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Episode11 - F


--紫煙駆動都市エデン・生産区


「良い物あるかなぁーっと」


ダンジョンから帰還した私は、その足で生産区へと向かい色々な店を冷やかして歩いていた。

といっても、NPCが開いている店ではなく。

大通りから少し外れた路地、そこにはプレイヤー達が露店を開いているのだ。

まだまだNPC産の物に比べれば見劣りする性能のアイテムや防具ではあるものの、圧倒的に値段が安い事から、こちらへと足を運ぶプレイヤーも数多い。


……コネも作れるだろうし、良い人がいれば良いけれど。

私が探したいのは、防具系やアクセサリー系の生産スキルの熟練度を上げているプレイヤー。

武器に関しては基本的に手斧で充分問題はないだろうし、今後得るスキルによっては性能面で他に遅れをとることはないだろう。

だが、やはり装甲が薄いのは不味い。

出来るならば、鹿の突進を受けても骨折しない程度には厚い装甲が欲しい所なのだ。


「……ん、【観察】も困りものだね」


新しく得たスキル【観察】。

戦闘時での有用さは語った通り。しかしながら、こういった物を見るという場面でもその効果は発揮されていた。

このゲームの生産工程がどうなっているかは分からない。しかしながら、プレイヤーによって作りの粗さが観るだけである程度分かってしまうのだ。


あの革鎧は接合部分が甘いな、とか。

この両刃剣は少しばかり刃こぼれしているな、とか。

そういった、気を付けて観ないと気が付かないような粗をパッと観ただけで発見してしまう。

それ故に、私は今迷っているのだ。

……完璧は求めないけど、粗い仕事はされたくないからねぇ。


「おっ?」


そんなこんなで探し歩く事数十分。

大通りから外れに外れ、もう少しで都市の外周部に到達しようかという所である露店を見つける事が出来た。

そこに売られているのは、一足の革のブーツだった。

狐と木の枝がモチーフの刺繍がされているそれは、【観察】が合って尚丁寧な仕事がされているように見える。


「お兄さん、見せてもらっても?」

「ん?!……あぁ、おう。いいぜ嬢ちゃん、ゆっくりしてけ」


大体30代くらいだろうか?革の鎧を着た男性プレイヤーに許可を取ってからそのブーツを手に取ってみた。

意識的に【観察】を発動させつつ細部を確認して……頬が緩むのを感じる。


「ねぇ、コレ貴方が生産したブーツ?」

「おう、そうだぞ。欲しいのか?」

「そうだねぇ。後はそうだね……ここに無い防具とかもお願いしたら作ってくれるかな?」


私の言葉に彼は驚いたように目を見開いた後に苦笑する。

はて、何か可笑しい事でも言っただろうか?


「クク……あぁ、すまない。ある友人と初めて会った時を思い出しちまってな」

「へぇ?」

「その依頼、受けよう。支払いはどうする?」

「んー……素材とお金、どっちがいい?」

「素材で頼む」


彼はこちらへと手を差し出してくる。

一瞬何かと思ったものの、私はにっこりと笑いながらその手を強く握った。

友好の第一歩は、やはり握手だろう。


「俺はメウラだ。嬢ちゃんは?」

「私はレラ。これからよろしく」

「あぁ、よろしくな」




--マイスペース


「いやぁ、良いモノが手に入ったなぁ」


その後。メウラとフレンドとなった後、手持ちの素材をある程度渡して防具を好きなように作ってもらうように依頼した。といっても、ブーツ以外だが。


――――――――――

『イニティブーツ』

作者:メウラ

耐久:100/100

種別:靴

品質:C+

効果:『蹴り』範疇の与ダメージ上昇

説明:兎の革を硬く、しかしながら使いやすく加工し作られたブーツ

   狐と木の枝の刺繍がされている

――――――――――


良い装備だ。

最序盤とも言っても良い現状、何のデメリットも無しに与ダメージを上昇させる事が出来る装備は有難い以外の言葉が思いつかない。

問題は私自身が『蹴り』関係のスキルをリアルでもゲームでも持っていない事だが……このゲームならば、使い続けていればいずれ手に入るだろう。


「履いてみた感じも……うん、良いね。違和感ない」


素足に革のブーツを履くというのはどうなんだ、と思うものの。

リアルでもないし別に問題はないだろう。

ともあれ、私はこれから装備系はメウラに任せる事が出来るだろう。

このブーツの刺繍を見る限り、恐らく彼は装飾品類にも手を出している……もしくは手を出す予定ではあるだろう。

ならば、私は彼に素材を提供し続ける事が彼に対する最大の報酬でありリターンとなるはずだ。


「よし、私は私でやる事をやろう」


生産と言えば私もやることがある。

今回手に入れた狼、そして鹿の素材を使っての煙草の作成だ。

1つのダンジョン、途中までの攻略ではあるが……それでも『硝子の煙草』はもう吸いたくはない。

作ってある分は全て吸うつもりではあるものの、あの酷い匂いを、煙を肺に入れたくないというのが本音だ。

ただ、今回使う素材も通常煙草の素材として使うものではない。

そこを分かった上で、『硝子の煙草』アレよりは良いモノを作ろうとしているのだ。


「……絶対、薬草使った方がいいんだろうなぁ。やらないけど。面白くないし」


自業自得極まれり。

だがこれも私のプレイスタイルだ。


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