タムは210号室をあとにして、
地下への階段を探した。
大きな窓ばかりの治療屋。
光があるほうが、病人にはいいのだろう。
ぼんやりした太陽の光が差し込んでくる。
外では相変わらず作業をしているのか、
小さく振動を感じる。
タムは、210号室のある2階から、
受付のある1階へとやってきた。
案内板を見て、地下へと続く階段を見つける。
タムは、そこへと向かった。
「大体、光浴びると元気になったりするよね」
タムは、地下への階段を下りながらつぶやく。
「地下にいるって、どういうことだろう…」
暗い階段だ。
タムの足音が、一つ一つ響く。
やがて、タムは一つの扉の前に来た。
ノックをする。
返事はない。
ノブを回してみる。
鍵はかかっていない。
タムはドアノブを回し、中に入った。
扉が重々しい音を立てる。
中は、少しだけ光がさしていた。
天井に窓があるらしい。
そして、人影がいくつか。
正確な数はわからない。
そしてその中心、さす光の下、
ベッドに横たわる影二つ。
一つは、そのまま、影法師だ。
もう一つは、悲しいほどやせこけた、老人だ。
きっとこの老人が、ポリシャス町長なのだろう。
タムは、人影の輪に近づいた。
人影の一つが振り向いた。
黒いローブ、タムが見上げれば赤い目。
「コケモモさん…」
棺桶屋のコケモモはうなずいた。
「ポリシャスさんは、乾いてしまったのですか?」
タムは、たずねた。
コケモモは、首を横に振った。
「乾いてはいない、腐りかけている」
「じゃあ、なぜ」
「おぬしを待っていた」
コケモモは、黒いローブに、また、赤い目を隠した。
「立ち会ってほしい、壊れた時計の切り替えに」
「僕が…」
人影の輪から、霞のような声がした。
「ポリシャスは生きすぎた…切り替える時期を逃してしまった…」
一人の黒いローブをまとった人影が前に出る。
頭からすっぽりとかぶっていて、表情は見えない。
「私はアロカシア…この地下にて、壊れた時計の切り替えを行うもの…」
「切り替え…」
「祈りがあれば…約束があれば切り替えられる…また…めぐりあえる」
「ポリシャスさんを切り替えるんですね」
タムが言えば、アロカシアはうなずいた。
「エリクシルに…ポリシャスに関する予言があると…」
「予言」
タムは覚えている。
「その予言を唱え…約束とし…壊れた時計を別の身体に…切り替える」
タムはうなずいた。
コケモモが、タムを輪の中心に行かせた。
アロカシアがうなずいた。
タムもうなずき返し、予言を唱えた。
「チャメドレアはエリクシルでつなげ。忘れるな、ポリシャス」
ベッドに横たわっている、ポリシャスがうなずいた。
弱弱しくも、確かに。
そして、アロカシアはポリシャスの手を取った。
「祈りはつなぎ…約束は交わされる…あなたの壊れた時計は切り替わる…祈りとともに」
アロカシアは唱え、
老人の隣に横たわっている影法師と、老人の手を重ねた。
アロカシアは、重なったのを確認すると、静かに宣言した。
「壊れた時計は…祈りとともにある…確かに」
霞のような声が、宣言すると、
タムの耳に、時計の音が、ふわっと聞こえた。
まるで、時の風が吹いたような感覚がした。
そして、一瞬のうちに消えた。
身体の奥がざわめいている。
違う時の流れを感じた気分だ。
鼓動を取り戻そうとする。
輪になっている人影も、ざわついている。
似たような感覚になったのかもしれない。
そして…
ベッドに横たわっているものは、完全に変わっていた。
ポリシャス老人だったものは、小さな塊に乾ききってしまい、
そして、影法師は、若々しい青年へと変わっていた。
「…新しいポリシャス町長です」
アロカシアがそういうと、人影がどよめいた。
タムは、どよめきの一つを聞いた。
「チャメドレアはどう思うだろう」
タムは、なんとなくであるが、気にかかった。