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第二百十五話

待っていろと言われたが、もしもあそこに村人の生き残りがいたらと考えると、居ても立ってもいられなくなった。


青年は小屋へ近付き中の様子を伺う。

小屋の中には魔物の死体が散乱していた。

「俺が倒した魔物では無いな」

青年は頭を槍で貫き一撃で仕留めるスタイルだが、ここに散乱している魔物の死体は争った形跡がある。


中を見た感じでは誰も居ないが誰かいる気配はする。


「誰か居るのか?」

青年は小屋の中に入り、声を掛ける。

魔物の血がいたるところに飛散していた。

出ている血の量も半端では無く、臭いがひどく少し気分が悪くなる。


胃から物がかえって来そうになるのを我慢しながら小屋の中を見渡す。

隠れれそうな場所は一つしか無い。

部屋に置かれた大きな壺をゆっくりと開けると中には体を小刻みに震えさせた少女が居た。


救出しに来た村で生き残りがいたのは初めてだった。


「もう大丈夫だ!助けに来た!」

青年は心から喜んだ。


ようやくだ。

ようやく人を助けることが出来る。


青年が少女を抱き抱えようと手を伸ばすと少女は絶叫する。

「いや!いや来ないで!」


酷く怯えているようだ。

魔物に襲われたのだから仕方ない。


「大丈夫。俺達は味方だ。助けに来たんだ」

青年が無理矢理少女を抱き抱えて部屋、綺麗な場所に座らせる。


先ほどまで部屋に転がっていた魔物の死体は無くなって、魔物の死体があった場所には人の死体が転がっていたが、そんなこと今はどうでもいい。


恐らく俺が急いでいたから見間違えていたのだろう。


「もう大丈夫だ。俺たちが君を助けるからな」

青年は少女の頭を撫でる。


「ここか?」


「はい、ここです」

隊長を呼びいった兵士が隊長を連れて帰ってきた。


「隊長!見てください!魔物に襲われた村の生き残りです!初めて生き残った人が」

青年は嬉しそうに隊長に報告している横を隊長は通りすぎる。

そして隊長が少女の心臓に剣を突き立てた。


「カハっ」

少女は青年の方を見て、涙を流しながら息絶えた。


「はっ?」

青年は理解出来なかった。


「ユーキ。ダメじゃないか、丸薬は戦場を出てからと言っただろう」

隊長は血のついた剣を振り、剣から血を振り払う。


「何してるんだよ!おい!」

青年は隊長に怒声を浴びせる。


「何って、今までユーキもしてきたことだろ?」


「俺は人殺しなんてしていない!国の為に魔物を殺してきただ・・・け・・・」

青年は今まで行った村の様子を思い出す。


この世界、石で出来た建物もあるがそれは街や栄えているところだけだ。

村の方は木造建築が主で、魔物に襲われているというのに火の手が上がってたことはなかった。

炊事で火を使っているはずなのにだ。


それどころか建物も荒らされた形跡は無かった。

魔物はただ歩いているだけで建物や建造物には一つとして戦った形跡すら無く綺麗な状態だった。


それに魔物達は襲ってくることも無く、どちらかと言えば逃げ腰で逃げている魔物を一方的に仕留めることが出来た。

倒していた魔物の中には小さな魔物を守るように庇って死んでいった魔物もいた。


「この世界に来て初めて遭遇した餓鬼に似た魔物は俺を殺そうとしてきた。話し合いの余地すら無かった」

信じたくない事実が青年の脳裏をよぎる。


青年は足の力が抜けて崩れ落ちる。


「魔物じゃない・・・のか・・・?いや、そんなはずは無い!確かに人間では無く魔物だった。なぁ、隊長、そうだよな?そうだって言ってくれよ」


殺していたものは全て魔物だと言って欲しい。

青年は隊長の服に縋り付く。


隊長はしゃがみ、青年に顔の高さを合わせて笑う。

「お前も俺と同じ人殺しだ。無抵抗な村人を殺してたんだよ。国の為だと言ってな」


「俺が人を・・・?」


「あぁ、そうだ。国の為。民の為といい、人を殺していたんだ。けど安心しろよな。こいつらは聖国へ仇なす異端者だ。つまり人じゃねぇ。魔物と一緒なんだよ」


「だからってあんな小さい子供まで殺す必要ないだろう!」


「何言ってんだよ。ユーキだって、嬉々として殺してたじゃねぇか。俺たちみんな見てたぜ?無抵抗な子供の頭を槍で貫くのなんて最高に痺れたぜ」

隊長は楽しそうに笑いながら話す。


「お、俺はそんなことしていない!嬉々として人を殺すなんてあってはならないことだ!」


「まぁ、ユーキがどう考えていようが構わないさ。仕事を受けたくないならそれでも結構だ。けど、ユーキは教皇様の奴隷だからよ。受けるしか無いんだよな。ユーキが着けてる首輪には使役魔法としての最高に効果が強いものが付与されている。魔力の抵抗が無いユーキに破ることは出来ない。つまり、一生教皇の殺戮兵器として動くしかないってことだ」


青年は首輪を取ろうと首輪に触れようとする。


「おっと、取ろうとするのはやめといた方がいいぜ?死ぬことはないが死にたくなるほどの苦痛が与えられるようになってるからよ」


青年は手を止めてそのままプランと腕を下ろす。


「まっ、丸薬飲んでりゃ人じゃなくて魔物に見えるんだから罪悪感もねぇだろうよ。これからも頼むわ。“救国の英雄様”よ」


奴隷の首輪の効力は凄まじいもので、初めは依頼を受けないようにしようとしたが抵抗すればするほど死よりも辛い苦痛が体を襲った、


痛みに負けて俺は依頼を受けることにした。

だが俺は依頼の時に丸薬を飲むことをやめた。

人殺しが好きになったからではない、聖国が異端者と言っている人たちのほとんどは罪のない人だ。

そんな無実の人を殺しているのに、自分だけ罪の意識を軽くするのは違うと思ったからだ。


奴隷として命令を強制されるなら、せめて殺してしまった者の顔は覚えておかなければならないと思った。

それが俺に出来る唯一の抵抗。


依頼が終わるたびに自分のやりたくないことを無理矢理させられているからか吐瀉物を吐き、涙を流した。


聖国は無抵抗な村人達を異端者だといい、殺せと命じてくる。

依頼がある度に何度も何度も俺はこの世界に絶望した。


「誰か・・・。誰でもいい。誰でもいいから俺を助けてくれよ」




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