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Episode6 - D2


【四道化の地下室】、その2層をある程度探索した私の感想は……あまり変わらない。

確証がなかったものが、確実となっただけだ。


2層では1層と違い、通路や大部屋以外にも通路の途中には小部屋へと通じている扉がたまに設置されている。

その中は基本的に簡易的なベッドと机程度しか設置されていないのだが……その中の臭いが問題だった。

濃い血の臭いから始まり、変に臭いのしない一部の床、時々強烈な鼻を刺激するような臭いまでしていたのだ。


「……あービンゴ。見つけちゃったな」


そんな中、変に臭いのしない床を手斧などを使って破壊してみると……そこには。

ロザリオが首に掛けられている小さな白骨死体が埋められていた。

ここでコレが見つかった、という事は……他の部屋も、そしてそこでしていた臭いも十中八九そういう事なのだろう。


「開発陣も中々に悪趣味っていうか、こう……頑張るねぇ」


苦笑いしつつ、白骨死体の一部をインベントリ内へと入れておく。

別に感傷的になったわけでも、どこかで埋葬してあげようなんて考えもない。単純に煙草などの素材に出来そうだからだ。

世の中、リアルでは死んだ人間の肉などを食べ自身の力として取り込むという考えを持っている部族も居たりする。このゲームでは昇華煙や具現煙なんてものが存在しているのだ。ならば、それに倣って……こういうものは回収しておいた方が良いだろうと考えたまで。

……私も私で悪趣味なのかもしれないなぁ。


そんなこんなで、私の素材収集という目的は既に達成されている。

縁結晶に加え、道化師達の素材、そして謎の人骨。

煙草に使ったり、メウラに預ける事である程度装備のアップデートが出来る事だろう。


「さぁて、出ますかっと」


私は手斧を右手に、手斧の形に集めた普通の煙草の煙を左手に持ちながら小部屋の扉の前へと立つ。

軽く息を吐き、頭上の耳で周囲の音を拾いながら、


「毎度毎度懲りないよねぇ!」

『ッ!?』


小部屋の扉を蹴破って通路へと出た。それと共に、扉に巻き込まれる形で何かを蹴ったような感覚がある。

否、きちんと何かを蹴っているのだ。

通路の壁へと激突したそれは、ゆっくりと立ち上がりながらナイフを構え始める。

無論、その姿は道化師だった。


「壁、影と続いて狩道化だもんねぇ」


赤色の、ある程度の人がピエロといえば?と聞かれたら思い浮かべそうな姿をしたそれの名は、狩道化。

こちらを追跡、そして襲撃してくる敵性モブであり……現状で、このダンジョンの中で一番好戦的なモブだ。

何処からともなく現れ、こちらを倒そうとしてくるのだから面倒臭い。


『ギィ!』

「言語を喋れって」


狩道化が叫ぶと同時、私に向かって周囲の虚空からナイフが飛び出してくる。

だが、初見でもないそんな攻撃を喰らうわけもない。何なら、私にはそれらが輝いて見えている・・・・・・・・

敢えて食らう必要もない為に、何本かのナイフは左手の煙の手斧で受け止めつつ。

狩道化へと一足飛び気味に近づいて、その首へと向かって手斧を叩きつける。


……襲い掛かってくる割には近接戦弱いんだよな。

恐らくはナイフの召喚や追跡などの方に能力が割かれているのだろう。

私の一撃に反応すらできず、そのまま食らった狩道化は弾かれたように再度壁へと激突する。


「ほい、返すよコレ」


左手の煙の手斧を、体勢っを立て直そうとしている狩道化へと投げつけた。

【投擲】の効果もあってか、しっかりと狙った場所へと……多少霧散しつつも飛んでいき、


「ヒーット」

『ガッ、ギッ……ィ……!』


胴体部へと命中する。

瞬間、狩道化の頭上に緑色の泡のエフェクトが出現し血を吐き始めた。

無論、私が作った煙の手斧にそんな効果は一切ない。

使った煙もただの『狼皮の煙草』の煙であり、何かしらの効果を与えても……元を考えるに敏捷性が上がる程度のはずだ。

なら何故か。答えは当然、狩道化が使ってきたナイフにある。


「毒の煙のナイフを作り出すとか、まぁ良い能力してるよね君」


毒ナイフならぬ、毒煙ナイフ。

一見すると、普通のナイフのようにしか見えないそれは、実体はなく。

命中した相手に『毒』のデバフを与えるという、普通に相手をしたら面倒臭い類のモノ。

だが、何といえばいいのか……丁度、私がそれに対してメタを張れるスキルを持っていた為に、脅威度は影道化よりも低くなってしまっているのだ。


「ほい、終わりっと」


【狩道化を討伐しました】

【ドロップ:道化の布切れ×1】


動けなくなった狩道化に何度か手斧を叩きつけると、そのまま光となって消えていった。

……ま、賭けではあったなぁ。上手くいって良かったけど。

自身の持つ煙の手斧に、相手の煙関係のものを即席で取り込んでいく。

【魔煙操作】の影響がどこまで及ぶのか、それが相手の攻撃でも問題ないのかと色々と気にしないといけない事はあったのだが……まぁ出来たのだから結果オーライだ。


「……んー、どうするかな。3層への階段はもう見つけてるんだよなぁー……」


余裕はある。

素材に関しても、私のインベントリ内に入っている以上……よくある泥棒系の敵性モブが居ない限りは問題はない。

他の問題があるとすれば、防具の方だろうか。

但し、それに関しても……【回避】を始めとした私の戦闘スタイル的にはあまり影響がないとも言える。


……いや、一回しか挑めないわけじゃないし行っとこう。

私は一歩、3層へと向けて歩き出した。


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