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Episode15 - E3


「――ってことでね。戻ってきた」

「賢明だな。俺の方は……まぁ今から展開でもしようかと思ってたんだが……仕方ない。俺も行くか」


戻ってきた私の説明を理解したメウラは、倉庫内に置いていた何個かの素材を回収しつ立ち上がる。

【二面性の山屋敷】の特異性を確認するには、私1人で行動するよりも2人で行動した方が絶対良いからだ。


「玄関が境界になってるっぽいんだよ」

「玄関か……まぁオカルト的に見ると、大体玄関にそういうのが来たりするからな」

「あぁーそういう話はよくあるよねぇ」


メウラと共に玄関の前へと立つ。

やはり、こちら側では何の臭いも、音も、そして景色の変化もしていない。

しかしながら、私が一度認識したからだろうか。

玄関の戸から、少しずつ黒い瘴気のようなものがこちら側へと漏れ出ているように見えた。


……時限式、ってよりは……時間を掛け過ぎるとセーフティエリアが使えなくなる類かな。

推測しかできない。だが、あまり間違ってもいないだろう。

このダンジョンに侵入した時に流れたログは、恐らくそれの示唆のようなもの。

最終的には休む場所も無くなっていく、というだけだ。


「成程な……開けてみても俺の視界は普通の玄関を映してる。そっちは?」

「私もだね。でも一歩入ると切り替わる。……行こうか」

「あぁ」


私が先に向こう側へと侵入する。

先程見たように、ほぼ全てが真逆と言うべき惨状の屋敷が目の前に出現し……こちらへと寄ってくる臭いも何個かある事に気が付いた。


「メウラくん、来るよ」

「おいおいまだ俺準備出来てねぇんだけど?」

「あは、そこは頑張って。『四重者』倒したんでしょ」


私は手斧を構えつつ、インベントリ内から紫色のフィルターをした煙草を1本取り出した。

それを見たメウラは少しだけ驚いたような顔をした後に、戦闘の準備を開始している。

だが、もう遅い。


『――ッ!』

『ィ!』

「見た目はマヨヒガ都市で見たのと近い、けど壊れてるなぁ」


既に私の視界には、こちらへと歯をむき出しにしながら、庭から駆けてくる敵性モブが2体見えていた。

頭や胴体、バラバラではあるものの身体の何処かが欠損し、オイルのようなものを垂れ流しながら迫ってくるその姿は、マヨヒガに居た推定紫煙外装の狐に近い。

だが、彼らとは違い……明確にこちらへの殺意を持っている。


……まずは力量を調べないとかな。

数瞬もしない内に彼らはこちらへと接敵するだろう。

その前に私が出来る事はただ一つしかない。


「まずは一発」


軽く手斧を投げた。

しかしながら、瞬間的に発動させた【過集中】に加え、【斧の心得】、【投擲】、そして昇華煙による強化が乗り……かなりの速度をもって、機械の狐の片方の頭へと直撃する。

速度を持った物体同士がぶつかればどうなるか。答えは簡単だ。


『ギャッ?』

『!?』


【朽ちた迷狐を討伐しました】

【ドロップ:歯車×1】


「おっと、メウラくん!こいつら1体毎にドロップ判定あるっぽいよ!」

「――そいつは上々だ」


私が手斧を呼び戻しながら後方へと声を掛けた、その瞬間。

もう1体の機械の狐の周囲に、無数のナイフが出現し滅多刺しにした。

壊れている箇所、そして全身に無視できないダメージが入ったのか……機械の狐はそのまま滑るように私の足元へと転がって、光の粒子となって消えていく。


戦闘終了だ。

後ろを見れば、メウラの近くには1つの人影のようなものがある。


「今回は狩道化?」

「あぁ。戦闘用だしな……本当なら壁道化と影道化使って拠点を作りたかったんだが」

「まぁ無理でしょ。実質的なタイムアタックだし」

「分かってら」


その姿は、【四道化の地下室】に出現した狩道化のように見えるものの。

色合いが黒く、全身が金属で出来ている。

これこそがメウラの紫煙外装……絡繰人形型の紫煙外装だ。


「素材足りる?」

「道化師系だけはバカみたいにあるからな。多分問題ない。……最悪【峡谷】の鹿か鼠にするから大丈夫だ」

「あは、そうなったら次は『信奉者』MVPマラソンの始まりになりそうだねぇ」

「そいつは勘弁してくれマジで……」


彼の紫煙外装の能力概要は大まかにしか知らない。

絡繰人形に対して素材を使う事で、その素材の元となった敵性モブの姿と能力を得たりだとか。

その姿の維持には素材を消費する必要がある事だとか。

ダンジョン内で拠点を作る事で、絡繰人形を最大3体まで使役できるようになったりだとか。

本当に大まかで、詳細は知らないし紫煙駆動した場合の挙動なども見てはいない。

恐らく『四重者』との戦いでも使っていたのだろうが……表には出にくい類の何かなのだろう。


だが、それで良い。

お互いに必要があったらPvPをする可能性があるプレイヤーなのだ。

フレンドで、今は味方であっても……何処かで敵となる可能性もある。

だからこそ、必要以上に情報は明かさないし聞こうとしない。

まぁ私は装備の関係上、かなりの情報を握られているのだが……それはそれ。知っていても対応出来ないような行動をとればいいのだ。出来るかどうかは別として。


「よし、奥に行こうか。臭いは……うん、すぐ近くには何も居ないっぽいし」

「奥、奥ってなぁ……倒壊した屋敷の奥に何があるんだろうな?」

「さぁ?でも現実じゃ出来ないしね。楽しそうだ。……じゃあお邪魔します」


さぁ、楽しい楽しい家宅捜索の始まりだ。

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