セルフサービスの大学の食堂。
緑はハヤシライス。
ケイはうどんを買ってきた。
「こどもっぽい」
ケイはハヤシライスを、そう、評する。
「…いいじゃないですか」
「まぁいいわ、いただきます」
「いただきます」
きちんと、なんとなく手を合わせる。
宗教とかではないが、命をいただくのだ。
きっちりしろと、昔からよく言われた。
見れば、ケイも手を合わせると、そのままうどんをかっこんだ。
食べたではなく、結構ずるずる食べている。
かっこむ。
緑はもぐもぐとハヤシライスを食べる。
きっちり嚥下した後、言葉にする。
「豪快ですね」
「?」
ケイが視線だけ緑に向ける。
「うどんはほっといたら、のびるわよ。速攻で食べなきゃ」
ケイはまた、うどんをかっこんだ。
ケイの服装、今日は、ぴたっとした白のシャツ、
それに、ギンガムとでも言うのだろうか、四角の白と黒のたくさん描かれたスカートをはいている。
スカートはゆったりしているのに、ケイは黙っていれば結構美人なのに、
うどんをすすっているのは、なんとなくアンバランスな気がした。
緑は言葉を飲み込むと、
もくもくとハヤシライスを食べた。
緑は食べ終わると、二人分の水をコップに入れてきた。
「ありがと」
ケイは水を受け取り、一気に飲み込むと、大きくため息をついた。
「風間といると、おちつく」
「どうも」
緑はぺこりと礼をした。
「昨日はなんて変なやつだと思ったけど」
「ふむ」
「今日もなんて変なやつだと思ってる」
「ありゃ」
緑はぼんやりととぼけた。
ケイは、にんまり笑った。
そして、ケイは自分の胸元を指差す。
「服装に関して、言うことある?」
緑は考えたが、
「よくわからないです」
と、素直に答えた。
ケイはわざとらしく、頬を膨らませた。
「女ってのはね、服装に割りと気合をつぎ込むものよ」
「気合入ってるんですか?」
「入ってるわよ」
「どうしてまた」
「だれた服装で、隙を見せるのが嫌な生き物なのよ」
緑は自分の服を見る。
安っぽいシャツ、安っぽいジーンズ。
着まわしている代物だ。
「風間はいいのよ、そのほうが風間らしいし」
ケイは笑った。
笑ったり怒ったり忙しいなぁと緑は思った。
「じゃあ」
緑はぼんやりと話し出す。
「ええと、うどんを豪快に食べるのって、服装とは関係ないんですか?」
「何が言いたいの?」
「おしゃれに気を使う人が、うどん食べたり。ましてや、かっこんだりするかなぁって」
「そうねぇ…」
ケイは頬杖をついた。
「偏見ですと、オムレツランチとか、上品に食べてそうです」
「あー、あたしそれできない」
ケイは頬杖をついたまま、にんまり笑った。
「あたしはどこに行ってもあたし。気になることは追求するし、自分は変えない」
「がんこもの?」
「さぁね。でも、隙を見せるのは嫌い」
「大変ですね」
「でも、風間なら大丈夫」
「え?」
ケイは意味深に緑を見た。
「風間は隙があっても、見逃してくれそうだし、何より鈍感」
「鈍感はひどいですね」
「本当にそうだもの」
ケイは両手で頬杖をつきなおした。
「どうして、食堂で会議してるか、わかる?」
「続き夢を聞くため…」
「だから鈍感なのよ」
ケイは意味深にまた笑った。
緑には、なんとなくであるが、有名絵画の、モナリザを思い出させた。
あれよりは、もっと形あって笑っている。
それでも、何か大切なことを隠しているような気がした。
「風間のことは、お茶の殻博士からよく聞いてた」
「切り口のことですか?」
「うん、あたしには出来ない芸当してのける。ぼんやりとね」
「思ったことをやっているだけですよ」
「天然なのね」
「養殖じゃないです」
「そんなこという、風間に前々から興味があった」
「そうなんですか?」
緑ははじめて聞いた。
ケイはにんまり笑った。
「風間の気を引くために、服装気合入れてたとしたら?」
緑は、どきどきした。
なんだかわからないが、ケイが何か、緑の思いつかない何かを…
企んでいる気がした。
チャイムが鳴るまであと少し。
「じゃ、次の講義があるから」
ケイは席を立った。
「明日も来るのよ」
決定事項にされて、ケイはさっさと講義に向かっていった。
「不思議な人だな」
緑はケイを見送り、残りの講義を受けに食堂を後にした。