タムはとっさに上を見た。
壊れた音のほうから、破片と…影が降りてくる。
いや、落ちてくる。
落ちてきて、人の姿になった。
ぱらぱらと破片の小さいのが落ちてくる。
ぼんやりした太陽の明かりが、人影を照らす。
タムはとっさにベアーグラスとフユシラズをかばうように動いた。
「何者です!」
アラビカが声を上げた。
影は黙っている。
そして、立ち上がった。
「予言をしてもらっちゃ、こっちは困るんだ」
低い声だ。
影がしゃべっている。
人の姿をしているが、上から当たる光で、影の表情は読めない。
ぼさぼさした頭ということはわかる。
大柄だということもわかった。
そして…予言をしてもらっては困るということも。
フユシラズは、こほこほと咳き込んだ。
「私は、命を、予言をつなぐのが役目…」
それを受けて、低い声が語る。
「ならば、俺は、予言を焼き尽くすが役目!」
「火恵の民!」
「ひめぐみ!?」
フユシラズの叫びに、タムは思わず聞き返した。
「そう、お前たちの雨によって消されようとする火。雨に消されはせん…」
低い声の影は、構えた、右手を、腰の辺りで開く。
右手に光が…熱を持ってやってくる。
火だ。
「雨の予言は全て無に帰れ!」
「させるか!」
アラビカが果敢に突進する。
影はバランスを一瞬だけ崩した。
ぼんやりとした光の下、顔が見える。
眼帯をした男だ。
「こしゃくな!お前から消えろ!」
「消えるものか!」
非力そうなアラビカは、男の火を消さんとしている。
タムは、自分に出来ることを考えた。
「タム」
後ろから声がかかった。
フユシラズだ。
「天井に…穴が開いて、よどみ返しの水がやって…きます、予言に…水を…」
フユシラズはそれだけ言うと、
最後の力を振り絞って、その枯れた灰色の両手に黒いかけらを生み出した。
種だ。
タムはその種を受け取った。
フユシラズはそれを認め、微笑み、朽ちた。
からからと干からびていく。
「うわっ」
アラビカが悲鳴を上げた。
タムが振り返ると、アラビカは端っこに吹き飛ばされ、
また、果敢に侵入者につかみかからんとしていた。
侵入者は、また、火を描く。
右手に、明るい火を。
アラビカがひるんだ。
「タム!」
ベアーグラスがタムを引っ張った。
火球が、タムのいた場所に直撃するところだった。
タムはベアーグラスとともに、端っこに転がって火をよけた。
タムは裏側の世界に来てはじめて、過剰な熱を感じた。
あつい。
そして、その火は…
フユシラズのなきがらも、多くの種も焼きつくさんとしている。
あつい。
「タム」
ベアーグラスが、静かにタムに語りかける。
「その種を守って」
ベアーグラスはそういうと、一歩、前に出た。
「火恵の民らしいわね」
眼帯の男は、答えた。
「いかにも」
「それじゃ、こういうのは、知っているかしら」
ベアーグラスは、腰の袋から銃弾を取り出した。
二つ手に取り、侵入者に見せる。
侵入者は、言葉をなくした。
ベアーグラスは笑ったらしい。
火が予言とフユシラズを焼いている。
あつい。
「異端の民の命か」
侵入者はそう言った。
「そう、この銃弾は異端、私も異端…」
ベアーグラスはタムを守るように立っている。
火に照らされ、少女は男と対峙する。
タムは種を守る。
それでいいのかとタムは自問する。
年のそれほどかわらぬ少女が、タムを守らんとしている。
あつい。
「予言は焼き払ったが…異端も焼き尽くす必要がありそうだな」
侵入者が、また、構える。
火を出す構えだ。
「このっ」
横から、アラビカがつかみかかった。
侵入者は、アラビカを蹴り飛ばした。
「フユシラズ様の予言をっ、かえせっ」
アラビカは抵抗する。
火に照らされている。
侵入者は強くアラビカを蹴ったらしい。
アラビカは腹から意味のない声を上げてうずくまった。
「邪魔だ」
侵入者は、アラビカに一瞥くれて、ベアーグラスに向き直った。
「名前はなんと言う」
「私はベアーグラス」
侵入者が火に照らされている。
「俺は、ギルビー・ジン」
ギルビーが、黒一色の衣装であることがわかる。
火の音が聞こえる。
あつい。
ベアーグラスとギルビーが対峙している。
ベアーグラスは、微笑んでいた。
負けないと言いたげに。