辿り着いた其処は、地獄のような場所だった。
広がるは炎と氷。
それぞれが周囲の森を侵食し、森の中に広場を無理矢理作り出している。
そしてその中心にいるは、2人のプレイヤーだ。
1人は、紫煙外装らしき黒い2つのヨーヨーを使い。
もう1人は、剣を片手に持ちそれに対して大きく立ち回っていた。
但し、共に近くには紫煙の塊が出現している。
ヨーヨーの方には、紫煙で出来た2つの車輪が周囲に炎を撒き散らし。
剣の方には、内部に黒い人型の様な何かを中心に据えた紫煙の巨人が冷気を垂れ流しているのだ。
影響の規模だけで言うならば、巨人の方が大きいだろう。
巨躯も、そしてそれに伴う膂力も存在しているのだから。
しかし、それでも攻めきれていないのは単に車輪が起こしている火の勢いが凄まじいからだ。
……え、これ同じプレイヤー?
明らかに私とは持っている力の総量が違う。
火勢も、冷気も、それらを発している紫煙も、そしてそれらを操るプレイヤーの技量も、端から観ている限り、私以上なのは間違いない。
「おらァ!そろそろ逝けや!」
「すまないが、そうはいかない。本戦にリーダーが出れなかったなんてウチの名が廃るからな」
「関係あるかァ!!」
ヨーヨーを使う、ライオンの鬣のような髪型をしたプレイヤーの動きが加速する。
観れば、片方のヨーヨーをタイヤのように使う事で推進力を得ているようだった。
だが、それに巨人側も進行方向に氷の壁などを配置する事で対応し、誘導した先に巨人を配置する事で距離を再び取らせるという……遅延でありながら負けない戦い方をしていた。
バトロワに勝つならば、この2人をどうにかして倒さねばならないのだが……今のところ、何の方法も浮かんでは来ない。
【状態変化】や【魔煙操作】を使った所で状況を一変させられるような何かは作れないし、私の紫煙外装はあの2人のように炎や氷を出す事は出来ないし、それを補えるような攻撃速度も攻撃力も持ち合わせてはいない。
……でも、明らかに私の紫煙駆動とは違うね。パッと観ただけで発動してる効果が2つある。
片や、紫煙の車輪から炎を。
片や、紫煙の巨人から冷気を。
そも、私やメウラが見せた紫煙駆動を思い返してみれば、その効果は紫煙の何かを作り出す事であって間違いないはずなのだ。
それなのに、今目の前にいるプレイヤー2人や黒外套はその先……作り出した上で、何かしらの追加効果が生じている。
「……凄いなぁ」
つい、そんな言葉が漏れてしまった。
その瞬間、
「ァ?」
「ふむ?」
目の前の2人の視線が、こちらへと集中する。
だがすぐさま動き出しはしない。
目の前の2人は片方が動けばもう片方がそれを刺しに行くのだろうし、漁夫と思われても仕方ない私は動いた瞬間に2人からの攻撃が殺到するのが分かっているからだ。
「あ、あっはは……見逃してくれたりとか……するかい?」
「んな事するわけ」
「ないだろう」
「だよねぇえええ!」
直後、私へと攻撃が殺到する。
ヨーヨーに、炎の車輪。巨人の拳に、巨大な氷柱。
それらが無数に、そして広範囲に渡って飛んでくるのを見た瞬間、私の耳元のピアスが鈴の音をけたたましい音量で鳴らし始める。
だが、それに今反応している余裕はない。
瞬時にその場から後方へと跳びつつ、周囲の紫煙に触れる事で空中に足場を作り出し、更に跳ぶ。
昇華煙、【過集中】によって強化されているステータスでは紫煙で作られた足場は一度使うと簡単に砕け散ってしまう。
だが、それでいい。一瞬の加速さえ出来れば一気にその場から離れる事くらいは出来るのだから。
木々にぶつかりそうになりつつも、それらを逆に足場とする事で来た時よりも数段速い速度で森の中を突っ切っていき、後方を一度ちらと見る。
先程のプレイヤーのどちらの姿もない。
流石に全力で逃げていたからだろうか、追うのを諦めたのか、それとも再び2人での戦闘を始めたのか……分からない。分からないものの、森の出口付近まで来た所で大きく息を吐いた。
「はぁー……あっぶなぁ……逃げ切れたかな?」
「――だと良いなァ?オイ」
「……は?」
瞬間。私の視界が横にブレる。否、倒れていっている。
何故か?理由は簡単だ。
「次はちっとは戦えるようになってから出てこい」
ヨーヨーが私の頭部を横から強打したからであり、私のHPはそのまま一気に削り取ってしまったからだ。
最後に少しだけ動く身体を使って、逃げてきた方向を見てみれば……先ほどまでは普通の森が広がっていたはずが、森林火災が起きたかのような惨状へと変貌している。
先程戦闘中に行っていたヨーヨーでの高速移動を、車輪の方で行ったのだろう。
「次もよろしくお願いします……」
「おう、待ってらァ」
そこで、私の視界は黒へと落ちた。
【予選敗退しました。会場観客席へと移動します】
【この戦いによってデスペナルティは発生しません】