タムは、サボテン治療屋の玄関に入った。
ごわーっと風が吹き、タムの服は乾燥された。
なるほど、湿ってばかりでもよくないらしい。
タムはとりあえず、誰がどこの病室にいるかを聞くことにした。
この場合は、受付だろう。
受付には、白衣の女性が座っている。吹雪柱とネームプレートにある。
「こんにちは」
白衣の女性が笑う。ネームプレートとは違い、あたたかい笑みだ。
タムは、リストを取り出した。
「この三人へのお見舞いです。どこの病室か教えてもらえないでしょうか?」
女性は、リストを目で追い、そして、ペンを出した。
きゅっと、リストに追加して書く。
そして、タムに返した。
「病室を書いておきました。迷った場合は、また、尋ねてきてください」
「ありがとうございます」
タムはぺこりとお辞儀した。
白衣の女性も笑ってお辞儀した。
タムは、リストを見た。
そして、病室の案内図を探した。
「一番近いのは…203号室のヘデラさんか」
とにかく、タムは、ヘデラの病室に向かうことにした。
病院内は、白くて清潔だ。
時折、命の匂いというのがする。
フユシラズの予言所で使われていた匂いだ。
フユシラズの予言所ほど強くはないが、
時折、鼻を掠めていく。
そして、時折、振動らしいもの。小さく、ではある。
プミラとアスパラガスでがんばっているのかもしれない。
タムは窓を見る。
無線のためのギミックが、そこかしこに繋がれている。
アンテナから線をひき、どこかの病室へと繋がっている。
白い壁に、金属色の劣化したギミック。
タムのうっすらとした記憶が物を言う。
きっと、ペースメーカーにはよくないだろう、と。
タムは、203号室の前へやってきた。
「ヘデラ・ゴールデンセシリー」
名前を一応確認して読み上げ、
ノックを2回。こんこん。
「どうぞ」
アイビーに似た声が答えた。
「失礼します」
タムは、静かに病室のドアを開けた。
病室は白く明るく、大きく窓がついている。
病室のベッドには、色の白い、髪の短いアイビーが横たわっていた。
タムは一瞬、立ち止まった。
「エリクシルの?」
声は、静かなアイビーより幾分高いが、張りはない。
治療を受けに来ているのだ、元気なわけもないかと思い直す。
タムは、アイビーに似た彼女の問いに、うなずいた。
「エリクシルも、こんなの使うようになったんだ」
アイビーに似た彼女が、身を起こす。
やせているが、四肢はある。
「あたしは、ヘデラ・ゴールデンセシリー。ヘデラでいいわ」
「僕は、アジアンタム。タムでいいです」
タムはぺこりとお辞儀した。
「今日は、あなただけ?」
「僕のほかに、グラスルーツの工事をしに、あと二人がんばってます」
ヘデラの表情が、険しいものになる。
「姉さんも、貪欲なものね」
タムは、予想しなかった言葉に、固まる。
ヘデラは、タムの反応を予想していたのかいなかったのか、続ける。
「あたしと姉さん…エリクシルのアイビーはね、仲が悪いのよ」
「どうして…」
「アイビー姉さんは、この雨恵の町をグラスルーツで満たそうとしている」
「連絡取れるから、いいじゃないですか」
「アイビー姉さんは、女神になろうとしているのよ」
「え?」
「この雨恵の町の女神に。あたしはそれに反対した」
ヘデラが咳き込んだ。
髪がずるりと落ちる。
かつらなのだ。
ヘデラは細い手で、かつらを受け取った。
髪はほとんどない。
「姉さんは、雨恵の町の支配者になろうとしている。そう思うのよ」
ヘデラは静かに、それでもしっかりと語った。
「では、反対したあなたを、病気にさせたとか…」
タムは思いつきで言ってみる。
ヘデラは笑った。
「姉さんは、病気になんて出来ない」
「どうして病気に?」
「実はね」
ヘデラはかつらを申し訳程度にかぶった。
「アイビー姉さんを阻止しようと思ってね、ギミックの部屋にこもりきりになったの」
ヘデラは自嘲気味に続ける。
「そして、身体を害した。過剰な水と、少ない光で」
ヘデラは大きな窓の外を見る。
清流通り二番街と、ぼやけた太陽が見える。
「姉さんは…」
ヘデラが続けようとしたとき、
ちりりんちりりん
グラスルーツ送受信機のベルがなった。