「――よし、じゃあ本題だ」
『ですね。どう設置しますか?』
「一応、菜園用の部屋は作業部屋から繋がる所に作れたんだけど……どうするかなって感じ。まずこれ何が作れるんだ?」
掲示板を覗いてみると、それらしいスレッドは見つける事が出来た……ものの。
詳しく何が栽培出来る等の話題ではなく、農法がどうだの、収穫サイクルがどうだのと、少し先の話をしているように見えた為、参考にするのは一旦やめておくことにした。
この先で詰まる事があれば、そこで掲示板に頼れば良いだろう。
……普通に考えれば、植物類が作れる筈だよねぇ。
簡易菜園というからには、普段私が生産区で買っている薬草くらいは作れるだろう。
だがそれ以外……野菜類などが作れたとして、料理系のスキルを持っていない私にとっては無用の素材となってしまう。
ちら、とルプスの方を見てみれば、
『……あぁ、私はご主人様の所持スキルの影響を受けますので』
「だよねぇー」
こちらが考えている事を読んだ上で回答してくれた。
つまるところ、結局薬草以外使えそうなものが作れない限り……かなりのスペースの無駄となってしまう可能性が高い。
といっても、現状の私の煙草のメイン材料は薬草であり、出費の大半も薬草が占めている以上、少しでも節約にはなるのだが。
「うん、ともあれ設置設置!」
ハウジングメニューから菜園用の部屋に対して【
菜園用の部屋の中に木の板で囲われた四角い土の塊が出現した。
名前の通りそこまで大きくはなく、学校などの花が植わっているプランターがちょっと大きくなった程度の大きさだ。
……なんか、ポタジェとかやれそうなタイプが出てきたなぁ。
ヨーロッパ圏で歴史ある菜園であるポタジェ。
その特徴はなんと言っても、様々な野菜や草花を混植する事にある。
『これは……そういう事ですか?』
「そういう事だろうねぇ。……えぇっと、ルプスはコンパニオンプランツとかって分かる?」
『えぇ、概要程度ならば。それも現実の、と頭につくものですが……』
コンパニオンプランツ。
簡単に言えば、2種類以上の植物を近くで育てる事でお互いがお互いに良い影響を与え合う組み合わせの事であり、現実でもポタジェにおいて用いられるものだ。
例えば、トマトとバジルを共に植える事で味を良くしたり。
ジャガイモとマリーゴールドを共に植える事で害虫を遠ざけたりと、組み合わせや種類によって様々な効果を見込む事が出来る。
ただ、それは現実の話であり、このゲーム内も同様に通用するとは限らない。
特に、このゲームには未だ自由に触れる事すら出来ていない紫煙技術なるものも存在しているのだ。
下手にコンパニオンプランツが出来るかもしれないからと言って手を出したら……どんな効果を引き起こすかも分からないのだ。
まぁ、実際にソレが出来るかと言われたら確かめてみない事には分からないのだが。
「しっかり使えれば色々悪さも出来そうだけど……」
土に対して手を翳す。
すると、新たにウィンドウが2枚出現した。
1枚は現状の土の……このプランターの様子。
そしてもう1枚は何を植えるかを選択できるウィンドウだ。
プランター自体の様子は特におかしい所は見当たらない。
水分量や肥料の有無など、簡易と名の付いていたものの最低限必要となる情報自体はこれだけで確認できるようだ。
だが、何を植えるか選択するウィンドウの方が少し問題だった。
……多いな、コレ。
ざっと見ただけでもかなりの種類が栽培可能だ。
それこそ先程話していた料理用に使えそうな野菜だったり、私が主に使っている薬草だったりを始め、現実では漢方に使われるものや、紫煙草なんていうよく分からないものまで載っている。
そのどれもがゲーム内通貨さえ足りていれば苗を買う事が可能となっているのだ。
「一種のエンドコンテンツだなぁコレ」
簡易でコレ、という事は本格的に菜園や農地……生産区の外周部にあったアレらを扱えるようになった場合、かなりの幅が広がるはずだ。
これを専門にするプレイヤーも出てくるだろう。
……だから掲示板はあんな感じになってたのか。
ここにきて、何故掲示板に書き込んでいるプレイヤー達があんな内容を話していたのかを理解した。
「いやまぁ、私は専門的にやるわけじゃないし……薬草をメインで栽培しておけばいいか」
『スキルはどうしますか?』
「あーその問題もあったか……いや、ちょっとスキル無しでやろうか。ラーニング出来る可能性はあるし、だからこそルプスはこっちの世話はしなくていいや」
『畏まりました』
流石に菜園関係をガッチガチにやるわけでもないのに、素材を使ってスキルを修得は出来ない。
ラーニング出来て、尚且つ菜園の収穫量が中々良さそうならば……熟練度目当てにルプス達と共に世話をしても良いかもしれないが。
今回は薬草の苗を購入し、簡易菜園へと植えてみる。
システム的に4つの苗しか植えられなかったものの、中に水の入ったじょうろが勝手に出現し、水やりを行う事が出来た。
その際にSTが減っているのが視界の端に映った為、恐らく水の補充か何かに使われたのだろう。
「よし、じゃあログイン中の水分が足りなくなったり、収穫できるようになったら教えて」
『畏まりました。……では、次に?』
「うん、行ってくるよ。――最後のダンジョンに」
少しだけ脱線してしまったものの……ここからが本番だ。