に足に力を入れた瞬間。

突如、私の耳元に鈴の音が鳴り始める。

……どこだ!?

『真斬のピアス』による危機察知能力によるものであると理解すると同時、それが発動している理由が把握できない為に私は混乱した。

危険な臭いも、不審な物音も、そのどちらもしていなかった為だ。

だが、鳴っている事自体は事実。

ならば、と私は跳んだ。前方へも、後方へでも、左右にでもない。

上にだ。


昇華煙によって強化されたステータスによって跳躍した後、再度【状態変化】によって固体にした紫煙を足場に跳ぶ事で一気に空中へと躍り出る。

空中から敵性モブが来ていない前提ではあるが、生物的なモブならば羽ばたきなどの音がするだろうし、それ以外でも霧の流れで何かが居る事自体は見えるはず。

それが無かった為に、上へと一旦避難したのだ。


「人型か!」


そうして、私が下を……先ほどまで自分が居た位置を見てみると。

そこには、顔を紙袋で隠し目の部分だけを丸く開けた、如何にも泥棒風の人型敵性モブがこちらを見上げていた。

右手には包丁を握りしめ、左手には何やら大きな白い袋を担いでいるそれは、どうやら空中に居る相手に対する攻撃方法を持っていないようで。

何やら騒いでいそうな身振り手振りをしているのが見えていた。


……なんで臭いが無かったのとか調べたいけど……。

再度、紫煙を足場に跳躍し空中に留まりながら考える。

一度ここで戦闘しておくのは、今後の2層の攻略の役に立つだろう。

1体でも特徴を知っておけば、複数との戦闘になった時に崩しやすいのは間違いない。

だが、気になっているのは嗅覚にも聴覚にも引っ掛からずに私に近づき攻撃してきた点だ。


無論『真斬のピアス』の能力があれば、危険ではあるが対処は出来るだろう。

しかしながら、この危機察知能力も万能というわけではない。

それこそ、禍羅魔にやられた時には能力が発動していなかったからだ。


「ま、でも気になっちゃうよねぇ」


だが……そうやって考えている間にも、私の心の内から好奇心あくまが顔を出し始める。

単純に気になるのだ。

狼の嗅覚、聴覚に引っ掛からないステルス性能。

手に持っている白い袋の中身。

興味が湧かないと言えば、嘘となる。


「……やろう。後悔はしないはずだし、後悔しても自分の所為って事で」


そうして、私は戦う事に決めた。

一度決めてしまえば、一気に覚悟は決まるもので……全力とは言わないものの、周囲の紫煙を纏うように操りながらも、人型敵性モブが待っている所へと降りていく。

否、


「でもファーストアタックは勿論貰おうかな!」


敵性モブの頭部目掛けて落下していく。

安全な着地?そんなものは考えていない。

足裏が相手の頭部に着くと同時、鈍い何かが折れたような音と共に敵性モブの首が下方向へと曲がってしまう。

それと共に、再度軽く宙返りのように跳躍する事で改めてきちんと着地し、相手を見てみれば、


「うわぉ、私がやった事だけど……君それで生きてるのかよ」


確実に首の骨が折れていると思われる、人型敵性モブがこちらへと包丁を振り上げ走って来ていた。

戦闘開始だ。


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