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第122話 酒席

駅ビルなどをふらふらして、

時刻は夕方5時頃。

時計を見たケイが、

「そろそろかな」

と、つぶやく。


「とりあえず、大衆居酒屋。まぁ、適当に飲もう」

「はい。で、場所は?」

「駅北口のとこ。蔦葉って名前のとこ」

「じゃ、行きますか」

緑は歩き出す。ケイの手を取って。

夕方になりかけの頃。

ぼんやりした太陽も、沈もうとしている。


ケイがナビゲートして、駅北口の蔦葉という居酒屋にやってくる。

ぼんやりした夕焼け色に染まった扉。

木製のそれを開く。

カランカランとベルが鳴る。

「いらっしゃいませ」

と、元気よく声がかかる。

店員の女性が出てくる。

「予約していた皆川です」

ケイがよどみなく答えると、

店員の女性が、承知し、店内の奥に通される。

予約席と記された紙を、店員の女性が取ると、

緑とケイは、ボックス席についた。


「で、どれにする?」

ケイがメニューを渡した。

カクテル、チューハイ、ビールにワイン。

緑はぜんぜんわからない。

うんうん悩む。

ケイは苦笑いした。

「とりあえず、ソルティードッグとスクリュードライバーで」

ケイが勝手に注文した。

店員は伝票に記すと、席を去っていった。

緑は、抗議する。

「まだ頼んでません」

「スクリュードライバーからはじめてみようよ」

そういわれ、緑はなんとなく答える。

「ああ、オレンジとウォッカですね」

ケイの目がまん丸になる。

「知ってるんだ」

ケイが驚いたことを悟り、

緑はなんとなく落ち着かなくなる。

ここでないどこかで知ったこと。

スクリュードライバー、なぜか知っていること。

落ち着かなくなる。

「…何でだか、知ってるんです」

緑はそう言った。

信じてもらえるかは、わからなかったが、そう言った。

ケイは、苦笑いした。

「どっかで調べてきたかな。天然風間のくせに」

「なんとでも言ってください」

ケイはニヤニヤ笑っている。

緑も、笑い返した。

苦笑いしか出来なかった。


「お待たせしました」

テーブルに、カクテルが二つ置かれる。

置かれたのを見計らって、ケイがメニューを開く。

「ポテトとサラダ、それから焼き鳥と…」

ケイが手早く注文する。

緑は呆然と見ている。

店員はまた伝票に記すと、席を去っていった。

ケイはメニューを閉じて、薄黄色のカクテルを手に取った。

「オレンジは風間の」

「はい」

緑はカクテルを手に取る。

「それじゃ、かんぱーい」

「かんぱい」

グラスが触れる音がする。

ケイは、一口、カクテルを飲む。

緑もカクテルを飲む。

甘いにおいのするオレンジジュース。

なぜか口に含むと苦い気がする。

不思議なジュースを飲んでいる感覚だ。

緑は一口飲んで、テーブルにグラスを置いた。

口の中が、奇妙な感覚に陥っている。

ケイが面白そうに、それを見ている。

「変な顔してる」

ケイはニヤニヤと笑う。

「不思議な感じです。ジュースのようなそうでないような」

「カクテルだよ。ビールからじゃ、苦いと思ってさ」

「うーむ」

緑はカクテルをにらむ。

「なかなか手ごわい」

なんとなく、つぶやいてみる。

「一杯目からそんなこと言うもんじゃないよ。どんどん飲むんだから」

「どんどん?」

「そう、どんどん」

「…あの、お手柔らかに…」

緑が情けなく言うと、ケイは笑った。

「弱虫風間」

「なんとでも言ってください」

緑はそういい、カクテルを口にする。

まだ慣れない味。

ウォッカとオレンジジュースの味。

このウォッカはスミノフだろうかとおぼろげに考える。


「お待たせしました」

「お、きたきた」

酒のつまみとなるようなものが、いくつか運ばれてくる。

先ほどケイが頼んだものらしい。

「あと、キール、一つ」

「かしこまりました」

店員が伝票に記していく。

「キール?」

「うん、もう飲んじゃったから、次」

「え?」

見ればケイのグラスは、氷しか残っていない。

「さ、食べて飲んで、楽しく過ごそう」


緑は軽くため息をついて、

記憶に引っかかるスクリュードライバーをゆっくり飲んだ。

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