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Episode17 - C


--マイスペース


煙草の製作、と言っても数はともかく種類は3つ程しか作らない。

1つは『硝子の煙草』以外のST回復用の煙草。

2つ目は先の戦いで使い切ってしまった『具現 - 薬草の煙草』。


「昇華煙、ついに作れる……はず……」


そして3つ目は、緑結晶を使った魔煙術の施された煙草だ。

仮説の通りであれば、これを使ったフィルターを素材に煙草を作れば、昇華煙の付与された物が出来上がるはず。

その上で考えるべきは、どの素材を使うのか……という点なのだが、


「まず【墓荒らし】は無い。家具系の奇襲能力は良いんだけど、ソロ向けってよりはパーティの斥候向けだし」


家具類、その中でもテーブルや本棚の素材は使わない。奇襲能力を得た所で絶妙に噛み合わないからだ。


「その流れで……【四道化】も無いかな。影は壁も奇襲系だし。影は……ちょっと読めないけど」


そして【四道化】。こちらも壁道化は奇襲特化であり噛み合わない。

次いで、影道化の方だが……生憎と、自身の分身を作り出しているのであろう事は分かるものの、それ以外の能力がいまいち分からない為に却下だ。

なので、


「まぁシンプルに狼……かな?鹿は角ありきだろうし」


分かりやすく脚力や索敵能力にバフが掛かりそうな狼の素材を基に作るのが良いだろう。

早速、フィルターの加工を開始して……出来上がったのが、コレだ。


――――――――――

『縁結晶のフィルター』

種別:素材

品質:D-

説明:縁結晶でコーティングされたフィルター

   このフィルターには縁が込められており、通して吸った煙に縁の力を生じさせる

――――――――――


えんの力、ねぇ。これのおかげで使った素材の能力が使えるって感じかなぁ」


『魔結晶のフィルター』と説明文はほぼ同じ。

見た目が緑色の結晶状になっているのも、色違いというだけで同じだ。


「では早速」


そんなこんなで狼の毛皮をすり鉢で粉状に……毛皮を粉状に出来るすり鉢とは一体なんなんだと思いつつ。

『縁結晶のフィルター』を使って煙草を作り始めた。

結果は、


「よし、よっし……出来た。昇華煙!」


――――――――――

『昇華 - 狼皮の煙草』

品質:C -

効果:俊敏性上昇

   ST回復

昇華:全ステータス上昇ST継続消費

   追加能力:マノレコ

説明:狼の毛皮を使った手巻き煙草

   紫煙技術による特殊な加工がされており、人体への影響は喫煙以外のものが生じる事はない

   魔煙術:昇華によって術が施されている

――――――――――


一見、フィルターの色が緑色なだけの普通の煙草。

しかしながら、しっかりと。詳細では昇華煙の付与がされているのが分かる。

興奮で指が僅かに震えるのを抑えながら、私はそれを口に咥え火を灯す。

すると、だ。


【昇華煙が発動します】

【対象:マノレコ】

【アバターに一時的変化が生じます……】

【オンラインヘルプが追加されました】


「ん?変化?――ッ!」


不穏なログに気を取られた瞬間、私は強烈な違和感を頭と下半身に感じた。

否、正確には頭の上と臀部にだ。

恐る恐る頭の上に手を伸ばし、それ・・に触れる。

ふにふにとしたした感触の柔らかいそれは、


「み、耳ぃ……?」


何かの耳だろう、と思う。手から伝わる感覚と、頭の上からの触られているという感覚。

すぐにメニューを開き、ハウジングメニューの中から姿見を購入して私の目の前に設置する。

すると、そこに映っていたのは、何故か犬耳と尻尾が生えた私の姿だった。

……いや、狼の素材だったから狼耳かな?


「いやいやいや、そんな事は今どうでも良くて。え、もしかして追加能力ってそういう事?」


意識して耳や尻尾を動かそうとしてみると、本来無い部位の筈なのに動かす事が出来る。

それに加え、先程まで作業していた煙草製作用の施設やフィルター加工施設の方に、強く煙草の煙の匂いを感じる事が出来た。

嗅覚の強化、というべきだろうか。間違いなく狼の……犬科の素材を使った故の影響だろう。


「えぇー……いや、うん。理屈は分かる。分かるけど……いや、変なのを使わなくて良かったと思おう」


今回は狼だったから良かったものの。

これがテーブルや本棚だったらどうなっていたかは分からない。

流石にテーブル化なんてものは特殊なタイプの性癖に分類されてしまうのではないだろうか。

……これ、昇華煙用の素材は元をしっかり見て選んだ方が良いなぁ。


少しだけ嘆息しつつ、そのままの状態で同じものの量産を始める。

姿はどうあれ、今このマイスペースで確認できるだけでも追加能力は有用だ。

私に足りていなかった索敵能力を補う事も出来、それでいて俊敏性も上がる。

戦闘面でどう作用するのかは後で確かめる必要はあるが……多く作っておいて損はない。

あるとしたら、誰かに見られた時の私の精神的ダメージが大きいくらいだ。


「ふ、ふふ……折角だしメウラくんにも提供してやろう……」


若干の暗い想いも込めながら、私は延々と作業をしていった。


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