目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
Episode16 - E4


と言ってもだ。

倒壊している家屋の探索など、見てまわればほぼ終わる。

元は炊事場だったのかなとか、ここは居間かな?程度の感想しか出てこない。


「……やっぱり下かな?」

「多分な。階層的にも下があるだろ」


という事で、サラッと調べた結果。

家屋の瓦礫の下に地下へと繋がる何かがあるのではないか、と私達は結論付けた。

安直かもしれないが……それでも、そこまで間違ってはいないだろう。


……んー、でも鼻と耳は頼りにならないんだよなぁ。

環境的に、現状の強化具合では地下への入り口を見つけることは難しい。

【魔煙操作】を用いて部分的に強化率を上げれば何とかなるのかもしれないが……徒労に終わる可能性も高い。


「あっ」

「どうした?」

「いやね。私のスキルの【魔煙操作】って、こういう事も出来るんじゃないかなって思って」


私はST回復用の大量に作っておいた『薬草の煙草』を数本取り出し、その全てを口に咥えて火を点けた。

その行動にメウラは一瞬驚きの表情を浮かべたが、私が何をしようとしているのか気が付いたのか、呆れた目をこちらへと向けてくる。


……地下があるなら、空気の通り道くらいは存在するはず。なら……。

周囲の輝く煙に対し、私は両腕を使って干渉する。

今までとは違い、固めるようにではなく薄く広く広がるように。私を中心に、大量の紫煙が倒壊した家屋の全体へと広がっていくように。


「……ふぅー……どう?」

「すげぇな。問題はスキルを取ってない俺には違いがわからねぇって所か」

「あーそうだよねぇ。ちょっと待って……」


久々に【観察】を意識して使いながら、私は煙の流れを注視する。

昇華でも具現でもない普通の紫煙の輝きは薄く、それを家屋全体に広げているのだから更に淡い。

それを何とか目を凝らす事で追っていると――、


「――見つけた」


あった。

元は炊事場であろう場所。

そこに漂う煙だけが、不自然に一瞬下方向へと流れていったのが目に観えた。


「……俺も取るか、【魔煙操作】」

「便利だよ。扱い方によっては今みたいな事も出来るしね」

「まぁな。本当は俺らのどっちかが索敵スキルを持ってりゃ良かったんだが」

「それは言わないお約束」


兎にも角にも、地下があるのが確認できた為にそちらへと私達は足を進める。

一応、こんな事をしている間にも、少し離れた位置ではメウラの紫煙外装が朽ちた迷狐を何体か狩っているのだが……私達が意識を向ける程度の相手ではなかった、というだけだ。




--【二面性の山屋敷】2層


「これまた変わったな」

「静かだねぇ」


元炊事場の瓦礫をどけ、出てきた床下収納から下へと降りていくと。

私達はどこかの天井裏のような場所へと辿り着いた。

表記を見る限りは2層なのだろうが……分かりやすく問題が1つ存在する。

……綺麗、だなぁ。

まるで、私達が玄関を通る前……セーフティエリアがあった側のように綺麗なのだ。


見える限りは木造の天井裏には、特に物はない。

しかしながら見える範囲では倒壊している様子はなく、私の耳には獣達の遠吠えのようなものも聞こえてきていない。

朽ちた迷狐の臭いもせず、他の未発見モブの臭いもしない。

完全に切り替わったようだった。


天井裏から降りていくと、そこには薄暗い廊下が広がっていた。

一見して和風であり、1層の屋敷が倒壊していなければこのような廊下があったのだろうと思われる。

だが……こちらにもやはり人影はなく。人の居た痕跡すらも存在しない。


「ギミックの1つかな」

「あり得るだろうな。モチーフは……まぁ名前の通り迷い家か」

「だろうね。ってことは、2層は探索メインの階層?いや、どうなんだろう……」


迷い家。

今回のイベント限定都市のマヨヒガ、そしてこの【二面性の山屋敷】のモチーフ元であろう伝承であり、訪れた者へ富を授けると言われている山奥の家の事である。

しかしながら、それは無欲な者に限定されており……欲を出して訪れた者に対しては何も授けないとも言われている……らしい。

よくTRPGやホラーゲームで題材にされがちな迷い家だが、このような形で自分自身がそれを探索するとは思わなかった。


「……改めて、各自行動する?」

「一旦別れた方が良いか……集合場所は?」

「じゃあここで。多分天井裏がある意味でセーフルームみたいなもんでしょ」

「了解。じゃあ十分程度経ったら集合、何かあればパーティチャットか通話機能で」

「はーい、じゃあね」


探索が必要ならば、ここから各自で行動した方がやりやすいだろう。

特にメウラの紫煙外装を考えると、こうやって一塊になっているよりはバラけて探索する方が性に合っているだろうし。

……まぁ少しだけ私も気になる事があるんだよねぇ。

【隠蔽工作】を発動させながら、紫煙を纏いつつ私は薄暗い廊下を進んでいく。


気になる事。それ自体は単純だ。

1層では倒壊した側に敵性モブが出てきていた。

否、敵性モブが居たからこそ倒壊してしまったと言うべきだろうか。

それならば、今私が歩いている2層は本当に敵性モブの居ない側なのか?


……確かめていかないとまずいよねぇ。

紫煙外装の分、メウラよりも私は手数が少ない。

しかしながら、彼の探索速度より私の方が速いのだ。ならば、情報は足で稼いでいこう。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?