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Episode15 - B1


--【墓荒らしの愛した都市】3層


【どうやらここはセーフティエリアのようだ……】

【扉の奥から強大な存在の力を感じる……】


「次はもうちょっと本当に考えてから鏡の対処をしよう」


肉体的には疲れないはずの仮想空間で、何故か疲れて棒のようになったかのように感じる腕を休ませつつ。

私は3層のセーフティエリアへと訪れた。

1層のセーフティエリアと変わらないものの、少しだけ空気が冷たく感じる。

それにここにきて、微かに血の臭いが漂ってきていた。


……まぁ、今まで出てきたモブを考えると当然か。

ここまで出現したのはいずれも家具。しかしながら、その装飾には基本的に人間由来の素材が使われていた。


「どうなるかは出たとこ勝負、かなぁ。いつも通りだけど」


現状の消耗品を確認した上で、STの回復と昇華煙、具現煙の維持も行った所で一つ息を吐く。

集中力自体は問題ない。連続で長時間の戦闘を行ったらまずいかもしれないが、今までの経験上……ボス戦がそうなるとは思えないのだ。

……ST的にも、手数的にも煙草は欠かせないな。

最悪、火を点した煙草でも口に咥えながら戦おうかと思いつつ、私は外へと出る扉を開け放った。





――――――――――――――――――――


おぉ、俺の愛した都市よ!

完成まではあと少し、少しなんだ。

家は出来た。街並みだって再現出来た。


だが……家具だけは納得いく物が作れない。

どんなに良い素材を使っても、どんなに俺の技術力が高くなっても。

何かが違う、そう感じてしまうのだ。


あぁ世界としよ、俺に傑作を。

うれいを晴らす力を。



……似非神父と狂ピエロの力を感じるな。

良い素材になりそうだ。


――――――――――――――――――――


そこは、何処かの墓地だった。

空には丸い月が浮かんでおり、少し離れた位置には木造の小屋が1つ。

そして私の真正面には1人の男が立っていた。

海外のドラマか何かに出てきそうな、金属製のクワを持った農夫のような恰好をした男。

しかしながら、彼が身に着けているものの中には……一般的には忌避されるようなものが含まれている。


人の指を使って作られたベルト。

人の皮膚らしきものから作られた脛当て。

人の骨であしらわれた、何の革で出来ているか分からないブーツ。

そして、一番目を惹くのは彼の顔だろう。

精巧な女性の顔をした仮面を付けているのだ。


「……」


身体の制御が戻る。口に咥えた煙草からは紫煙が揺れている。

一瞬にも、酷く長いようにも感じる時間の中……私の煙草の灰が地面へと落ちた。

瞬間、


『ァア!』

「ッ!」


男がクワをこちらへと振り下ろそうと飛び掛かってきたのだ。

だが、その速度自体は遅い。

まだ【過集中】も発動していない私のステータスで余裕をもって避けられる程度の速度でしかない。


【『解体者グール』との戦闘が開始されます:参加プレイヤー数1】


……遅いだけなら対応は出来る、けどッ!

私は少し大げさに『解体者』の攻撃を避け、距離を取る。

それと共に、先程私が居た位置の地面へとクワが突き刺さり、


「うげぇ、そういうタイプ?」


その場に1人は入れるであろう穴を瞬時に作り出した。

掘ったわけでは無い。『解体者』が持つクワが原因か、それとも『解体者』自身が持っている性質なのかは分からないものの……アレに触れたりするのはやめておいた方がいいだろう。

特に絶対に身体で受けてはいけない。

風穴どころか身体が残れば良い方なはずだ。


幸いにして『解体者』自体の動きは遅い。

今もこちらへと駆け寄ってこようとしているものの、一瞬空中へと逃げてしまえば距離を取る事自体は容易い。

だが、それも長くは続かないだろう。

……身体、大きくなってるなアレ。


少しずつ、『解体者』の身体が変化しているのだ。

最初に見た時は成人男性の平均程の大きさだったのに対し、今はそれよりも一回りほど大きくなっている。

今も右足の一部が変に膨張し、それに合わせるように肉が膨れ上がっていくのが目に観えた。


「時間を掛けるとまずい系、かな。それか学習系」


言いながら、紫煙駆動を起動させ……一度、手斧を投擲してみると。

『解体者』の左腕を斬り飛ばす事に成功し、次いで紫煙の斧を【魔煙操作】で操る事で右腕も斬り飛ばす。

……予想以上に脆い……けど、HPが全然減ってないな。


『ォ、ォオオオ!』

「……あっちゃ、対処ミスかなコレ。初見じゃ分からないって」


だが、それがトリガーになってしまったのだろう。

彼の身体が更に膨張し、何なら斬り飛ばしたはずの両腕が独りでに動き取り込まれていく。

まだ人だったその姿は既に人とは言えない程に大きく、そして異形と化した。


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