目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
Episode20 - EB2


『紫煙駆動』


口に出すと共に、私は再度一歩踏み出した。

対処が出来たならば、次も出来る。出来るならば……それを繰り返していけば、打倒出来る。

手斧を片手に持って、


『応ォオ!』


『人斬者』が足を動かすのが観えた。

やはり道中の動きは観えないが……それでも、動きの始まりが観えたのだ。

ならば、その後は合わせられる・・・・・・

刀を振り上げた状態で目の前に出現した『人斬者』に合わせるように、私は紫煙の斧をその首筋へと叩きつけるように操った。


『――ッ』

『反応、シタナッ!』


一瞬。本当に一瞬だ。

『人斬者』は紫煙の斧に対して視線を向け、僅かに避けるように身体を動かした。

その所為か、彼の太刀筋は少しだけブレ……袈裟斬りだったそれが、脳天からの両断へと切り替わる。

集中しすぎているのか、それとも死が近い為か。非常にゆっくりとした時間の中で、私は動く。


頭の上から迫ってくる刀に対して、先程のように手斧を使って防御する事はしない。

観えたからこそ、紫煙の斧を合わせる事が出来た。ならば、観えているのだから避ける事も出来るはず。

出来なかったら私の身体の何処かしらが斬り飛ばされるだけの事。メウラには申し訳ないが。

身体を半身にするように、頭上の刀が身体のすぐ横を通るように身体を動かして……私は瞬間的にその場にしゃがみ込んだ。

一文字を描くように、刀が頭上を通っていくのを吹いた風で感じる。


……次は多分、斬り上げッ!

そのまま私は『人斬者』側へと前転をして、すぐさま振り返る。

刀を振り下ろしたソレに対して、私はいつの間にか浮かべていた笑みを更に深くした。

手斧を無防備な背中へと叩きつける。

一度、二度、三度と叩きつけ、『人斬者』が目の前から消えた。


「俺が居なくても大丈夫じゃねぇか」

『イヤ……オカシイ』


しっかりと狙い、そして相手が防御できない背中へと手斧を叩きつけたはずなのだ。

それなのに、私の手に伝わってきたのは相手の身体を叩く時の、肉を断つ時の感触ではなかった。

水に対してじゃぶじゃぶと遊んでいたかのように。実体の無いものへと棒を叩きつけているかのように。

手に残ったのは、ただの虚無だった。


『フゥー……メウラくん」

「何だ?」


『人斬者』は動かない。

あくまでこちらが踏み込んだり、その場から動いたら反応する装置のようなモノなのだろう。

昇華の煙を、自身の身体から抜いていくように意識して【魔煙操作】を行うと。

少しだけ薄まった昇華の煙が、口の端から漏れていくのを目の端に見つつ……『人斬者』に対して考える。


「このダンジョン名は【二面性の山屋敷】」

「そうだな」

「これまで1層と2層は……まぁ2層はどうかはおいといて。1層は表側、裏側って切り替わりがあったよね」


これまでのダンジョン探索を思い出しながら。

私は自分の感じた感覚を形にするべく、確認するかのように言葉を口にする。


「あったな。……何が言いたい?」

「今、『人斬者』を手斧で攻撃した時……感触が無かったんだよね」

「感触が……1つ確認させてくれ」

「何だい?」


一度ST回復用の煙を二つに分け、片方をガスマスクに、もう一つを離れた位置に人型を作り出し。

軽く歩かせてみる。……瞬間、その人型の煙は六分割されてしまった。

どうやら生物かどうかは関係なく、『人斬者』へと近付くというのが攻撃の目標となるのだろう。


「お前、『人斬者』のHP……観えてるか?」

「……観えてないね」

「はぁー……オーライ。俺に何をしてほしい?」


私はその言葉に笑みを浮かべる。

頭の回転が速い友人は本当に有難い。こちらが考えていた事を先読みして聞いてくれるのだから。


「あの湖。こんな満月なのに、月が浮かんでないんだよ。――行ってみるからさ、頼むよ」

「オーケィ」


瞬間、周囲に紫煙が満ちる。

私が煙草を何本も使っているわけではない。後方から……メウラの方から紫煙が発生し始めているのだ。

それに少しだけ笑いながら、私は白黒の世界で『人斬者』をしっかりと視界の中心へと捉えた。

背後で、何か大きなモノが威圧感をもって出現していくのを感じる。

私の操作範囲内にある、昇華の煙やガスマスクにしているもの以外が、ソレに吸われていくのをスキルによって知覚していた。


「私が動いたら合わせて」

「任せろ。伊達に【地下室】で延々合わせてねぇよ」

「あは、心強いなぁ」


手斧をしっかりと握りしめ……次いで、新たに『具現 - 薬草の煙草』を口に咥え、火を点す。

一息。肺に紫煙が満ちていく。

後方では準備が整ったのか、メウラも同じ様に煙草を取り出し火を点けたのが感覚で分かった。

私も準備を整えるべく、操作範囲内にある昇華の煙を全て足へと集め……人狼へと再び変化させる。

『人斬者』の横を通り抜けるのに必要で私が満たせる条件は、速度のみ。

技も、業も、力も。全てを『人斬者』へと届かせるには足りていない。しかしながら、速度ならば今の私でも通用する筈だ。

……さぁ、行こう。前に、奥に!


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?