--紫煙駆動都市マヨヒガ・娯楽区
「よーぅ、功労者」
「煽ってる?」
「いや、心からだ。正直俺には見えてなかったしな、動き」
いつものように、とはいかないものの。
私とメウラは折角だから、という事でマヨヒガの娯楽区に存在する茶屋にて合流していた。
といっても、私はマイルームから、メウラは中央区からという違いはあるが。
「で、終わった後どうなったの?そっち。私は落ちちゃったからさ」
「いや、ほぼいつも通りだな。一応最後に『人斬者』がちょっとしたセリフを言ってたんだが……聞くか?」
「……いや、後で自分で聞きに行く」
どうやら、何かしらの演出があったようだ。
メウラがこの言い方をするという事は、恐らくはこのゲームのストーリーに関する何かなのだろう。
幸いにして考察班ではなく、尚且つストーリー史上主義者でもない私だが……それでも面倒な何かをする必要はなく、単純に『人斬者』を倒すだけで聞けるのであれば聞いておきたい。
それに、
「湖の向こう側での戦い、あれじゃ満足は出来ないしねぇ」
「ほう?相打ちっぽいログの流れ方したが?」
「相打ちだからだよ」
反省点は多い。
紫煙の斧による投擲だけで終わらせる事は確実に出来ただろうし、何なら反応出来ていたのだから……多少無理矢理にでも近接戦闘を行って倒す事も出来ただろう。
結局、相打ちになったのも……HPの自動速度を普段以上に高めていたからでもあるし。
「成程な……所で」
「何だい?」
「聞いてもいいのか?それ」
「……聞かないでくれる?私もこうなるとは思ってなかったんだよ」
メウラの目線が私の顔……の少し上。
頭上に当たる位置に固定されている。そこには、
「昇華の影響が狼耳で残るなんてさぁ……!本当……!」
「……あぁ、だから微妙にテンション低かったんだな」
「戦闘中とか必要だからであって、私は別にこの歳になってまでケモミミ着けたいわけじゃないんだよ!分かるかいメウラくん!?」
「いや分からんでもないが」
昇華煙の影響によって、私のアバターには髪色と同じ色の狼の耳が生えていた。
しかもしっかりと聴覚がある状態で、だ。
何なら人の耳もそのまま健在である為にコスプレ感が強いものとなってしまっている。
一応外套を被る事で一見すれば分からないようにはしているが……それでもよく見れば分かってしまう。
……【浄化】は取っておこう……本当に。
このペースで影響が残る場合、全身狼のアバターになる日はそう遠くない。
流石に普段から狼になっているのは精神的には厳しいものがある為に……後で散々警告で名前が出ていた【浄化】を試すべきだろう。
「で、ダンジョンの新モード?ってのは何だったの?」
「あれか?あれは……所謂エンドレスモードだな」
「あー……成程。延々続くタイプか。ローグライク?」
「ローグライク。階層毎にバフやらを得れるタイプだな」
延々続くダンジョンを突破していくモード……私はあまりやらないかもしれない。
というのも、私の戦い方的に長期戦が確定している戦闘はあまり得意ではないのだ。
紫煙に関しては使えば使う程に薄くなる。それを生み出す煙草も使えば燃えてなくなってしまう。
HP回復手段は他にも用意はしているが、それもそれで保険の域を出ない。
消耗を抑える為に投擲メインで戦ったとしても……それが通用するのは序盤だけのはずだ。
「うーん、私は良いかな……よし、じゃあ私はちょっと籠るよ」
「歯車の交換は良いのか?」
「そっちはまた後で。アイテムの消費がバカだからね。自分のスタイルだけどさ」
そう言って、メウラと別れマイスペースへと移動する。
彼が言っていた『歯車の交換』というのは、イベント中限定で様々な物資と敵性モブのドロップ品である歯車が交換できるというシステムの事だ。
一応私もある程度……1層と2層での戦いを通して十数程度は歯車を持ってはいるのだが……消耗した物を作った上で、足りないものがあったら交換するくらいが丁度良いだろう。
これ!という今最優先で欲しいものも思い付きはしないのだから。
『お帰りなさいませ』
「ルプス、薬草の在庫ってまだ残ってる?」
『50程度は。今回ご主人様が消費した分を補充しても……20は残るかと』
「オーケィ、後で買い足しとく」
ルプスに消耗品の補充を指示しつつ、私は今回得た討伐報酬を確認していく。
一応、MVPをとってはいたが……今回は『信奉者の指輪』等のような装備品では無いようだ。
……お、良いねコレ。
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人斬者の
種別:素材
品質:B
説明:『人斬者』が使っていた日本刀の破片
強い怨念が宿っており、下手に扱うと危険だろう
真の刀は、破片となってもその身に魂を宿す
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恐らくは今回のMVP報酬はこれだろう。
真とついていることから……湖の向こう側に居た、私と相打った『人斬者』の物。
これを使えばブーツに切断ダメージなどを追加できる可能性もあるし……私が自分で装飾品を作ったっていい。スキル自体は素材さえ消費すれば簡単に修得できるのだから。
ルプスに一度断ってから、インベントリ内から1本の『薬草の煙草』を取り出し口に咥える。
何にせよ、ダンジョンの攻略が出来て良かったと思うと同時。
やはり悔しいものは悔しいのだ。
「……リベンジ、待ってろよな」
火を点す。
肺に煙が入っていき、自身の力となるのが分かると共に。
それを吐き出せば、薄く輝く紫煙が部屋の中へと解き放たれた。
悔しくとも、煙草の味は、煙は変わらない。
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プレイヤー:レラ
状態:
・紫煙外装
『外装一式 - 器型一種』
・所有スキル
【煙草製作】、【投擲】、【観察】、【フィルター加工】、【背水の陣】、【斧の心得】、【回避】、【過集中】、【魔煙操作】、【隠蔽工作】
・装備
赤き信仰のボディス、赤き信仰のドレススカート、赤き信仰のグローブ、赤き信仰のロングブーツ、赤き愉悦の外套、『信奉者の指輪』『四重者の指輪』
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