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Episode13 - D2


--【墓荒らしの愛した都市】2層


2層に足を踏み入れた、と言っても別段1層と変わる所は無い。

地下にあるわけでも、血の臭いがするわけでも、どこかの建物の中でもなく、ただ単に1層と同じ展示ルームのような空間が目の前には広がっていた。


「……逆に変わらないってのが怖いな……」


だからこそ、逆に警戒する。

新たな敵性モブが出現するのはほぼ確定だというのに、ほぼ雰囲気は変わらない。

それは、このダンジョンに出現する敵性モブ達が奇襲に特化しているのもあるだろう。

……新規のモブもそっち系かな。

言ってしまえば、私の現状のスキルや昇華煙は生物に対してのものが多い。

だからこそ、慎重に動かねばならない……のだが。


「【隠蔽工作】使っても良いんだけど……」


スキルを使わずに都市の中へと一歩踏み出した。

正直な話、ここで何も使わないのは私の悪い癖が出ているだけだ。

新たな相手がどんな奇襲をしてくるのか。それに伴って既存の敵性モブ達がどのような連携をしてくるのか、してこないのか。

それらを考えた時に、見てみたいと、体験してみたいと思ってしまったのだ。

故に、今の私を動かすのは好奇心。


……いつも通りっちゃいつも通りだしね。

そもそも普段から索敵しているかって言われると、そうでもない。

昇華煙や【観察】によって、意図せず見つけてしまったりすることはあるものの。

それを狙ってやるスキルは未だ修得していないのだから、ある種いつも通りなのだ。


「まぁそれはそれとして」


手斧を遠くに見えた光源へと向かって投擲し……少し遅れて硝子が割れた音がした。

【墓荒らし】の中で、私が現状把握している一番厄介な敵性モブはランタンだ。

光源に擬態し、光源に居るプレイヤーを周囲の味方に報せ、影を襲撃させる。

他のダンジョンに出現する敵性モブと比べても殺意が高いモブと言えるだろう。


「とりあえず2層の攻略も光源をどうにかしてから探索していこう」


相手だけが動ける状況はあまり面白くはない。

どうせなら、暗闇の中でお互いに何処に何が居るのか分からない状態でやっていく方が平等で楽しくなっていくはずだ。

インベントリ内からST回復用の適当な煙草を複数取り出し、火を点け。

周囲の紫煙を手斧の形へと変化させていく。


「変わった所は沢山あるからね。……主に手数とか?」


STが回復するのを良いことに、周囲に生み出した紫煙の手斧を更に【複製】によって倍の数へと増やし。

更に【状態変化】で固体とする事で、きちんとダメージを与えられる状態へと変化させていく。

決してボス戦やよーいドンで始まるプレイヤー間の決闘では出来ない準備。

だが、今は特段周囲から襲われているわけではなく……そして、確実にこの後の探索には手数が必要となる。

ならば、どんな相手が来ても手数が足りるように準備を行うべきだろう。


……影道化みたいなのが来たら無理だけどね。

流石にそんな相手は来ないとは思いたいのだが。




そうして、探索しつつランタンを壊していると。

3層へと続く階段を発見する事が出来た……のだが。


「ん?なんだアレ」


その階段の前には、1つの大きな鏡が置かれていた。

巨大な、言うなれば一軒家用の姿身とでも言うべきだろうか。

大きさ以外にも、フレームの部分には人の白骨死体が多数使われていたり、宝石のように目玉が所々にあしらわれているのが目に観える。


……確実に敵性モブ、だろうなぁアレ。

特徴的にも他の【墓荒らし】に出現する敵性モブと似通っている為、ほぼ確定だろう。

問題はその形状、というかモチーフの家具だ。

ランタンは光源関係での特殊能力。テーブルはその頑丈さがそのまま敵性モブとしての頑丈さに。

本棚はそこまで交戦経験が無い為に詳しい事は言えないが、本を飛ばすなどの本棚としての特徴はあるだろう。

ならば、鏡といえば?


「姿のコピーかなぁ」


鏡は姿を映すモノだ。

それが鏡の特徴であり、使用方法であり、世間に認識されている道具モノだ。

だからこそ、それを敵性モブに落とし込むのであれば……コピーを作り出すというのが一番自然だろう。

だが、既にこのダンジョンには私の姿を似せた影を作り出すランタンが居る。


「まずは様子見だね」


周囲の紫煙の手斧ではなく、自身の紫煙外装である手斧を鏡に向かって軽く投げる。

倒す為の一撃ではなく、どういう反応をするのかを確かめる為の一撃。

一応【投擲】や【斧の心得】、昇華煙が乗っている状態のそれは、脆い相手ならば倒せてしまう程度にはダメージが出るものだろう。


――しかしながら、次に空間内に響いたのは鏡の割れる音ではなく、鉄同士がぶつかる音だった。

……そういうタイプ、かぁ。

私は観た。

鏡の中から私の紫煙外装と瓜二つの手斧が飛び出し、空中で互いにぶつかり合ったのを。

そして鏡の敵性モブとしての能力をある程度把握したのだった。


「さぁて……これは長くなるぞぉ」


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