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Episode14 - E2


--【二面性の山屋敷】1層


【ダンジョンへと侵入しました:プレイヤー数2】

【PvEモードが起動中です】

【ここは本当に安全なのだろうか……?きっと、大丈夫。セーフティエリアだ】


「うっわ、セーフティエリアじゃない事もあるのコレ」

「面倒そうだなぁおい」


侵入した先は、いつも通りのセーフティエリア……という事もなく。

半壊している木造の倉庫のような場所だった。

外は屋敷のような建物も見えており、ダンジョン名的にはそちらがメインなのだろう。


……どうするかな。

私自身はある程度戦える為、斥候のような役割で動く事も出来る。

しかしながら、この場にはメウラも居るのだ。

近接というよりは後衛寄りの彼を、1人残して行くのは……少しだけリスクがあるだろう。


「どうする?私先行してもいいけど?」

「あー……成程。大丈夫だ。俺の外装的に大丈夫なの分かってるだろう?」

「一応初見のダンジョンだからねぇ。【地下室】の道化師達と違って詳細が分かるまでは慎重に行きたいじゃん?」

「……って言う割には満面の笑みだぞ、レラ」

「おっといけない。……まぁメウラくんが良いって言うなら、ちょっとだけ先行して敵性モブを確認してこようかな」


私は手斧を出現させながら。

一歩、倉庫の外へと出て周囲を見渡した。

一見すると特に変わった所のない、日本家屋の庭先だ。特徴があるとすれば、様々な花が季節関係なく咲いている程度だろうか。

……ちょっと怖いな。

インベントリ内から『昇華 - 狼皮の煙草』を取り出し、【魔煙操作】を使わずにその効果を得る。

すると、だ。


「全く人の臭いも、獣の臭いもしないなぁ」


敵性モブらしき臭いが全くしない。

マヨヒガなんて名前の都市にあるダンジョンだからこそ、モチーフはそれなのだろうが……だからこそ、何も感じ取れないのは警戒心を高める要素にしかならない。

それでいて、【二面性】なんて名前も付いているのだ。

先程メウラに言った時はある程度冗談交じりではあったのだが……ここは慎重に行くべきだろう。


「行くか。――【隠蔽工作ステルス】」


声を出し、私がメウラとの共闘の内にラーニングしたスキルを発動させた。

それと共に、私の存在感……というか。自身が感じる臭いから、視界に映る身体すらも半透明になっていくのが見える。

……よし、戦闘入るまではコレで大丈夫かな。


――――――――――

【隠蔽工作】

種別:汎用

熟練度:7/100

効果:『隠蔽工作』状態を付与

   戦闘行動に入る、もしくは一定量以上の音を出した場合『隠蔽工作』状態解除

――――――――――


――――――――――

『隠蔽工作』

種別:バフ

効果:視覚、嗅覚、聴覚での発見がされにくくなる

   移動速度上昇

――――――――――


暗殺者アサシン用、というよりは本当に斥候スカウト用。

完全に『四重者』のMVPをメウラに取らせるためにラーニングしたスキルであり、正直な話、私の戦闘スタイルにはあまり関わってこないタイプのスキルだろう。

だが、そのスキル効果は優秀だ。

……昇華と合わせて、移動速度だけは本当に早くなるのが良いよねぇコレ。

『隠蔽工作』についている、移動速度上昇のバフ。これと普段の強化を合わせると……大体、何も強化を受けていない状態の倍以上の速度を出す事が出来るのだ。


しっかりとスキルの効果が発動しているのを確認した後、私は日本家屋の方へと向き直る。

本当に何の気配もなく、どこからか見られているような視線も……分かる限りは感じない。

多少なりとも何かが動いていれば、現在の私の聴覚に引っかかるだろうし……不気味だ。


日本家屋の正面へと回り、玄関に当たる戸へと手を掛け……少しずつ開く。

だが、特に何か変わった様子もない。

仮想空間ここにはないはずの自分の心臓の音が、五月蠅く幻聴きこえてくる。

1分ほど、その状態で待ってみたものの……何かが起こる事もなかった為に、私は一歩玄関の中へと踏み入れた。

瞬間、


「――ッ?!」


景色が一変した。

玄関を境に日本家屋は倒壊しており。

痛いほどに静かだった周囲は、今や何かの獣の遠吠えと人の叫び声に包まれている。

何も感じなかった鼻は、数多くの獣と血の臭いを捉えていた。

私は踏み出した足をそのまま戻す。すると、変わった景色は先ほどまでと同じ、静かな状態へと切り替わる。

……成程ね。これが【二面性】ってわけか……。


「まだまだ戦ってもないけど……一旦相談だなぁコレは」


声を出し、『隠蔽工作』状態を解除してからメウラの居る倉庫の方へと向かう。

あそこのログも、このギミックが原因なのかもしれない。

どちらを表と言ったらいいかは分からないものの……ほぼ何もないように見える現在で、唯一半壊している建物が倉庫なのだ。

もしかしたら向こう側の影響がこちら側に及んでいる可能性も考えられる。


「私はあんまり頭を使うのは得意じゃないのになぁ……」


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