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Episode18 - D1


--【峡谷の追跡者】1層


「……よし、行こう」


軽く息と煙を吐いて、私は微笑を浮かべながら歩き出す。

ダンジョン攻略、それを本格的に始める為に。


資材は多めに用意はした。

ST回復用に『薬草の煙草』を現実で言う1カートンほど。

リジェネ用に『具現 - 薬草の煙草』は大体20本……現実の1箱。

そして、戦闘用に『昇華 - 狼皮の煙草』も具現と同じ量を用意した上で、他にもポーションなんかの消耗品を買い足して今ここにいる。


……他と違って、真正面からの戦闘が多い分、対処しやすいしね。

私が攻略に【峡谷の追跡者】を選んだ理由は幾つかある。

敵性モブとの遭遇する位置が分かりやすかったり、そもそも奇襲能力持ちが今の所出現していなかったり、強化を行っていない状態でもある程度楽に狩る事が出来ている等、私にとって攻略がしやすいダンジョンだった……というだけなのだが。

流石に斧が刺さったまま突っ込んでくるテーブルや、延々増えていく道化師が居るようなダンジョンを攻略するには、まだ色々足りないものがあるはずだ。


「1層は折角だし、駆け足で行こう」


もう何度、というよりも。

何時間も居たような気がする峡谷を駆け抜けていく。

道中、狼や鹿が走る音に反応してか襲い掛かってこようとするものの、


「見てから避けるのも余裕です」


【観察】によって、身体の、筋肉や皮の動きを観る事で予測し避けて通り抜けていく。

無駄に戦う必要は一切ない。

いくら楽に戦えるといえど、何が起こるか分からないのだから。

そう考えつつ、数分程度走っていくと。


「あれは……階段?」


下へと続く階段が奥に見え始めた。

その先は暗闇に包まれており、どう考えても次の階層に続く階段だろう。

少しだけ考え、すぐさま私は近くのヒカリゴケを3むら程度インベントリ内に入れてから、その階段へと向かって足を進めた。

背後からは狼や鹿達が迫ってきている。急がねば。


「うわ、降りにくいな……」


……暗い、それに空気が冷たい……いや、湿気が多い?

点在するようにヒカリゴケが階段にこびりついている為、足元を見失う心配はない。

無いのだが……そのコケの所為で足が滑りそうになったり、そもそも暗闇の中だから距離感を見誤ったりと中々に降りていきにくい。

松明でも作ってくるべきだったか?と思いつつ進んでいくと、


--【峡谷の追跡者】2層


「……すっご。そんな距離降りてきたの?私」


そこには、まるで夜景のような光景が広がっていた。

先程階段にあったように、点在するヒカリゴケによって暗闇が薄く照らされている。

地下空間、それも敵性モブさえ出てこなければ良い場所だと、そう思う。


……地下峡谷、って所かな?

まさしく、地下に出来た峡谷なのだろう。

左右には1層と同じように岩の壁が存在し、天井は……見えない。

暗いというのもあるが、そもそもがヒカリゴケの照らす範囲に天井が入っていないのだ。

つまるところ、


「これ、上も警戒しろよって事かな?」


何が居ても気が付けない。

そういう事だろうと結論付け、私は歩き出した。

幸い、普通に歩く分には問題の無い程度には光源が散らばっているのだ。湿気が多いのが気掛かりだが、何とかなるだろう。




「あぁもう!ここも走らないとダメかな!?」


何とかなるだろうと思っていた数分前の私を殴ってやりたい。

現在、私は複数の敵性モブに追われながら2層内を駆け抜けていた。

自分の意志ではない。というか、本当は走りたくも急ぎたくもない。

しかしながら、そうせざるを得ない状況になった原因が2つある。


1つは、今も点滅するように視界の隅に出現している雫のマークのアイコン。

……湿気がそのままデバフになるとは思わないじゃん!道理だけどさ!

『湿気過多』というデバフらしい。だがこのデバフは私に対してすぐに問題を引き起こすタイプのデバフではない。では何に影響するか?

煙草だ。このデバフは煙草を強制的に湿気らせて、その効果を低減させるものらしい。

幸い、インベントリ内から出していなければ問題はないようだが……それでも、ST回復などの効率が悪くなるのは目に見えている。


そしてもう1つは、


『ブルゥヒィン!』

「うるっさい!!」


いつの間にか、私の背後に現れた全身が影の馬だ。

馬にしてはそこまで速度は速くなく……といっても、昇華煙を使った上で走ってやっと追いつかれない程度の速さではあるのだが。

だからこそ、逃げる事は出来る。そして倒せるか倒せないかでいえば……倒す事は出来た。出来てはいる。

紫煙駆動を使わずに、【投擲】などを組み合わせたいつも通りに戦うスタイルでも、十二分に倒す事は出来たのだ。

だが、現状そんな相手から逃げているのには理由がしっかり存在している。それは、


「なんでお前復活するのよもう!」


そう、何故か復活したのだ。

当然、討伐ログすら流れない為にこの馬の名前が何なのかも分からない。

1層に居た狼や鹿のようにオーラを纏っていないのも、この薄暗い中では見つけにくさに拍車をかけている。

……【観察】でもHPが見えてないし……本当何なのこいつ。


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