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Episode1 - Prologue


■1人のプレイヤー


いやぁ、紫煙外装。いいじゃないですか。

普通のナイフよりも便利で、蹴りよりも強力で。

それがプレイヤー毎に固有の能力を持っているだなんて、PvPをやる人からしたら天国じゃないですか?

どうやっても乱数紫煙外装の所為で、対策を事前に組めたもんじゃない。


私?私は……別に。

決闘狂いでもなければ、相手の血肉を喰らいたいわけでもない。

自身の技を試すのは敵性モブで良いし……自分の知らない全てを視たいわけでもない。

ただ私は観光がしたいだけですから。

……いやまぁ、こんな都市じゃあ当分の所そんな観光だなんて無理でしょうけど。


だからこそ、です。

私はこの紫煙外装を持っていて、強化次第では何処へだって行けるのでしょう。


さぁ、貴女のそれは、貴女を何処へ連れていってくれるんですか?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



■レラ


頬を掠めるように、刀が通り抜けていく。

致命傷はない。ただ私の身体は既にボロボロだった。

多くの切り傷に加え、四肢の至る所に打撃の痕。

それに加え、既に昇華の煙の濃度が薄すぎるのか……人狼へと変化させている部位が、時折ブレるように元の人へと戻ってしまっている。


だが、私の目の前に立つ男もそれなり以上にはボロボロだった。

綺麗だった編笠は既に壊れ、羽織袴には私と同じように切り傷が刻まれている。

それに加え、手に持つ刀には多くの血が滴っており……きちんと血潮を飛ばさない限りは今後使い物にはならないだろう。

『人斬者』、ゲームシステムに真と定められた男がそこに居た。


合図は既になく、言葉も交わさない。

どちらかの身体から垂れ落ちた血の雫、その音で再度手斧と刀を切り結ぶ。

一度、二度、火花を散らしながら……だが、限界はどこにだって訪れる。

今回の場合は私の足が、私の思い操作に反して膝をついてしまった。


『終わりだッ!』

「――あは」


まるで介錯人のように。

『人斬者』は私の背後へと出現し、その手に持つ刀を首筋へと振り下ろそうとしている。

一瞬先は死。そんな状況で、私は笑う。

そんな私の姿が目に入ったのか、一瞬だけ躊躇う様に刀の速度が落ち……そして首の手前で完全に止まってしまう。


『人斬者』が止めたわけではない。

紫煙の斧、その操作が間に合った……それだけの事だ。


「止まったね?」


周囲の紫煙が形を変える。槍、剣、刀、中にはただ鋭くしただけの針のようなものもある。

それらすべてが『人斬者』へと先を向け……ここから先は一方的な蹂躙だ。




--紫煙駆動都市マヨヒガ・娯楽区


「ふぃー……リベンジ成功!」

「おうお疲れ。これ俺居る意味あったか?」

「偽『人斬者』抑えておくって役目がしっかりあるじゃん」


娯楽区の喫茶店内にて、私達は互いの持つソフトドリンクのグラスをぶつけ祝い合う。

といっても、今回は本当に私の個人的な理由……ただただリベンジがしたかったというだけで『人斬者』へと挑みにいっただけの事。

素材自体に価値はそこまでない、と言えば嘘にはなるが……『信奉者』や『四重者』の素材の方が質が良いのは確かなのだ。

それでもこの素材で何かを作るとしたら、


「メウラくんさ、装飾品も作れるんだっけ?」

「あぁ一応な。何か作ってほしいのか?」


装飾品。指輪は恐らくエデンの方の残る2つのダンジョンからもMVP報酬で得られるだろう。

ならば、今は別の部位につけるもの……ネックレスやピアスなんかが妥当だろうか。


「んー……ピアス頼める?素材はコレで」

「おう作れるが……うわ、真の方か。俺の方で見た事ねぇって事は……MVP報酬だな?」

「うん、2つくらいあればピアスは作れそうかなって。足りないなら倒してくるよ」

「問題ないが……いや、問題があるとしたら素材の説明の方だな。大丈夫か?」


恐らく、渡した素材……人斬者の刀片の説明文に書かれている事が気になるのだろう。

だが、メウラは忘れている。ここまで共に行動した私がどのような基準でこの素材を選んだかなんて明白だろうに。


「大丈夫。そっちの方が面白そうじゃん」


この素材を使った装備は一体どんな効果になるのだろうか、怨念が私に対して何かをもたらすのだろうか。

それらが気になってしまって仕方がないだけの事。いつも通りの好奇心であり、面白そうという軽率で軽薄な考え。

だが、それでいい。

私はまだ、好奇心に殺されてしまうような猫ではないし、猫にすら成れてないのだから。


「はぁー……そうだな。分かった。だが本番・・には間に合うか分からねぇぞ?」

「あは、そっちは元から期待してなかったから大丈夫。さっきの『人斬者』との戦いである程度掴んだしね」


今回開催中のイベント、【紫煙奇譚・壱 ~マヨヒガへの旅~】は2部構成のイベントだ。

1部は今現在開催している、マヨヒガへの観光と【二面性の山屋敷】への挑戦、そしてそれで得られる歯車による素材の交換が主となる。

そして2部はといえば、


「まぁPvPイベント。それも結構な数が参加するバトロワで生き残れるかは分からないからねぇ。ゆるーくやる事にしてるよ」

「ま、それもそうか。一応何とか間に合うようには作ってみる」

「ありがと」


何人もが入り混じる、バトルロイヤルからのトーナメント戦。

イベントの最終2日間を使って行われる、Smoker'sこの Gardenゲーム最初の大規模PvPイベントが待っているのだから。


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