コケモモは、以前のベアーグラスにそうしたように、
乾いたポリシャスを箱に入れた。
棺桶なのだ。
乾いているから箱でもいいのだ。
コケモモは祈りを唱える。
輪になっていた人影はそれらを見届けると、
一人、また一人、地下室から出て行った。
コケモモも箱を背負ってあとに続き、
アロカシアとタム、そして、新しいポリシャス町長が残った。
「…まだ目覚めないでしょう…」
アロカシアは、霞のような声で言った。
「壊れた時計の刻みが安定するまでは…目覚めないでしょう」
タムはうなずいた。
「それでは、僕はこれで」
アロカシアもうなずく。
「予言をありがとう…」
タムはうなずき、地下室をあとにした。
重い扉を開き、出て、閉じ、
階段を上る。
だんだん明るくなってくる。
そして、1階。
少し歩けば受付が見える。
受付の吹雪柱に、タムは礼をした。
彼女も微笑んで礼をする。
「グラスルーツの工事は終わりましたか?」
タムは聞いてみる。
「はい、終わったようです。通信もちゃんととれます」
「どうも」
ペコとタムは一礼して、外へと向かうことにした。
プミラとアスパラガスが待っているはずだ。
そのとき。
ガラスの割れる音がした。
悲鳴が上がる。
ただ事ではない。
タムは走り出した。
治療屋の入り口。
緑色のドレスをまとった、細身の女がいる。
色香を漂わせているらしいが、問題はそこではなかった。
細身の女のまわりに、いくつかの黒い人影が…火を右手に持っていた。
火恵の民だ。
女は、響く声で話し出した。
「あたくしはチャメドレア、ポリシャスの養女。今日はお願いがあってまいりましたわ」
チャメドレアの顔に、笑みが乗る。
「ポリシャスに会わせていただけませんこと?」
チャメドレアのその表情は、毒を含んでいる。
「さもなくば、連れのこの方々が、治療屋を燃やし尽くしましょう」
彼女は高らかに宣言した。
「あなたたちは、今から人質ですわ!」
チャメドレアは笑った。
高らかに笑った。
彼女の後ろに黒い人影を…
タムは数える。
4人。
酒精術で覚醒したとして、どうだろうと思う。
一人で覚醒して突っ走ったとして、残りの火に焼かれる可能性がある。
治療屋の患者はおびえている。
タムは、チャメドレアの前に歩み出た。
予言があるならば、彼女はエリクシルでつながなければならない。
チャメドレアは、歩み寄ってくるタムを認めたらしい。
フン、と、見下したように鼻を鳴らした。
「坊やが何か御用?」
「エリクシルのものです」
チャメドレアの表情がこわばる。
後ろの火恵の民が、構えた。
チャメドレアが制する。
「あたくしは、無益な死は望まないのよ。焼かれたくなければ、さっさとポリシャスを出しなさい」
「何が目的ですか?」
チャメドレアは、笑う。
「あたくしは、新しい町長になるの。火恵の民とともにある、あたたかな町を作るためにね」
火恵の民が肩を震わせているようだ。
きっと、笑っているのだ。
「ですから、ポリシャスなんていう老人は必要ないの。さぁ、さっさとあいつを出しなさい」
「ポリシャスさんは、今は老人ではありません」
タムは言った。
チャメドレアの顔色が変わった。
そして、にたぁと笑った。
「噂は本当だったようね…地下には壊れた時計を切り替えるものがいると…」
うれしくて、たまらないようだ。
何かおかしい。
「本当の目的はなんですか!」
タムは怒鳴った。
チャメドレアはおかしくてたまらないらしい。
「さーあ、思う存分焼いてしまいなさい。地下だけは残してね」
チャメドレアが命を下す。
「きっと地下にはユッカの身体があるはず、それさえあれば…」
今何と言った?
ユッカの身体?
それより、火恵の民は!
タムはめまぐるしく混乱した。
だから、聞こえなかった。
どこかで、銃弾をかじる音がしたこと。その音を。