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Episode20 - B1


--【峡谷の追跡者】3層


【どうやらここはセーフティエリアのようだ……】

【扉の奥から強大な存在の力を感じる……】


「おっと、ボスかな?」


言ってしまえば、鼠さえ対処出来れば2層はほぼ1層と同じ程度の難度ではあった。

勿論、敵性モブの出現数は増えていたし、薄暗さから1層の様に遠目に見つける事は出来なかった。


しかしながら、出てくるモブの強さは変わらない。

唯一危険だったのは、鼠と狼が群れの様になって迫ってきた時だろうか。

影を狼の形に変え、まるで大軍のように押し寄せてきた時は肝が冷えた。……まぁ、元が鼠や狼だったからか、紫煙駆動によって薙ぎ払う事で事なきを得たが。


兎に角。

私はそのままの足で3層へと辿り着き……1層目にあるようなセーフティエリアの真ん中で休憩をとっていた。


「しかし動物系……犬、鹿、鼠と来てボスは一体なんだろうなぁ」


精神的に休みたかったのはそうだが、1番の理由はデバフが解除されるのを待っていたのだ。

流石に煙草の効果が弱体化されるデバフを背負った状態で推定ボスに挑む訳にもいかず、だからと言って湿気をなんとか出来るようなアイテムも持っていない。

エデンの生産区ならば何かしら対策アイテムが売られているのだろうが……流石に湿気なんてものを想定しろと言う方が無茶だろう。


少し減っていたHPも、セーフティエリア内だからか自然回復し。

STに関しては煙草を吸えば満タンまで貯める事が出来る。

その他、魔煙術関連の煙草2種はここまでほぼ使っていないに等しい。


「よーし、じゃあ初見攻略、しちゃいますか」


気持ち足取りは軽く、然程緊張もしていない。

当然負けるつもりは一切ない。

勝ってエデンに凱旋するつもりで、既に勝った後に何をするかを少し考えながら。

私はセーフティエリアを出た。





――――――――――――――――――――


静かな場所だ。暗く、静かで、冷たくて。

それでいて、嗅ぎ慣れた血の匂いがする。

濃い匂いだ。

彼らを殺し、そして煙として糧にしてきた奴の匂いだ。


どうせ俺は有象無象に作られたマガイモノ。

マガイモノはマガイモノらしく、与えられた役の通りに動くとしよう。

あぁ世界あくまよ!俺に力を!

せかいを晴らす力を!


――――――――――――――――――――


身体が動かない。所謂、ムービー中という奴だろうか。

急に私の身体が俯瞰視点へと切り替わり、私のアバターを見下ろしているような形になっていく。


そこは、教会のような場所だった。

峡谷の中に作られた、暗い色の教会。


『……ッゥフー……』


逆十字が掲げられている教会の前には、1人の神父が立っていた。

手には赤黒く染まった金鎚と銃を持ち、首からは逆五芒星のペンダントが下がっている。


『オ、オオオ俺はァ……!』


ペンダントから見慣れた紫のオーラが溢れ出し、神父の身体全体を包み込む。

それと共に、HPゲージが3本出現し……頭上に名前が出現した。


【『信奉者ナイトストーカー』との戦闘が開始されます:参加プレイヤー数1】


ログが流れると共に、身体の制御が私へと戻ってくる。

しかしながら、目の前の神父は既に私の目の前へと迫って来ていた。


「ッ!」


振り上げられた金鎚を見て、私は咄嗟に左へと跳ぶ。

瞬間、ガゴン!という音が鳴り響いた。

……おいおいおいおい、おかしいでしょそれは!?

転がりながら私がさっきまで居た位置を見てみれば、そこには小さなクレーターが出来ているのが見えた。

どう考えても金鎚で出来る規模の被害ではない。


「あぁもう!まだ昇華も使えてないっての!」


インベントリから『昇華 - 狼皮の煙草』を取り出し、口に咥える。

それと共に、手斧を呼び出しすぐさま紫煙駆動を起動した。

慌ただしくボス戦が始まった。



一撃、二撃。金鎚が私の身体の横を通り過ぎていく。

それに伴って発生した突風が髪を暴れさせるのを感じながら、私は大きく開いた脇腹に向かって手斧を振るう。

手に伝わるのは、肉ではない鉄のような硬い感触。

甘い痺れが手から腕全体に広がっていくものの、私はそのまま腹に向かって蹴りを放った。

躱されない。否、躱すつもりなんてないのだろう。


……昇華使ってもコレか。

蹴りによって少しだけ離れた距離を、自分から後方に跳ぶ事で更に離す。

瞬間、こちらへと銃口が向けられるものの。

手斧を身体の前で盾のように構える事で、煙の斧が直後に放たれた銃弾を弾いてくれた。


戦闘開始から数分。

ボス……『信奉者』のHPはほぼ減っていない。

それに比べ、私のHPは約半分ほどまで減ってしまっていた。

ボスの攻撃の余波や、それを回避する為に無理な跳躍などを行い続けた結果とも言えるだろう。


「ギミック系だよねぇコレ……」


だが、流石に私も馬鹿ではない。

HPが何故減らないのか、その原因くらいは分かっている。

紫のオーラだ。


ダンジョンに出現した敵性モブ達も纏っていたオーラ。

あれによって手斧や蹴りが身体に届く前に止められているのだ。

道中で相手にしている時は特に脅威も何も感じなかったものの、今それの所為で私は何も出来ていない。

だが、これはゲームでありクリアが出来るように設計されている戦闘だ。

ならば、何処かに答えはある。


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