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第二百十六話

アルージェは鳥の囀りさえずりで目覚める。

体を起こして、手を握ったり開いたりする。


よく寝たと言う感覚は有ったが、体の衰えを全く感じなかったので長期間寝たという感じではないようだ。


アルージェは伸びをして、周りを見渡す。

部屋の広さ、部屋の調度品等から察するにみんなで寝泊まりしている別館では無さそうである。


「誰かいますかー?」

アルージェは声を掛けるが、誰からも返事はない。


アルージェは立ち上がり部屋の扉を開けて再度声をかける。

「誰かいませんかー?」

だが返事はない。


「ふむ、仕方ないなぁ」

アルージェは部屋の中に入ってから、目を閉じてルーネに念を送る。


ルーネに念を送るとすぐにドタドタと足音が聞こえる。

どうやらルーネがやってきたみたいだ。

ルーネは器用に扉を開けて、アルージェに近づき吠える。

「バウッ!」


ルーネはアルージェが起きたのが嬉しかったようで尻尾をブンブンと振っている。


「おはよう!今日もルーネは元気だね!」

アルージェはベッドから起き上がり、ルーネを撫で回す。


「それで、僕はどれくらい寝てたの?」

ルーネの耳元でアルージェがこそこそと話す。


「二日だ」

凛とした声にアルージェはビクッと体を震わせる。


「み、ミスティさん。ご、ご機嫌よう」

履いていたズボンの裾を掴み、カーテシーをする。


「あぁ、ご機嫌よう」

ミスティはアルージェに近づき、アルージェの前に立つ。


アルージェは俯き、ミスティの顔を見ることができない。

絶対に無理はするなと言われていたのに、約束を破ってしまった。


アルージェの視界に映るミスティの体はぷるぷると震えている。


これは間違いなく怒っている。


ミスティが動きだしたのでアルージェは怒鳴られると思い、目を瞑る。


「このまま目を覚さないんじゃないかと、不安で仕方なかった」

ミスティは優しくアルージェを抱擁する。



想定していなかったミスティの言動にアルージェは一瞬反応できなかったが、何とか「すいません」と一言だけ返した。


「いつもアルージェは無茶ばっかりして、私達にどれだけ心配をかければ気が済むんだ」

ミスティはいつもの冷静な雰囲気では無く。

少し幼いように見えた。


「返す言葉も無いです」

アルージェはただ謝ることしか出来ない。

アルージェもミスティを抱きしめて嗜める。


「・・・バカモノ」

口調はいつも通り勝ち気なミスティだがいつもより弱々しく見えた。

ミスティがアルージェを抱きしめる力が強くなる。


アルージェは部屋の入り口でエマがチラリと顔を覗かせて見ていることに気付く。

エマもアルージェの視線に気付いたが、エマはミスティの様子を見て、人差し指を口元に当ててウインクしてから部屋から立ち去る。


数分してミスティは落ちついたのか、アルージェから離れる。

何処でタイミングを計っていたのか不明だが、ミスティが離れてすぐにエマが部屋にやってくる。


「アルージェ君!」

エマもアルージェに抱き付く。


「エマ。心配かけたよね?ごめんね」


「そうですね。すごく心配しました。でも、こうしてまた目を覚ましてくれたので、今回は許します」

エマがアルージェに微笑む。


「むっ、エマはあんな風に言っているが、アルージェが私兵団にここに運ばれてきてからずっとウロウロ、ソワソワして手を握ったりとにかくアルージェから離れようとしなかったんだぞ?」


「ちょっとミスティさん!言わないでくださいよ!」

さっきまでの余裕の表情はどこに行ったのかエマは慌て始める。


「自分だけ大人ぶろうとするからだ」


「あははは」

アルージェは失笑する。


コンコンとノックの音が聞こえる。

扉の方を見ると辺境伯が笑いながら扉から顔を覗かせていた。

「アルージェ君が起きたと聞いて様子を見に来たが、お邪魔だったかな?」


「辺境伯様!いえ、お邪魔なんて滅相もございません!」

アルージェは頭を下げようとする。


「病人なんだ、気にしないで大丈夫だ」

辺境伯が頭を下げようとするアルージェを静止する。


「起きて早々ですまないが、何があったのか詳細を教えてくれないか?体調は優れないかもしれないが、今後の対応にも関係するので今聞かせてほしい」


「分かりました」

アルージェは廃教会で何が有ったのか、事細かに辺境伯へ報告する。


「ふむ、なるほどな。なら脅威は排除されたと言うことで間違いないね?」

辺境伯は顎を触りながら、アルージェに確認する。


「はい。ご認識の通りです」


「そうか。それと今回の件、聖国は絡んでいそうだったか?」


「聖国ですか?」


「あぁ、怪しい人影を見たとか聖国の使者を名乗るものが居なかったか程度で構わないんだが」


「いえ、そういう人達はいなかったので、恐らくは関係ないと思いますが」


「そうか。それならよかった。ライナ本人から自分がやったと聞いていたが、念の為にな。とりあえず、街の警戒体制を少しだけ解いて、私兵団達に休暇を与えるか。聖国がいつ攻めてくるか分からない以上、休める時に休んでもらうしか無いからな」


辺境伯は執事に言伝を頼み、アルージェの方へ視線を戻す。


そしてアルージェに頭を下げる。

「アルージェ君。今回の件は本当にどれだけ頭を下げても、足りないくらいの貸しが出来てしまったと私は思っている」


「そんな!辞めてくださいよ!僕だけじゃなくてアインさん、カレンさんも居てくれたからなんとかなったんです」


「もちろん、アイン達にもお礼をしたさ。彼らは冒険者だから冒険者のやり方でね。ただ、アルージェ君は冒険者ではないだろ?だからどうお礼をしたらいいかと悩んでしまってね」


「お礼ですか・・・?」


「あぁ、そうだ。私も貴族なのでね。働きには報いたいと考えている。それに貸しを作りっぱなしと言うのは私の性分では無くてね。だから何か私に出来ることはないだろうか?」


「一つだけ・・・。一つだけ辺境伯様にしか出来ないお願いがあります」


「ふむ、聞かせてもらおう」

辺境伯は頭を上げてアルージェへ視線を移す。


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