タムとポトスと、タムの肩に乗ったリュウノヒゲは、
命の水取引商の店を後にし、
また、底あり沼一巻の路地もあとにした。
見送るように、命の水を意味する看板が、そこかしこにぶら下がったり貼られていたりした。
ポトスは大きな包みを肩の上に乗せている。
タムは両手で包みを持っている。
重くはないが、大事な気がしたからだ。
清流通り二番街に出て、裏側の世界の住人が行きかいするなか、
雨恵の町の噴水を目指し、
そこから、清流通り三番街へと入る。
タムはその間、歩きながら、ポトスのあとを追いながら、包みの中身を気にするという、
変に器用なことをやってのけていた。
やがて、清流通り三番街、池のふち二巻にやってくる。
路地に入り、奥の扉を目指す。
ポトスが扉をゴンゴンと叩く。
「帰ったでござる」
ポトスはいつもの調子で宣言した。
ネフロスのときと同じように、
キリキリキリキリと、ドアの内側でかすかに、歯車やギミックの動く音がする。
チーンと、安っぽい金属の音がして、
ドアノブが動いた。
ポトスは扉を開けて中に入り、タムが続いた。
「まずは、アイビーに報告でござる」
ポトスはタムにそう言うと、
一階の、グラスルーツ管理室を目指した。
先にたったポトスが、グラスルーツ管理室の扉を叩く。
「どうぞ」
いつもの静かなアイビーの声だ。
ポトスは包みを片手で肩に上げたまま、片手で扉を開けた。
「アイビー、いつものでござる」
言いながら、ポトスは自分の大きな包みを下ろした。
それを見計らったように、リュウノヒゲがタムの肩から、ポトスの肩へと飛び移った。
ぴょんと飛び跳ねる。
どうやら、肩幅のあるポトスの肩の方が、乗り心地がよいらしい。
「ご苦労様。グラスルーツで報告がきてるわ。タムにお土産があるみたいね」
「おまけのようでござる」
タムは自分の小さな包みを見た。
どうしたものだろう。
「とりあえず、タムにはその包みをあげる」
アイビーにそう言われ、タムはうれしくなった。
しかし、
「包みを開けてもいいわ。でも、口にしてはいけない。それだけは、まだ、守って」
アイビーは、静かにタムに言い聞かせた。
「まだ?」
タムはそこだけひっかった。
「そう、まだ。いつかわかるときもくるわ」
タムは素直にうなずいた。
アイビーは微笑むと、
「次のおつかい。ネフロスを呼んできて。いつものが届いた、と」
と、タムにおつかいを言いつけた。
タムは小さな包みを持ったまま、アジトの階段と上り坂を駆け上がった。
ネフロスの部屋は、タムの部屋の隣。
それだけは覚えている。
息もつかせず、大事に包みを持ちながら、
タムは駆け上がって、
自分の部屋の隣の部屋の扉前までやってきた。
ネフロレピス。
確かにそう書いてある。
タムはノックした。
「タムか」
中からネフロスの声がした。
「今開ける。アイビーから連絡は来ていた」
部屋の扉が開いた。
「タムにおつかいさせるとか。そんな連絡だ、で、なんなんだ?」
「いつものが届いた、と、伝えてと」
タムは鋭い目つきのネフロスを見上げながら、伝言を口にした。
ネフロスは、にやりと笑った。
「なるほど、いつものか…って、おいこら」
ネフロスの視線が、一点に定まり、不機嫌なものになる。
「もう、そんなもんもらってるのか?」
「え?え?」
タムはおろおろとする。
「それだ、その包み」
「え、あ」
タムは気がついたが、隠すわけにもいかず、どうしていいかまごついた。
「おつかい先でおまけでもらいました。えと…」
タムはネフロスに小さな包みを差し出した。
「おまけあげますから、怒らないでください!」
ネフロスはきょとんとしたが、次の瞬間笑い出した。
「おこってねーよ」
「怖い顔をしていました」
「そうじゃない」
ネフロスは一通り笑った後、タムにやんわり包みを返した。
「おまけでもらったならいいけど、その中身は、まだ口にするな」
「どうして…」
「まだ早いってことだ。じゃ、俺はいってくるぜ」
ネフロスは、タムをどけると、部屋をあとにした。
タムは、おまけの中身が怖いような気もしたが、
中身を見たい誘惑と一緒くたになりつつ、
とりあえず部屋に戻った。