タムの意識はふらふらとする。
ネフロスに担がれて、きっとアジトに向かっているんだろう。
揺れが心地いい。
タムは目を閉じた。
視界が黒くなる。
まぁ、当然光が遮断されるわけだし。
タムはのんびりとそんなことを考え、目を閉じていた。
暗い視界に、何か明かりが見える。
タムの意識は、おや、と、思った。
遠くで、ネフロスとパキラの声がする。
何で、遠いんだろう。
何で、目を閉じているのに明かりが見えるんだろう。
身体は、銃弾を使って疲れている。
タムは仮定する。
身体から離れたか?
一時的なものかもしれない。
あるいは、エバと境界の上を行った名残かもしれない。
タムの意識は、明かりを目指した。
明かりは、一つの部屋につながっていた。
タムの意識は、部屋の天井にある。
タムの意識は、自分の壊れた時計を感じる。
よくわからないが、壊れた時計が延長して、意識がここにある。
お化けみたいなものかもと、タムの意識は思った。
部屋は、天井の窓から明かりを取っている。
狭いのに、調度品とかいうものは、豪華に作られている。
王様とか女王様とか、貴族とか。そんな印象。
豪華なテーブル、豪華な椅子、豪華なベッド、豪華な器具。
タムは天井から眺めている。
なんとなく、誰にというわけではないが、
部屋全体が見栄のような気がした。
部屋の扉が開く。
見たことのある女が飛び込んできた。
チャメドレアだ。
チャメドレアは大急ぎで扉を施錠し、椅子に深く腰掛けた。
大急ぎで逃げたのだろう。
ポリシャス町長の養女は、ここにきっと隠れているのだ。
「カレックス…」
チャメドレアは呼びかける。
「カレックス・ブキャナニー…応答して…」
チャメドレアの足元から、影法師が伸び上がる。
『呼んだかしら?』
「ああ、カレックス…あたくしは、あたくしはどうすればいいの…」
チャメドレアはさめざめと泣く。
演技なのか本当なのかはわからない。
『ビール8体では返り討ちね』
「ああ、カレックス…」
『もっと強い火恵の民を呼び出さないといけないかしら』
「あたくしには、もう、財力も何もないわ…」
『あたしにまかせなさい。もう、火恵の民を買わなくてもいいわ』
「本当に!?」
チャメドレアは、影法師を見た。
崇拝しているように見える。
タムの意識は思う。
カレックスとやらが、チャメドレアを突き動かしているのかもしれない。
チャメドレアは、踊っているだけに過ぎないのかもしれない。
『チャメドレア、ユッカの身体は、健康な身体に過ぎないのね』
「ええ…グラスルーツを調べれば、すぐに出ると」
『それでいいわね』
カレックスが、何か納得した。
「カレックス、何がいいのか、あたくしにはわからないわ」
『仕掛け人形を作らなくてもいいわ。ユッカの身体に火恵の民をおろしましょう』
「そんなことが…」
『チャメドレア、あなたは女神になりたいのでしょう?』
「え、ええ…」
『女神のチャメドレア、その影のカレックス、そして、あたたかな楽園』
「あたくしが女神…」
『そう、あなたが女神。あなたが支配する世界』
「あたくしが女神…」
見栄の小さな部屋の中、
チャメドレアはつぶやく。
「あたくしは、世界を一つにして…それを支配したかった…」
『共に支配をしましょう。あなたに出来ないことはない』
カレックスがささやく。
チャメドレアはうつろにうなずく。
狭い部屋。
影法師と語る、チャメドレア。
チャメドレアには、天使にでも見えているのか。
あるいは、悪魔と契約とでも思っているのか。
『火恵の民を、いくつかまとめて、ユッカの身体に入れましょう』
「そんなこと…」
『いまさら怖くなったのかしら、チャメドレア?』
チャメドレアは、呆然としたまま、首を横に振った。
『それならいいのよ、きっと雨恵の町をつぶせる、怪物が出来上がるはずよ』
「怪物…」
『創りあげるには、壊すこと。全て壊してしまいましょう』
「すべて…こわ」
ざぁ…
タムの耳に、音が聞こえる。
意識ではない、耳から音が入ってくる。
「気がついたか」
ネフロスが、ほっとしたようにタムを見ていた。
上から、大量の水。
タムは自分の身体を見る。
意識が身体に戻ってきたらしい。
タムは、降ってくる水に身体を預けた。