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第9話

 リオはニンジャを制限速度も振り切り公道でとばしていた。

 信号を無視して突っ込んだところ、後ろに着いてくる車に気が付いた。

 テスタロッサだ。

 車はさらにスピードを上げて、ニンジャに迫ると、そのまま衝突した。

 リオの小柄な身体は、空中に投げ出される。

 テスタロッサがニンジャを引きずりながら、リオのそばまで走り、車道の真ん中で停まる。

 後れていた後ろの車列は、なんとかテスタロッサとニンジャを避けて進むが、やがてのろのろとスピードを落として渋滞ができた。

 このときになって、車内に設置した通信機から声がした。

「特警への襲撃は中止だ。我が社は以後、一切この事件に関わらないこととする」

 ハットにワンピース姿の少女とコートに三つ揃いのスーツを着た青年の二人が互いに怪訝な顔を見合わせる。

 会社は今になって何を言っているのだ?

 さらにこの命令は、取り方によっては、彼等トウヤとフリカを切り棄てたとも取れる。

「冗談じゃ無いぞ……」

 トウヤは、倒れているリオに視線をやってつぶやいた。

 今更中止もないだろう。

「どうするの、トウヤ?」

 フリカは不安そうに訊いてきた。

「大丈夫だ、俺はオウミ・オキタにも話を通してある。いざとなったら、そっちに行けばいい」

「なるほど」

「だが、その条件は特警を消す事だ」

 どちらにしろ、リオを始末しなければ鳴らないのだ。

 フリカはうなづいて覚悟を決めた。

 二人は車から車道に降り立った。

 リオは生きている。

 それどころか傷一つない。スカジャンにすらも。

「……てめぇら、西尾警備のところの奴らだな?」

 リオは立ち上がって二人を睨んだ。

 懐中時計というスタンダードな形の変換機は首からネックレスのようにかけられていた。

 トウヤが、同じ形の変換機を細いチェーンで手からぶら下げる。

「どうも、リオ巡査長」

 それをみて、リオは皮肉に片方の口角をつり上げる。

 フリカはS&Wを腰から抜いていた。

 リオも脇のホルスターから、グロッグを右手に握った。

 トウヤが円を描くようにして駆けだしてリオに近づいて行った。

 リオは、グロックの狙いを彼に付けたまま、狙いが定まらずに引き金を引けないでいた。

 その隙に、フリカが拳銃をリオに向けて構える。

 リオはすぐに気付いて、横に跳んだ。

 S&Wの銃声が響く。

 着地したとき身体を安定させるため、動きをとめたリオに、トウヤが一気に近づき、チェーンの着いた変換機を振り投げてよこす。

 変換機は彼女の目の前まで来て、その力を発動させた。

 リオの両足が地面と同化して、動きが取れなくなる。

 だが、同時にトウヤは突然の爆発に身体を浮かせた。

 リオが敷いた地雷を踏んだのだ。

 トウヤは片足を吹き飛ばされて、道路に倒れ込んだ。

「トウヤ!?」

「フリカ、今だ早く!」

 痛みも衝撃も無かったかのように、トウヤが必死に叫ぶ。

 まだリオは地面に貼り付けにされている。

 フリカは拳銃の狙いを付けた。

 同時にリオも拳銃を向けてくる。

 発砲は同時だった。

 引き金を絞るとともに、リオは銃撃から逃れるように背後に倒れた。

 フリカも横に跳んでいた。

 お互いの弾丸は逸れる。

 フリカはもう一発、銃弾を見舞う。

 これは、リオの右上腕に当たった。

 リオは舌打ちする。手に力が入らずに、グロックを落としてしまった。

「クソッ」    

 トウヤが上身をあげて、嗤う。

「俺たちの勝ちだ」

 そこに、ポルシェ911が反対車線から猛スピードで走り込んできた。

 容赦なくトウヤの身体を轢いて砕くと、フリカとリオの間に車を止める。

 飛び出したマユミは、刀の柄に手を添えながら、まっすぐフリカに向かって走り込んでいった。

 突然の展開に驚き、反応が後れたフリカは拳銃をむやみに発砲初める。

 一発もかすることもない弾丸の中を間合いまで近づいたマユミは、抜きざまの刀を横薙ぎに振るった。

 フリカの首が高く飛んだ。

 血を吹き出し、身体がそのままの格好で後ろに倒れる。

「リオ、大丈夫か?」

 ユウキが彼女の所に駆け寄る。

「……何だよ、うっせーな……これぐらいどってことねぇよ」

 トウヤの変換機が粉砕されたために、足が自由になったリオは、左手でグロッグを拾い、立ち上がろうとした。

 ぶら下げた右手の先からはおびただしい血が流れ落ちていた。

 ユウキはそれをみて舌打ちした。

 身体に似合わぬ力をみせてリオを抱きかかえると、車に押し込んだ。

「マユミ、リオの邪魔にならないように乗り込め」

「はいなー!」

 駆け戻ってきた少女は、マユミが抱き抱える形で膝の上に乗った。

 運転席に戻ったユウキが車を発進させる。




 ユウキは臧目緊急病院に向かった。

 医者を呼び、すぐに手術室にリオを運ぶ。

 リオは失血の朦朧とした意識のなか、夢を見ていた。

 リオはまだ小さく、麦わらの帽子にワンピースを着ていた。森の中、手に木製の拳銃を持って茂みに潜んでいる。

 潜ませた足音が聞こえてきた。

 リオはニヤリとして、相手が近づいてきた途端に姿を現し、銃を突きつけた。

 驚いたのは、タンクトップにホットパンツを履いた同じぐらいの年齢の少女だ。

「バーン! はいカリル死亡ね」

「くっそーっ! 隠れてるなんて卑怯だぞ!」

「気付かないあんたが悪いんだよ」

 ゲラゲラと笑い、ほら、倒れろと要求する。

 カリルは、苦しんで見せて、そのまま草の上に身体を投げ出す。

 リオは楽しくなり、その上に飛び乗った。

 カリルはカエルが潰れたような声を出す。

 隣にごろりと転がり、一緒に寝転んだ。

「カリル、あたし将来、この臧目を守る仕事に着くんだ」

「なにそれ? 正義の味方って奴?」

「そう、まさにそれ!」

 カリルは笑い声を上げた。

「なにそれ、おもしろいー!」

「カリルも一緒になろうよ」

「あー、あたしかぁ。まぁ、いいけど……」

 少し照れくさそうにカリルは言った。

「よし、決定だ。約束ね」

「お、おう!」

 …カリル……カリル……。

 イザマ、カリルが死んだよ……君のところにいったよ……。

 どうして、みんな行っちゃうんだよ……。

 あたしを……。

「呼んだか、リオ?」

 声にリオは飛び起きた。

 見ると、病院のベッドにパジャマ姿で輸血を受けているる自分がいた。

「ここは……ああ、トウコの……」

 薄ぼんやりとした頭の中だったが、すぐに気付く。

 ベッドの脇には、ユウキとマユミと主治医が立っていた。

「起きたか」

 ユウキはがつぶやいた。

 どこか、安心したという響きがある。

「ねー、ねぇやん、意識無いとき必死に、にぃやん呼んでたんだけど、どうしたの?」

 マユミは、少し不機嫌な様子で問いただしてきた。

 嫉妬しているらしい。

「あたしが……ユウキを? 覚えがないし、知ったこっちゃねぇな……」  

 リオは、己のことながら、訳がわからないと、少し怒りが湧いた。

 よりによって何故、ユウキのうわごとを漏らさなければならないのか?

 ユウキはすでにいつもの全てに無関心とした態度に戻り、ベッドのそばに座っていた。

「ふーん、まぁいいけど。それよりも、怪我がこれだけで良かったね、ねぇやん」

 マユミはニッコリと笑顔を向けてきた。

「ああ。助けに来てくれてありがとな、マユミ」

 リオはマユミの頭を撫でてやる。

「で、ユウキが言ったことが本当なら、オウミ・オキタをどうにかしなきゃなんねぇな」

 マユミの頭に手を置いたまま、リオはユウキを見た。

「……どう思う? 殺るか? 捕まえて牢にぶち込むか?」

「迷うことねぇだろう。殺ったほうが良いに決まってる」

「評議会から言質を得たからとか言わないだろうな?」

「関係ねぇよ。まぁ、その前に西尾警備を潰さないと、気がすまねぇが」

 ユウキは、ため息を吐いた。

「西尾警備には、評議会から俺たちに手を出さないように警告させた。わざわざ潰す必要はない」

「ざけんな、あたし達が狙われたんだぞ? トウコも死んだ。それをごめんなさいの一言も無く、放っておけって言うのかよ!」

「そうだ。西尾警備が無ければ、臧目が成り立たない。それにもう直接の襲撃者は死んだ」

 リオは怪訝そうに眉をひそめた。

「……ユウキ、何考えてる? おまえ、人間だろう。どうして、ウチらイマジロイド側みたいなこと言うんだよ?」

 ユウキは少しの間、沈黙した。

 香料の紙巻きを取り出して咥え、鼻を鳴らす。

「むしろ、その人間に追い出された俺が、わざわざ人間のために働いてやる必要なんてないだろう?」

 リオは聞くと、これ以上突っ込んだ質問ができなくなった。

 多少は信用していい奴なのだろうか?

「あとついでにな、リオ。オウミ・オキタに手を出すと新機種から身の危険に晒される。評議会も当てにはならないだろうな」

「……なら、オウミ・オキタは放って置くとでも言いたいのかよ?」

「冗談。俺に考えがあるから、まかせておけ」

 ユウキは、ポケットから、小さな懐中時計のようなものを取り出して見せた。

「変換機……おまえも持ってたのかよ」

「ああ」

「すごいんだよ、にぃやん。アサトさんのところに行った時、クロトを動かしたのはにぃやんの能力だったし」

「マジか……どんな能力なんだよ、あんたのは?」

「まだ言えないな。まぁいずれわかる」

「そうかい……よし……」

 リオはたいした興味もなさそうにすると、起き上がったまま身体を反転させて、ベッドから降りようとした。

「ねぇやん、まだ寝てなよ!」

「さっさとここから出て、アタシはトテリアブをとっ捕まえるんだよ」

 言ったが、すぐにふらついて、そのまま床に尻餅をついた。

「あれ……? おかしいな」

 リオは苦笑いをして、身体を立ち上げようとした。

 フラフラとした動きで、何とか立ち上がった彼女は、ユウキに目を遣った。

「ちょっと、外に行ってろ。着替える。マユミ、手伝ってくれ?」

 ユウキは一瞥して、黙ったまま病室のドアから姿を消した。

 リオはマユミに支えてもらいながら、スカジャンとサルエルパンツのいつもの格好になった。

 病院内でユウキの姿が見られないので、諦めた二人は裏口から出たところ、丁度車が止った。

 フェラーリ・カルフォルニア・グリジオ・ネオに乗ったユウキだった。

「……あんた、いつもそういうのどこから手に入れてくるんだよ」

「今回は、リラーラヴィル・ギグからだな」

 こともなげに言う。

「は? あんた繋がってたのか、あそこと!?」

「失礼な。たまたま、乗り込んでって、ちょっと貸せと要求したら、喜んで出してきただけだ」

 再びリオにとって、ユウキが謎の存在になる。

「ほー、たまたまねぇ……」

 リオは助手席に乗った。

 フェラーリはユウキの運転で走りだし、公道に出た。

「で、ユウキ。犯罪者研究のプロとしては、テトリアブをどう見てるんだ?」

 リオがからかい半分の皮肉で訊く。

 ユウキはまっすぐ前を見ながら、真面目な表情を崩さない。

「初めは、新機種を無差別に殺していたんだがな。最近、転向したようで通常イマジロイドの重要人物ばかりを狙うようになった。いわゆる、殺人と言うよりも、テロだな」

「へぇ」

「それ以上は、わからん」

 ユウキは、官庁街にフェラーリを入れた。

 奇妙な街だった。

 昼間だが、人々はいたって普通に勤務している。

 だが、ここの三分の一は、オウミ・オキタの支配下にあるのだ。

 ユウキは区長官邸の周りを何度か通りぬけてから、建物の前に車を駐めた。

 中に入るとニカイドウと、若い青年が一人、ソファに座っていた。

「……ああ、来か」

 苦笑いを浮かべていた臧目特別自治区の区長は、助かったと安心したような顔を三人にむけた。

 振り返った青年は、長い髪で切れ長の目をして、細い引き締まった身体をしていた。

 紫のブラウスに黒い皮のパンツを履いたラフな格好で、端麗な容姿をしていた。

「はじめまして、オキタさん」

 ユウキは彼に挨拶をした。

 リオとマユミは驚いて声も無かった。

 まさか、クーデターを起こし、反乱中の首謀者が、その敵対相手のニカイドウと一緒にいるとは考えられない光景だったのだ。

 彼女らの表情を読んだオキタは、優しげに軽く笑顔を作った。

「我々も、伊達に一年も反乱しているわけじゃないですからね。こうして、話し合いで解決できることは、ちゃんと話します。無駄な血を流したくないので」

 涼やかな声だった。

 ニカイドウの落ち着かない様子を見ると、彼女はオキタが苦手らしい。口を閉じたまま、ユウキが喋るのを待っている。

 カチリッと、ユウキの変換機がかすかな音を鳴らしたのを、リオは今度こそ聞き逃さなかった。

「今回は、テトリアブの話だな」

「人間がこの自治区を潰すかどうかの問題ですからね。そうですよ、テトリアブの件で伺いに来ました」

「利用するだけ利用しといて、放り投げに来たのか?」

 ユウキは皮肉な表情を浮かべて、彼の正面にあるソファに座った。

「失礼な。テトリアブはテトリアブで独自に動いてたんですよ」

 怒った風でも無く、淡々とオキタは答える。

「嘘つけよ。連続殺人に見せかけて、おまえの政敵を殺りまくってたじゃないか」

 ユウキもいつも通りに落ち着いている。 「まぁ、そういう時期もありましたね」

 オキタはあっさりと認めた。

「しかし、今は違いますよ。テトリアブは私の手から離れていきました」

「それで困って、のこのことニカイドウのところに来か」

「ええ、まぁ。すでに単なる犯罪者ですからね、アレはもう」

 オキタはユウキの挑発には乗らない。

「では、遠慮無くテトリアブの身柄をもらい受けようか」

「そうしていただければ幸いですね」

「しかし、不思議だな?」

「何がです?」

「頼み込みに来たにしては、官邸から離れた位置に、ちょっと人が集まり過ぎているんじゃないのか?」

 オキタは低く嗤った。

 リオとマユミは初めて、車で周回したときに目に付いたイマジロイドが何者か気付いた。

 オキタの部下達が、遠目に官邸を包囲しているのだ。

 彼女らはただの護衛かと一瞬、思ったがユウキの口調では違うらしい。

 ニカイドウが、落ち着き無い様子なのも納得が行った。

 実質、ニカイドウは人質に取られて、オキタが立てこもっている状態なのだ。

 すんなりとユウキらが入れたのは、何か別の考えがあるのだろうが、まだ理由はわからなかった。

「ええ、護衛ですよ」

 今更ながらに、オキタは主張する。

「何からのだよ?」

 ユウキは鋭く質問した。

「テトリアブから」

 オキタは慌てずに言った。

 リオは、やっと壁に貼られたペーパーヴィジョンが映像を流しっぱなしにされていたことに気付いた。   

 現地からの放送ということで、官邸近くにはテレビ局や記者達が集まり、今起こっている事態を説明していた。

『オウミ・オキタ氏が動きました。彼は新機種の権利を叫び、とうとう官邸を占拠した模様です』

「……は?」

 リオはつい、オキタに向き直る。

「何これ、じゃあ、あたし達はあんたのクーデターの人質ってわけ!?」

「……まぁ、そうとも言えますね」

「茶番だよ。ほれ、見ろ」

 ユウキはペーパーヴィジョンを顎で示す。

 映像には、すっかり囲まれたイマジロイドの間を堂々と通り抜けてくる一人の少女の姿があった。

 ポニーテールの髪にタンクトップ、ハーフパンツ姿で、腰にホルスターをぶら下げている。

「カリル……!?」

 リオは驚きの声を上げた。

 ポニーテールの少女はそのまま、官邸の中に入ってきた。

 カリルは疲れ切って憔悴した顔で、右手に銃を持ち、彼等の前に現れた。

「やぁ、リオ、久しぶりだなぁ」

 気安い様子で、リオに手を振る。

「カリル……死んだんじゃ無かったの!?」

 喜色を浮かべて、リオは駆け寄った。

「殺されるかとおもったのは、こっちだよ。次から次へと、イマジロイド共は襲ってくるし、逃げるか殺すかしないとならないし。全部、そこにいるオキタのせいだけどね」

「ちょっと!全然、状況が掴みきれねぇよ!」

 リオが全員を見渡して、誰か言葉を発しないか待った。         

「それならそれで良いのです。私はそろそろ役目を終えますから」

 オキタは立ち上がり、カリルに正面を向けた。

 軽く手を広げて、無抵抗な格好になる。

「さぁ、カリル。黙ってないで、目的を果たしてください」

 カリルはオキタに拳銃を向けた。

「待て、カリル!」

 ユウキが叫び、横目でマユミを見た。

 少女の身体から、カチリッと音がする。

 変換機の音だ。

 途端にカリルの動きが止った。

「!?」

「どうした、何をした!?」

 リオが声を上げる。

 オキタは、不思議そうな顔をして、ユウキ達の方に首を回した。

「残念だったな、オキタ。このマユミは全身変換機でね。生半可な威力じゃないんだ、これが」

 ユウキの声は低く、つぶやくようだった。

「殺されに来たようだが、そうはいかないぞ、オキタ」

「参りますねぇ。私が死ねば、新機種の暴動が起こる予定なのですが……」

「そして、人間の介入が行われるんだろう? 見上げた根性だが、そうはいかない」

「ほぅ。良くわかりましたね」

「都合が良すぎるんだよ。あんたには、もっと酷い目に遭ってもらう。人間から臧目を守るために」

 パトカーのサイレンが大量に甲高く、響いてきた。

 警保だ。

「くそ……」

 オキタは吐き捨てると、腰の後ろからスノッブノーズのリヴォルバーを抜いて、自らのこめかみに銃口を突きつけようとした。

 次の瞬間に銃声が鳴った。

 オキタは苦痛の表情で、床に転がっていた。

 リオがS&Wで彼の右足を素早く撃ったのだ。

「殺さない方がいいんでしょ、ユウキ?」

「ああ、上出来だ」

 パトカーから警保員が大量に官邸に押しかけて、オキタの身柄を抑える。

 中から、眠そうな青年が進み出た。

「オウミ・オキタ、大量殺人の罪で、現行犯逮捕する!」

 カキザキ・ロジ捜査一課課長だった。

 リオは、拳銃で倒れたままのオキタの腕をもう一発、打ち抜いた。   

 もだえる彼を、捜査員達が群がり、強引に引きずってゆく。

「やれやれ……」

 官邸の周りに集まった新機種達は、警保の警備隊に力尽くで散らされて、散会していた。

 ニカイドウがため息を吐くと、同時にカイルの身体が動いた。

「……リオ……あたし……」

「おかえりだ、カリル。何も言うな」

 リオは、カリルに抱きついた。

 カリルは堪らなくなって、目から涙を流し始めた。

 彼女は解放されたのだ。

 大量殺人犯という役目から。

「で、にぃやんは?」

「……俺はこのままでいい」 

「ふーん、そう」

 マユミとユウキが謎の会話を終えると、静かになった官邸から、フェラーリに戻った。




 オウミ・オキタは、あらゆる犯罪を口にして、全ての容疑を認めて行った。

 警保局は裏取りに大忙しとなり、俄然と活気に満ちた。

 何しろ驚くことに、彼はあっさりとここ数年の未解決事件ことごとくの関与をためらいも無く、むしろ石器欲的に。半ば、喜びすらみせながら。

 その犯罪件数は七十八件にも及び、空前の大事件として、ペーパービジョンで特集が乱れ飛んだ。


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