タムは、203号室のヘデラの病室をあとにした。
リストをポケットから取り出す。
受付で書かれた病室案内を見直す。
次あたりは、210号室のアラビカに向かうかと思った。
それから、ポリシャスは地下の病室らしい。
タムは頭の中で簡単なルートを作る。
多分、アラビカのほうが近い、うん。
変に納得させると、タムは廊下を歩き出した。
程なく、210号室を見つける。
「コーヒー・アラビカ」
ノックを2回。こんこん。
「どうぞ」
聞き覚えのあるアラビカの声がする。
タムは、扉を開けて、中に入った。
やっぱり白く明るい病室、大きな窓。
そして中には、ベッドに横たわったアラビカと、
白いひげをもくもくとたたえ、でぷっとした、おじいさんがいた。
白衣を着ている。
ネームプレートがあるところから察するに、治療屋の人だ。
おじいさんはベッドの近くに来ていて、
アラビカの身体を触ったりもんだり、
時には何かを振りかけている。
タムは、振り掛けるそれをじっと見ていた。
きっと治療なのだ。
「ほっほっほ」
おじいさんは笑った。
「グラスルーツで連絡が来た、エリクシルのお見舞いかね」
「はい」
「ほっほっほ」
おじいさんは笑った。
「アラビカさんの今日の分の治療も終わる、腰掛けて待っていなさい」
「はい」
タムは、病室の端っこから椅子を持ってきて、腰掛けて待った。
ぼんやりした太陽の光。
おじいさんのネームプレートが見える。
「銀河楽」
「ほっほっほ、そう、わしは銀河楽、ここの治療屋をまとめているよ」
「すごいや」
銀河楽はそれでも手を休めることなく、アラビカに治療を施す。
さっきから振りかけているそれは、
きっと薬なのだろうと、タムは勝手に思った。
「ご名答」
「へ?」
タムは、突然、銀河楽にご名答といわれ、変な返事をした。
「これは、治癒力を高める薬の一種だよ。これを身体にもみこみ、水を飲めば大丈夫」
「やっぱり薬だったんだ」
「ほっほっほ」
銀河楽は笑った。
そして、タムに疑問がわく。
「どうして、僕が考えていることがわかったんですか?」
銀河楽は、アラビカをもみながら答える。
「無線のグラスルーツになれていてね。考えが時折読めるようになったよ」
「すごいや」
「わしなりに、治療に生かしているよ。どこが痛いとか、どんな気分なのかを読んでね」
「へぇ…」
タムはただただ感心した。
アラビカは、くったりとしている。
心地いいのか、疲れているかはわからない。
銀河楽は薬をもみこみ、とん、と、アラビカを叩いた。
「う…ん」
「さぁ、今日の分の治療は終わり。規定の水を飲んで、ちゃんと光を浴びるんだよ」
「はい」
アラビカはもぞもぞと起きる。
タムは、銀河楽に聞きたいことがあった。
「エリクシルの工事で、有線になっちゃいますけど、大丈夫ですか?」
「つながりが強くなれば、きっともっと読み取れるだろうよ。ただし」
「ただし?」
「うむ、わしのこの考え読みは、この治療屋でないと発揮できない」
「そうなんですか」
「んむ、だから、ここに運ばれてこないと考えを読めないし、治療も出来ない。そういう欠点はあるよ」
「それでもすごいです」
「ほっほっほ、ありがとう」
銀河楽はタムの頭をなでた。
「心からそう思ってくれて、ありがとう」
銀河楽は、タムの考えを読んだらしい。
うれしそうに笑うと、アラビカの病室を後にしていった。
タムは、アラビカのベッドのそばにやってきた。
アラビカは相変わらず、くったりしている。
「具合はいかがですか?」
「うん、少しよくなった気がするよ。明るいのがいいですね」
アラビカも、どちらかというと細いが、
ヘデラほど悪くはなっていない。
きっと近々健康になるだろうと思われた。
「元気になったら、どうします?」
「そうですね、花術をもう少し学ぼうと思いますよ。いつかは予言も出来るように」
「アラビカさんならきっと出来ますよ」
「ありがとう」
外からは、相変わらず小さな振動がする。
タムはアラビカと少し話をして、アラビカの病室をあとにした。