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Episode16 - B2


斬り飛ばされた所為なのか、腕は合計で4本ほど生え……その内1本は地面の土を弄っている。

胴体部はそんな腕を支える為なのか、それとも他の影響か……妙に脈打つコブのようなものが2つほど出現し、その大きさも一回りどころか三回り以上は大きく変化した。

両足はそんな身体を支える為か、馬のような蹄を付けた3本の巨大な足が生えている。

そして頭部はと言えば、


『『Fuuu……Fuuu……』』

「あは、完全な化け物だねぇ」


先程までは仮面であったはずの女性の顔が融合しており、男と女のどちらもがこちらを睨むように視線を向けていた。

だが、これで戦いやすくもなった。

大きくなるという事は、膂力も上がる為に厄介にはなるが……その分、的も大きくなるのだから。


身体が安定したのか、『解体者』はこちらへと向けて駆けだした。

先程よりも速く、一瞬で私の目の前へと移動しその巨大な腕を振り上げる。

だが、その腕が振り下ろされる事は無い。

紫煙で出来た巨大な腕が、それを支えていたからだ。


「うん、余裕はあるね」


【状態変化】、【魔煙操作】によって作られた紫煙の腕。

それを複数作り出し、今にも動き出そうとしている他の腕も全て拘束していく。

動かせるようならば、そのまま元々動かない方向へと動かしていき……小気味いい音と共に『解体者』の腕に力が入らなくなる。

だが、それは今も地面を弄っている腕以外の3本だ。


……少しだけ心配だけど……うん、やろう。

手斧をしっかりと持ち、胴体へと向かって横に振るう。

肉を裂く、というよりは何かゼリーのようなものを叩いて潰したかのような感触と共に、胴体の肉がごっそりと減っていく。

同時、更に紫煙の斧が胴体へと襲い掛かり……その胴体の大部分を吹き飛ばした。

だが、これでもHPはそこまで減ってはおらず、凡そ半分程度も残っている。


「でもこれだけだったら余裕……ッ!?」


これ以上は別段変わるものはないか、と思い手斧を振るおうとした瞬間。

『解体者』の最後の1本の腕が地面から引き抜かれ……こちらへと振るわれる。

それを先程と同じように紫煙の腕で受け止めようとしたものの、


「ぐ、うぉ?!」


紫煙の腕は真正面から砕かれ、私の身体全身を拳が叩き吹き飛ばされ墓地にある幾つかの墓を破壊する。

その拳には肉だけではなく、白く硬いものも含まれていた。

……人骨か!

【観察】するまでもない。白い骨のメリケンサックの様なものが『解体者』の拳に纏わりついているのだ。

こちらのHPはまだ問題はない。

なんなら具現煙の効果ですぐに回復し始めているが……STの残量も考えるとそこまで時間も掛けられないだろう。


「ふぅー……使いたくはないんだけどなぁ」


昇華煙と具現煙の煙を周囲から集めつつ、私の身体に纏わせ……一気に変化させていく。

だが、昇華煙の濃度は抑えめに、具現煙の濃度だけを高くする。

これ以上昇華煙の後遺症を重いものにしたくはないからだ。


【注意!具現煙の濃度が濃すぎる為、アバターに影響が残る可能性があります】

【スキル【鎮静】を使う事で影響を薄め、完全に消し去る事が可能です】


インベントリから複数の煙草を取り出し、火を点して口に咥えながら立ち上がる。

私の身体は、いつもよりも人狼みは薄いものの……身体の節々には草や花が生えていた。

複数の煙草を吸っているのにも関わらず、STが少しずつ減っていくのを確認しつつ、私は地面を蹴って一気に加速する。


『Wo!?』

「こんな所で苦戦するわけにはいかないんだよ、ごめんね」


私の足が弾けるように血が溢れ……次の瞬間には元に戻っていく。

手斧を握りしめると、腕から血や骨が弾けるように溢れ、そして元に戻る。

具現煙の影響で力のリミッターが外れているのかもしれない。だが、今はそれでいいだろう。相手を殺す為には丁度良いのだから。


再び振るわれた腕を、新しく作り出した紫煙の腕で一瞬受け止め……骨のメリケンサックに向けて手斧を投げる事で、腕自体を破壊して。

それと共に【魔煙操作】によって紫煙の斧を操る事で、胴体を切り刻んでいくと……吹き飛ばされていく肉の中に、輝くものを見つける事が出来た。

人の頭蓋骨と、何故か透明な袋の中に入った心臓だ。


それらを観た瞬間、『解体者』の再生スピードが跳ね上がる。

まるでそれらを私から守るように、隠すように。


「それが弱点か」


周囲の紫煙を様々な形へと……槍や剣などの形へと変え。

先程見えたモノらがありそうな位置へと叩きこんでいく。

勿論、私自身も足や残っている腕や関節などに対して攻撃を加え続けていけば。

いつの間にか、肉はほぼ吹き飛び、骨は砕け、凡そ人の形をしていない何かと、頭蓋骨、心臓が残った。


……うん、やっぱり強くはなってるんだなぁ。

そんな事をふと思いながら、私は丁寧にそれらを砕いて回った。


【『解体者』を討伐しました】

【MVP選定……選定完了】

【MVPプレイヤー:レラ】

【討伐報酬がインベントリへと贈られます】

【【墓荒らしの愛した都市】の新たな難度が解放されました】

【【世界屈折空間】に変化が起きました】


「……ふぅー……」


【魔煙操作】によって、身体から具現煙を抽出しつつ。

私はその場に座り込んだ。

濃い血の臭いと、紫煙の臭いが場に留まっているものの……一度休憩はしておきたいのだ。

足早に倒してしまったものの、そこまで弱いというわけではない。

元より『信奉者』や『四重者』と同格の相手ではあるのだ。


だが、正直今は弱く感じてしまう。

『人斬者』のような殺気がないからだろうか。

禍羅魔たちのように圧倒的な暴力を見せつけられなかったからだろうか。

どちらにしても、今の私の推奨レベルではないのだろう。


「次はもうちょっと慎重に行かないとなぁ……」


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