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第二百八話

アルージェの姿を確認するために、鎧騎士はゆっくりと壁際まで歩く。

鎧騎士は持っている大剣を振り、風圧で砂煙を晴らす。


だが、そこにアルージェの姿はなかった。

鎧騎士がどこを見てもアルージェの姿が無い。


鎧騎士がキョロキョロとしているとバランスを崩し、そのまま後ろ側に倒れ込んでしまう。


手を着き立ちあがろうとするが、鎧騎士は脚の違和感に気付く。

両脚の脛当が少し離れている場所まで飛ばされていた。


鎧騎士は闇の魔力で脛当を自分の近くに持ってきて、何事も無かったかのように立ち上がる。


もう一度辺りを見渡すが、アルージェの姿が見当たらない。


「ねぇ、鎧騎士さん」

鎧騎士が声をした方へ振り向くが誰もいない。


「こんなこと考えたことは無い?」

確かにあの少年の声がするのだが、どこにいるのか見当もつかない


「影はもう一人の自分だって」

声がした方に剣を振ろうとしたが、鎧騎士は自分の肘から先が無いことに気付く。


鎧騎士は落ちていた腕を見つけて闇の魔力で腕を拾い上げて、胴体に装着する。

手を開いたり閉じたりして違和感が無いことを確認し、落とした大剣を拾い上げる。


「僕は産まれてきてから一度もそんなふうに考えたことなかったんだけど。影がもう一人の自分だって今初めて認識したよ」

声がする方へ剣を振ると、アルージェの形をした真っ黒の得体がしれない物が鎧騎士の剣を受け止める。


その影は装飾のついたショーテルのような曲刀を両手に持っていた。


「どこを見てるの?」

鎧騎士は背後から攻撃を受け、吹き飛ばされる。


何事もなかったかのように立ち上がり、視線を向けるが誰もいない。


鎧騎士の兜を真っ黒のショーテルが貫く。

「目に見える物だけが全てじゃない」


兜を貫かれた鎧騎士は何ごともなかったかのように、後ろに剣を振る。

だが、剣振っても何に当たることはない。


鎧騎士の影から、ヌッとアルージェが現れる。


鎧騎士は影から出てきたアルージェに剣を振り下ろす。

「あはは、見つかっちゃったか」


影から現れたアルージェはショーテルを上に翳し、大剣を受け止める用意をする。

鎧騎士は大剣の振り上げ、すぐに振り下ろす。

当たり前だが剣は大きければ大きいほど重量が加算され、重い攻撃になる。

鎧騎士が持っている剣はアルージェが持っている剣よりも大きく分厚い。

元々肉を断つことに重きを置いている鋭く、細い。

そんな貧弱な剣で大剣を受け止められるはずがない。


鎧騎士は勝ったと思った。


「『破裂する小球ブラストボール』」

アルージェが魔法名を呟くとアルージェの側で破裂する小球ブラストボールが爆発する。


破裂する小球ブラストボールを光源にアルージェの影が鎧騎士よりも大きく伸びて実体化する。

そして鎧騎士の振り下ろした攻撃は実体化した影に受け止められる。


「今度はこっちの番」

アルージェが剣を弾くような動きをすると、実体化して鎧騎士の攻撃を受け止めていた大きな影も同じ動きをして、容易く鎧騎士の大剣を弾く。


アルージェが右手に持っていたショーテルを振りかぶり振り下ろすと影も同じように動き、鎧騎士が持っていた大剣より大きくなったショーテルが鎧騎士に振り下ろされる。


「そうだなぁ。名付けるなら可変式片手半剣トツカノツルギ参式タイプ・スリー闇過剰吸収形態アビスエクセプション= 隠陽影刃イワトガクレってとこかな」


アルージェは右手と左手に持っているショーテルを振り下ろす。

影も同じように動き、鎧騎士に大きなショーテルが振り下ろされる。


鎧騎士が影のショーテルを大剣で受け止めるたびに地面に沈んでいく。


「なかなか耐えるね。次これならどうかな」

実体化した影を戻し、アルージェが自身の影に沈む。


直後少し離れたところにアルージェが現れて、アイテムボックスから投擲武器で弾幕を作る。


鎧騎士はそんなもの今更無駄だと、大剣で自分を守ることもしない。

今まで走ることなんて無かったのに、捕捉したアルージェの元に咆哮して走り出す。


鎧騎士が投擲武器の弾幕を抜けようとした時、アルージェの姿が消える。

投擲した武器の影から現れて、ショーテルで鎧騎士を攻撃しては影に潜り、攻撃しては影に潜りを繰り返す。


激しいアルージェの攻撃に前に進みたいが進めない。

だが、進めていないのは自身の体がバラバラになっているからだと気付いた。


闇の魔力でバラバラになったパーツを全て手繰り寄せて、装着して立ち上がろうとする。


「『破裂する小球ブラストボール』」

アルージェは倒れている鎧騎士の影が自分の元まで届くように、破裂する小球ブラストボールを爆発させて鎧騎士の影を伸ばす。


伸びた影にアルージェが両手に持っているドス黒いショーテルを突き立てると、アルージェに傷つけられた場所が同じように傷つけられていく。

鎧は部位ごとにバラバラにされて、闇の魔力で手繰り寄せてもすぐにアルージェにバラバラにされてしまう。


「オレハマケラレナイ。マケラレナインダ」

こんな絶望的な状況でも鎧騎士は何度も何度も立ちあがろうとする。


「きっと誰よりも正義感が強くて責任感の強い。凄く高名な騎士だったんだろうね」

アルージェは鎧に魔力を供給している大剣と自分をパスで繋ぐ。


すぐにアルージェの脳内に騎士の想いや気持ち、それに記憶が流れこんでくる。


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