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Episode13 - E1


そうして経つこと1週間。

イベント開催の日がやってきた。


「いやぁ、何とか間に合ったね」

「あぁ。これで量産やら細かい加工やらが俺無しでもやれる」


この1週間、私が何をしていたかといえば……単純にメウラの手伝いだ。

『四重者の指輪』を獲得するには、『四重者』との戦闘でMVPを取る必要があり……ほぼ純粋な戦闘系プレイヤーである私は兎も角、生産系プレイヤーであるメウラにとっては厳しい条件なのは分かっていた。

その為、装備の更新に始まり……ある程度の攻略の手伝いをしていたのだが……ここで問題が発生した。


「まさかあそこまで『四重者』が強いとは……」

「あは、私って結構色々すっ飛ばして倒してたのがよく分かったよ」


単純に『四重者』が倒せなかったのだ。

無論、私がメウラにMVPを取らせる為に手を抜いていたのも計算に入れても尚、強かったのだ。あのピエロは。


私が攻略した時に使ってきたモブ召喚に始まり、意識外から飛んでくるナイフの数々。

それ以外にも分身や一時的に姿を消す、爆発する大玉の召喚に、緑のオーラで出来たライオンらしき動物の召喚など……凡そ、「サーカスのピエロと言ったらこれ!」と言えるような行動を延々してくる始末。


痺れを切らして私が攻撃しようものなら、削り過ぎてしまってMVPがこちらにきてしまう。

それを何度も何度も繰り返し……つい昨日。

イベント前日にやっとメウラがMVPを取ることができたのだ。


「まぁ『四重者』の素材がかなり貯まったのは良い事ではあるんだけどな」

「暫くは困りそうに無いもんねぇ。私もST回復用とかは『四重者』の素材で作ろうかな」


当然、得るものは多かった。

戦闘系のスキルの熟練度はある程度貯まったし、1つのスキルをラーニングする事も出来た。

素材も道中、ボス含めて暫くは【四道化の地下室】へと行かなくても問題はないくらいには手に入った。


「よし……行こうか、イベントマップ」

「おうよ。こうなったら一緒にダンジョンの攻略もしてやる」

「やる気になってくれてるのは有り難いよ本当に」


イベント自体は既に始まっており、イベントマップ……期間限定でアクセスできるエデン以外の紫煙駆動都市へと移動するには、管理区から手続きを行う必要がある、らしい。

エデン的にも、受け入れてくれる向こう側的にも、誰がどう移動してるのかは管理しておきたいからこそ、管理区から移動できるようになっているのだろう。

私達は案内に従って受付を行い、鳥居に似た門の前へと通された。


「これがイベントマップへの入り口らしいねぇ」

「鳥居……まぁイベントタイトルがそれっぽいからな」

「【紫煙奇譚・壱 ~マヨヒガへの旅~】だったよね。……不穏でしかないけど」


そんな事を話しながら、私達はその鳥居の門の端を通る。

一応何があるか分からない為、真ん中を通るのは憚られたからだ。


視界が切り替わっていく。

一瞬の酩酊感のようなものと、どこからか鳥の鳴き声のようなものが聞こえた後。

再度、周囲の景色が組み上がっていった。



--紫煙駆動都市マヨヒガ・中央区


【期間限定マップ・マヨヒガへと入場しました】

【イベント期間が終了すると同時、マヨヒガに居るプレイヤーはエデンのマイスペースへと移動されます】

【イベント期間中、期間限定ダンジョンへと挑戦する事が可能です】

【イベント期間は1週間となっており――】


「おぉ……凄いねこれは」


どこか、冷えた空気を感じながら私は周囲を見渡した。

エデンとは違い、和風の建築を中心に建てられているその都市には、薄く霧のようなものが掛かっている。

紫煙ではないのだろう。現に、私の視界ではそれらは輝いていないのだから。

それに、エデンには居なかったモノたちもいる。


「狐か?アレは」

「だねぇ。……生きてるって訳じゃなさそうだけど」


黒く、それでいて鉄の輝きを持っているソレらは、狐の形をしてこちらを観察するようにじっと見てきていた。

別段、見られている事自体は良いのだ。沢山の人に見られるよりは狐に見られている方がずっと気が楽なのだから。


「紫煙外装かな?時々光ってる煙っぽいのが噴き出てる」

「ってぇ事は、マヨヒガここの管理者が操ってんのか?監視カメラ的な」

「ありそうだねぇ。……そういうストーリーとか探したらありそうだ」


異様な雰囲気の、歓迎されているのかされていないのか分からない状況に少しだけ困惑しながらも、私達は目的のダンジョンへと移動する事にした。

イベント期間は1週間、私が参加しようと思っているPvPイベントが最後の2日間に行われると考えると、実質の期間は5日しかないのだから。

出来るうちに出来る限りの攻略をするべきだろう。


「ちなみにダンジョン数と名前は?」

「ダンジョン数は1つ、名前は……【二面性の山屋敷】だ」


それでは気楽に、好奇心に任せてやっていこう。


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