『名前はありません。好きにお呼びください』
「へぇ……じゃあルプスで。これって個体名?それとも従者全体でこの名前になる?」
『全体で、です。もしも個体毎に分けるのならば……ウヌス、ドゥオ、トレスとお呼びください』
「あー、こっちの名付けに合わせてくれたんだね。了解」
ルプスはラテン語で狼という意味であり、今後の私の装備のモチーフが赤ずきんに近いものになるのを考えるとコンセプト自体はあっているだろう。
そして、提案された個体名はそれぞれがラテン語で1、2、3を意味する言葉を呼びやすくしたものであり……まぁこの受け答えだけでも、上等な
「じゃあ本題が2つ。1つ目はルプスの姿は変えられるのか、2つ目は何が出来るのか、だね」
『解答します。1つ目はイエス。ある程度自由に変化させる事が可能です。2つ目はマイスペース内で出来る事ならば、基本は何でも行えます』
「良いねぇ」
……優秀だなぁ。
質問の方法を変えても対応してくれる柔軟さを持った従者。
これだけでも、このMVP報酬が十二分すぎるくらいに良いモノであるのは間違いがなかった。
それに私が考えていた通り、マイスペース内での活動が可能という事は……煙草の製作やフィルター加工などを任せる事が出来る、という事だろう。
既に1人で全てをやるのは少し時間が掛かるな、と思っていた所だったのだ。
「じゃあ姿は変えてくれるかな。……そうだね、小さな狼耳の女の子とかに変われる?」
『畏まりました。……如何でしょうか?』
私の言葉と共に、ルプスの姿が再度煙に変わった後に変化していく。
背丈は私よりも若干低く、髪の毛は白に近い灰。
頭には狼耳が生え、何故か指定していないメイド服を着た状態で再び私の目の前に現れた。
秋葉原などで見るようなものではなく、しっかりとしたヴィクトリアンメイド風味のロングドレスバージョンだ。
「うん、良い。良いんだけど……なんでメイド服?」
『従者ですので。相応しい服装をするべきと考えました。変更しますか?』
「……いや、良いよ」
何も事情を知らない相手が見たら誤解しそうな状態ではあるが……まぁ、マイスペースに人を招く事など滅多に無いのだから問題はないだろう。
私も女性ではあるが、
「よし、じゃあ早速フィルターの加工をしてもらおうかな。道具の使い方は分かる?」
『分かります。ただ、ご主人様。1つ注意点が』
「?なんだい?」
『私を含めたルプス達は、ご主人様の持つスキルによってマイスペース内で出来る事が変わります。生産系スキルを持っているならば、その生産系スキルに則した仕事を。但し、私達が行った生産活動によってスキルの熟練度を稼ぐ事は出来ません』
「あー……成程。あくまで量産は出来るけど、質とかを求める場合は自分でやれって事だよね」
ルプスが言っている意味を理解し、納得する。
確かに、従者が生産をしているだけでスキルの熟練度が稼げてしまうのであればこのゲームにおいて生産系プレイヤーは要らないものとなってしまう。
何せ、戦闘系のプレイヤーでもスキルさえ取っていれば、マイスペースで従者を動かす事で何でも生産出来るようになる……という事なのだから。
「オーケイ、気を付けておくよ」
『分かっていただけて何よりです。では加工作業に入ります……魔結晶と縁結晶、それぞれをフィルターに加工すれば宜しいですね?』
「うん、それで。一応それぞれ5個程度は在庫残しておいて」
『畏まりました』
加工作業を行うルプスの姿を、少し離れた位置から煙草を作りつつも眺めてみる。
何かしらのミスをする事もなく、スムーズに作業を行っていく姿は中々に様になっていた。
……これ、フィルターだから少し変に見えるけど、料理とか作ってたら本当に似合ってるんだろうなぁ。
それに、今までは気にしていなかったが……立って作業させているのが少し申し訳なく思ってしまう。
自分1人だと気にしていなかった所が、こうして第三者目線になると気になってしまって仕方がない。
幸い売れる素材なら大量にあるにはあるのだ。あとで資金にして、簡易的にでも良いからハウジングをしておこう。
せめて作業スペースと休憩スペースくらいは分けられる程度には。
「……さ、私も消耗した煙草を作っていこう……」
他の従者も呼べば、エデンの散策などに行けるのだろうが……スキルの熟練度自体も上げてはおきたい。
【煙草製作】の熟練度が上がれば、今以上に効果の良い煙草が製作できるようになったりするかもしれないのだから。
こればかりは数をこなさないといけない関係上、今後も出来る限りは自分でやる事にはなるだろう。
大量に必要になりそうなST確保用の煙草などに関しては任せるかもしれないが。