「あぁもう!鬱陶しい!」
街を駆ける。
手に握った手斧を適度に背後へと投げつつも、私は現状逃げに徹していた。
というのも、だ。
「あれはちょっと難しいかなぁ……!」
ちら、と背後を確認する。
走る私を追うように迫ってきているのは、私と似たような姿形をした人型の影、影、影。
手に持っているものが手斧ではなく、革張りの椅子やランタンを含めた何かしらの照明器具。
そんな敵性モブが、集団となって私を襲ってきているのだ。
既にセーフティエリアであった部屋の位置など分からない程度には街の中を走り回り、その間にこのダンジョンに出現するのであろう敵性モブ達の姿も確認する事が出来た。
まず第一に、今も私の背後に迫ってきている人型の影。
次に、
『ティー……』
「げっ」
『ッブラァ!』
窓ガラスの割れる音と共に、前方から私に目掛けてテーブルが飛んでくる。
何かによる攻撃か?否。
この飛んできたテーブル自体が敵性モブ。突進のようにこちらへと突っ込んできているのだ。
慌てて路地裏へと跳び込み、息を潜める。
……大丈夫、かな。大分多いけど。
影やテーブルは、基本的に私の事を発見すると追いかけ続けてくる。
しかしながら、何故か一番襲いやすいであろう光の無い路地裏だけには入ってこないし、私がそこに隠れると見失ってしまう。
ギミックか何かだとは思うものの、その原因となっているものが何なのか分かっていない為にどうしようもない。
……このままじゃあ戦闘以前の問題だ。
表の通りに出ると影が湧く。
逃げ回るとテーブルが突っ込んでくる。
他にも、普段動いていないものの。私が近付くと同時に襲い掛かってくる本棚も確認出来ている。
影を対処すればいいのだろうが、1体倒している間に3体は湧いて出てくるのだから対処法が間違っているとしか思えない。
「影、か」
戦闘を行う事自体が非推奨ならば、次の階層へと続く階段か何かを発見すれば良い。
だがメタ的な思考が、こんなゲームの最序盤からそんなダンジョンに挑めるようになっているとは思えないと否定する。
ならば、私が取るべき行動は1つだ。
「まずは、行動可能範囲を広げよう」
敵性モブ達がこちらを認識できなくなる条件は分かっているのだ。
光を無くせばいい。薄暗い街の大通りを照らしているモノを壊していけばいい。
幸いにして、私の持つ紫煙外装はきちんと狙えば遠距離からでも物を破壊できるし、何なら取りに行く必要もない。
……安全にいくなら、路地裏から投げた方が良いかな。
出来る限り静かに、ミニマップを頼りに真っ暗な路地裏を移動し、街灯のように吊り下げられている複数のランタンを見つけ狙いを付ける。
浅く息を吸い、一気に吐き出すタイミングでランタンへと目掛けて手斧を投げる。
瞬間、ガラスが割れる音が大通りに響き渡った。
それと共に、
『ギィ?!』
「――へぇ?そういう事ね?」
1つのランタンが
その姿を目視した私は、すぐさま手斧を手元に呼び寄せ駆けだした。
目指すは勿論、鳴いたランタンへ。
だが、私が気が付いた事に気が付いたのか、ランタン側も今までのように吊り下がっている状態から空中に浮かび上がった。
一回りほど巨大化し、通常火が灯っているであろう場所には人の頭蓋骨が青い炎を放っている。
完全に敵性モブだろう。
『ギギィ!』
ランタンが再度鳴くと同時、建物などから影が湧きだし人型を象っていく。
それが意味する事と言えば1つだ。
「君を倒せば影への対処になるって事だッ!」
影達は私へと走って近づいてきている。しかしながら、ワンテンポ遅い。
私は既に、ランタンの前へと辿り着いているのだから。
何やら青い炎を集めているランタンに対し、何か言う事もなく……私は手斧を滅茶苦茶に振り下ろす。
ガシャンという音が続くと共に、影達の動きが鈍っていくのを感じる。
ランタンが何かをしたのか、それとも何かをしようとして仕損じたのか、私のHPが手斧を叩きつける度に少しずつ減少しているものの、気にせずに叩きつけ。
そして、
【ランテルを討伐しました】
【ドロップ:割れたガラス×1、骨の破片×1】
私の肩に影が手を置いた瞬間、消えていく。
ランタンによる光が無くなったために、闇に溶けてしまったかのように。
「ふぅー……オッケーオッケー。攻略方法は理解した。つまるところ、ここは奇襲前提のダンジョンなわけだ」
全体的に。
プレイヤーも、そして敵性モブも含めた全ての存在が奇襲を前提にデザインされたダンジョン。
それが【墓荒らしの愛した都市】というダンジョンなのだろう。
だが理解してしまえばそこまでだ。
闇から闇へ、自身の動けるエリアを拡大しながら、先を目指す。
そうと決まれば、
「ランタン、まだ沢山残ってたよね」
まずはランタンの掃除から始める事にしよう。