--【墓荒らしの愛した都市】3層
【どうやらここはセーフティエリアのようだ……】
【扉の奥から強大な存在の力を感じる……】
「次はもうちょっと本当に考えてから鏡の対処をしよう」
肉体的には疲れないはずの仮想空間で、何故か疲れて棒のようになったかのように感じる腕を休ませつつ。
私は3層のセーフティエリアへと訪れた。
1層のセーフティエリアと変わらないものの、少しだけ空気が冷たく感じる。
それにここにきて、微かに血の臭いが漂ってきていた。
……まぁ、今まで出てきたモブを考えると当然か。
ここまで出現したのはいずれも家具。しかしながら、その装飾には基本的に人間由来の素材が使われていた。
「どうなるかは出たとこ勝負、かなぁ。いつも通りだけど」
現状の消耗品を確認した上で、STの回復と昇華煙、具現煙の維持も行った所で一つ息を吐く。
集中力自体は問題ない。連続で長時間の戦闘を行ったらまずいかもしれないが、今までの経験上……ボス戦がそうなるとは思えないのだ。
……ST的にも、手数的にも煙草は欠かせないな。
最悪、火を点した煙草でも口に咥えながら戦おうかと思いつつ、私は外へと出る扉を開け放った。
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おぉ、俺の愛した都市よ!
完成まではあと少し、少しなんだ。
家は出来た。街並みだって再現出来た。
だが……家具だけは納得いく物が作れない。
どんなに良い素材を使っても、どんなに俺の技術力が高くなっても。
何かが違う、そう感じてしまうのだ。
あぁ
……似非神父と狂ピエロの力を感じるな。
良い素材になりそうだ。
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そこは、何処かの墓地だった。
空には丸い月が浮かんでおり、少し離れた位置には木造の小屋が1つ。
そして私の真正面には1人の男が立っていた。
海外のドラマか何かに出てきそうな、金属製のクワを持った農夫のような恰好をした男。
しかしながら、彼が身に着けているものの中には……一般的には忌避されるようなものが含まれている。
人の指を使って作られたベルト。
人の皮膚らしきものから作られた脛当て。
人の骨であしらわれた、何の革で出来ているか分からないブーツ。
そして、一番目を惹くのは彼の顔だろう。
精巧な女性の顔をした仮面を付けているのだ。
「……」
身体の制御が戻る。口に咥えた煙草からは紫煙が揺れている。
一瞬にも、酷く長いようにも感じる時間の中……私の煙草の灰が地面へと落ちた。
瞬間、
『ァア!』
「ッ!」
男がクワをこちらへと振り下ろそうと飛び掛かってきたのだ。
だが、その速度自体は遅い。
まだ【過集中】も発動していない私のステータスで余裕をもって避けられる程度の速度でしかない。
【『
……遅いだけなら対応は出来る、けどッ!
私は少し大げさに『解体者』の攻撃を避け、距離を取る。
それと共に、先程私が居た位置の地面へとクワが突き刺さり、
「うげぇ、そういうタイプ?」
その場に1人は入れるであろう穴を瞬時に作り出した。
掘ったわけでは無い。『解体者』が持つクワが原因か、それとも『解体者』自身が持っている性質なのかは分からないものの……アレに触れたりするのはやめておいた方がいいだろう。
特に絶対に身体で受けてはいけない。
風穴どころか身体が残れば良い方なはずだ。
幸いにして『解体者』自体の動きは遅い。
今もこちらへと駆け寄ってこようとしているものの、一瞬空中へと逃げてしまえば距離を取る事自体は容易い。
だが、それも長くは続かないだろう。
……身体、大きくなってるなアレ。
少しずつ、『解体者』の身体が変化しているのだ。
最初に見た時は成人男性の平均程の大きさだったのに対し、今はそれよりも一回りほど大きくなっている。
今も右足の一部が変に膨張し、それに合わせるように肉が膨れ上がっていくのが目に観えた。
「時間を掛けるとまずい系、かな。それか学習系」
言いながら、紫煙駆動を起動させ……一度、手斧を投擲してみると。
『解体者』の左腕を斬り飛ばす事に成功し、次いで紫煙の斧を【魔煙操作】で操る事で右腕も斬り飛ばす。
……予想以上に脆い……けど、HPが全然減ってないな。
『ォ、ォオオオ!』
「……あっちゃ、対処ミスかなコレ。初見じゃ分からないって」
だが、それがトリガーになってしまったのだろう。
彼の身体が更に膨張し、何なら斬り飛ばしたはずの両腕が独りでに動き取り込まれていく。
まだ人だったその姿は既に人とは言えない程に大きく、そして異形と化した。