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第二百九話(鎧騎士:ビギニング)

少年は誰よりも正義感が強く、真面目。

曲がったことや歪んだことが大嫌いで、おかしなことはおかしいとはっきり言う性格だった。

そんな性格だったので、近所の悪ガキ達とはよく喧嘩をしていた。


だが、少年は体格に恵まれていた。

自分より五つ上の子供と喧嘩をしても負けることはなかった。


悪ガキ達は少年に勝てないと分かり、少年の言うことは聞くようになるのにそう時間は掛からなかった。

いつの間にか悪ガキ達からは兄貴と呼ばれ、他の子達は自分達を守ってくれる心優しい人として親しまれていた。


そんな少年が住んでいたのは、辺境伯様が統治していると町でフォルニスターと呼ばれていた。

少年の名前は町の名前になぞらえてつけられたのだ。


正義感が強く、体格も良い。

そんな少年が辺境伯の私兵団に志願するのは当たり前の流れだろう。


体格の良さ、性格、名前。

全てが辺境伯に気に入られ、私兵団にはすぐに入隊することが出来た。

それに竹を割ったような性格。

あっという間に私兵団達の人気者になった。


また、戦いの実力も小さい頃から悪ガキ達と喧嘩して鍛えられていた為、新兵の中だけではなく私兵団の中でもかなり高いものだった。


そんな少年が私兵団になってから十年が経とうとしていた。


少年は私兵団の中で歳を重ね、武器は十歳の子供の身長よりも大きな剣。

防具はガチガチに固めたプレートアーマー着て戦えるほどになっていた。

周りと比べても一回りも二回りも大きな体、威圧感、風格が他の私兵団員とは桁違いだ。



そんな見た目が厳つい彼も辺境伯の娘と結婚し、子供も二人儲けた。

仕事も順調でいつの間にか団長になっていた。

前団長が勇退した際に、他の皆から満場一致で団長に推薦されたのだ。

公私ともに順風満帆と言えるだろう。


彼が団長になってからは大きな戦いや魔物が町に攻めてくる事はほとんどなかった。

だが世界には魔物というものが確かに存在するのだ。


魔なる物で魔物。


それは妖精が魔に堕ちて魔物になったと言うものもいれば、動物が魔に堕ちて魔物になったとも言われている。


魔物や外敵から民を守るそれが彼の仕事で、彼はこの仕事に誇りを持っていた。


団長になってから数年が経ったある時のこと。

斥候から付近で魔物が集結し、束になって辺境伯領に攻めてきていると報告を受けた。


辺境伯様へ報告すると、町の防衛に必要な最低限の人員のみを残した隊を編成し、魔物を迎え撃つことになったのだ。


もちろん、辺境伯が後方で待機するはずも無く私兵団と共に部隊を率いて戦う。

団長という座だが、辺境伯が居れば部隊の指揮は辺境伯に一任される。


辺境伯の指示の元。

ただ一心不乱に魔物の返り血を浴びながら殺して殺して殺しまくった。

だが、どれだけ倒しても倒しても相手の数が減っている様子はなかった。


日々訓練をして体力に自信が有る私兵団員達からも疲労が目に見えてくる。

そして徐々に陣形が乱れ始める。


それをカバーする為に団長自ら動き、魔物を殺して殺して殺しまくった。

それでも団員達が一人また一人と倒れていく。


「くっ、一度撤退し、王都に救援を求めよう」

辺境伯の言葉に私兵団達は頷き、馬に跨り撤退を開始する。


「団長も早くしろ!」

辺境伯がチラリと振り返り、団長に指示を飛ばす。


「いえ、俺はここで殿をつとめさせてもらいます」


「団長ダメです!それなら俺達が!」

私兵団員が団長の代わりに残ることを提案する。


「ダメだ。俺がやる。大事な仲間が死ぬより、俺だけが死ぬほうがよっぽどいい」

一刻の猶予も争えぬ状況。

それに魔物が攻めてくるこの状況なら殿は居る方が確実に良い。


辺境伯は苦虫を潰したような顔をする。

「絶対に生きろ。これが私からの命令だ」


「承知しました」

団長は剣を地面に突き刺し辺境伯へ跪く。


「はいや!」

辺境伯が馬に指示を出し、領地へ駆け始める。


私兵団員達も涙を流しながら、辺境伯の後ろをついていく。


「絶対にここは通さん。何があっても俺が辺境伯領を民を家族を守る」

団長は気合いを入れて叫び、近づいてくる魔獣を殺して殺して殺しまくる。


限界などとうに超えていた。

だが自分の中にある正義を信じ戦い続けた。


そう、例え悪魔と契約しても。


辺境伯が屋敷に戻り、王都に対して伝令を送る。

それから辺境伯は部隊を再編成し、町の防衛を強化。

魔物がどれだけ来ようと王都からの援軍が来るまで籠城し、耐えて忍ぶつもりだった。


だが、どれだけ待っても辺境伯領には魔物一匹現れない。


辺境伯は斥候に状況を確認するように指示する。

斥候が戻ってきたと同時に王都からの援軍が到着する。


魔物が一匹残らず殺されている。

残った団長がどうなったのかはわからないが、鎧も剣も残っていなかった。

と斥候からの報告を受けた。


王都からの援軍達も耳を疑った。

そもそも魔物が出たことも嘘だったのではないかと言うものまで出てくる始末だ。

辺境伯と私兵団、王都からの援軍の長と共に団長を残していった場所に向かう。


別れた場所に近づけば近づくほど血の匂いが濃くなり、鼻がひん曲がりそうだった。

「なっ・・・!?」

皆がその光景に目を疑い絶句した。


そこには阿鼻叫喚。

地獄のような光景が広がっていた。


数えきれない程の魔物の死体。

殺された魔物の血が滴り、血の海になっている場所もあった。


「なんと言うことだ・・・」

辺境伯が団長の姿を探すが、何処にも見当たらない。


これだけの魔物を単騎で倒した偉業。

王都で王への謁見をするべきだと考えた援軍達と私兵団員総動員して探したが、ついには団長を発見することができなかった。


辺境伯はたった一人で民を守った英雄に報いようと、せめてもの思いでフォルニスターの町をフォルスタへ改称し、後世へ名前が受け継がれるようにした。


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