「良いよ、やろう」
私の言葉に、『人斬者』は最初と同じように構える。
そして私は……周囲の煙を自身の身体に収束させていく。
……確実に影響は残るだろうなぁ、コレ。
普通の紫煙。具現の紫煙。そして、吸っていた昇華の紫煙。
それらが集まり、私の身体を変化させていく。
全身が、薬草と狼の因子をもって変わっていく。
【注意!昇華煙の濃度が濃すぎる為、アバターに影響が残る可能性があります】
【スキル【浄化】を使う事で影響を薄め、完全に消し去る事が可能です】
【注意!具現煙の濃度が濃すぎる為、アバターに影響が残る可能性があります】
【スキル【鎮静】を使う事で影響を薄め、完全に消し去る事が可能です】
凡その身体的特徴は、先程メウラの前でも行った全身人狼化とあまり変わらない。
だが、今回は身体の至る所から葉や花が生え……それらが私の身体へと根を張っていくのを感じた。
しかしながら、HPは減らず。寧ろいつも以上の速度で回復していくのが視界の隅に映っていた。
一度、調子を確かめる為に手を開け閉めした後……紫煙の斧を握りしめる。
投擲の為の正しい構えなんてもの、私は知らない。
だからこそ、私は軽く……両腕が自由となるように下で構える。
「――いざ」
『尋常に――』
「『勝負ッ』」
声が重なった瞬間。
私は思いっきり
勿論、投擲の為ではない。ずらす為だ。
何を?それは、当然……相手の必殺を、だ。
『貴、様ッ!』
「ずるじゃないさ」
私の目の前、息のかかる距離に『人斬者』の編笠で隠れた顔があった。
目を見開き、青筋を立てているものの……伊達に名前に人斬と入ってはいないのだろう。
恐らくは脳天からの一刀両断、こちらが何を投擲しても、距離を取ろうとしていても届くような……そんな想いが込められた一撃だったのだろう。
しかし今は、その上段にあげられた腕の所為で懐へと入られてしまっている。
驚くべきは、そんな状態でもこちらへと蹴りを入れつつ僅かな動作でこちらの胸を突いてきた点だろう。
だがそれは致命傷には程遠い。今の私……具現と昇華によって薬草と狼の力を身に宿す私にとって、そんな怪我はすぐさま回復へと向かっていくのだから。
だが距離は少し離れてしまった。
「私の投擲は、ここからでも問題ないんだよ」
私は軽く、紫煙の斧を手首のスナップだけで適当な方向へと投げた。
当然、投げられた先に『人斬者』は居ない。……だが。
【魔煙操作】は、そんな紫煙の斧を捉え干渉し、ブーメランのように方向転換させ……背後から、『人斬者』の後頸部へと命中させた。
切断とまではいかないものの、紫煙の斧は首の半ばまで到達したようでHPバーが急速に減っていくのが目に見える。
『おのれ、オノレオノレオノレオノレェ!』
「じゃ、また会おうぜ」
だが、まだ死んでいない。
刀を無理やりに捻り、私の胸から左肩に掛けてを切り裂く事で自由にして。
再度袈裟斬りを、一刀を振るおうとしているその姿を見て。
私は一歩再度踏み込んだ。
手には手斧を。未だ無名の、黒く輝く手斧を握りしめ。
今度は正面からその首へと斧を振るう。
同時、刀が振るわれた。
【『人斬者』を討伐しました】
【MVP選定……選定完了】
【MVPプレイヤー:レラ】
【討伐報酬がインベントリへと贈られます】
【【二面性の山屋敷】の新たな探索モードが解放されました】
【死亡しました】
【デスペナルティ30m:全ステータス
【魔煙術:昇華煙の影響によりアバターに変化が生じました】