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第二百六話

以前アインと戦った時は高威力の魔法をたった一回吸収しただけだったので、気にする必要はなかった。


そもそもこの魔法を吸収する機能は付与解除ディスエンチャントを目的としていて、魔法を吸収できるのは副次的な使い方である。

なので、魔法を何度も吸収するのは本来の使い方ではない。


吸収出来るキャパシティを超えてしまった時、最悪の場合可変式片手半剣トツカノツルギが崩壊してしまう。

そして二度と使うことが出来なくなってしまう可能性がある。


もちろん、可変式片手半剣トツカノツルギをもう一本剣を作成することは可能だ。

だが、戦っている最中に作れる訳がない。


「くそっ!可変式片手半剣トツカノツルギのキャパシティをオーバーフローするつもりで相手の大剣の魔力を吸うか?」

自滅特攻を視野に入れるが、アルージェは首を横に振る。


「いや、ダメだ。アインさんを覆っている闇の魔力を吸収出来なくなる。あいつを倒してもあの魔力が解除される保証は無い。なら・・・」

アルージェは覚悟を決める。


アルージェは鎧騎士に背を向けて、アインの元に駆け出す。

走っている最中にアインを包んでいる闇の魔力にパスを繋ぎ、デゾルブ剣で闇の魔力を吸収する。


「くそっ!そこまで魔力があるように見えないのに、なんて魔力の量だ!」


鎧騎士はアインの前で止まっているアルージェ向かって、斬撃を飛ばす。

避けられるものは避けるが、デゾルブ剣での吸収はしない。


アインにまとわりついている魔力を吸収するのに注力したい。

故に斬撃を魔力吸収出来ない。

キャパシティをそちらに割いた結果、アインに纏っている闇の魔力を吸収できなくなったら本末転倒だ。


避けられないものはアルージェが己の体で受け止める。

「ぐぅ・・・。痛いなぁ・・・」


何度か斬撃を受けてしまい出血があるが、吸収に尽力したおかげでアインを閉じ込めていた闇の魔力が消失する。


「アインさん!」

アルージェが叫ぶとアインは目を覚ます。


「民を護る為・・・」

アインが起き上がったところに鎧騎士は斬撃を繰り出す。

アルージェが咄嗟に斬撃パスを繋ぎ、吸収する。


「アインさん!しっかりしてください!」

アルージェはアインに呼び掛ける。


ボーッとしていたアインは意識が明瞭になり、声のする方へ視線を移す。

色々な場所から出血が出ていて、ボロボロのアルージェがアインの視界に入る。


アインはアルージェの姿を見て動揺してしまう。


「アルージェ!」

アインがアルージェの援護をしようと立ち上がり、近づこうとする。


「アインさん!僕は大丈夫です!カレン教授を!」

アルージェが指を指す方向へアインが視線を向けると、倒れ込んでいるカレンを見つける。


「カレン!」

アインはカレンの方へ駆け寄る。


「私はアルージェのおかげでなんとか無事よ・・・。ずっと鎧騎士の気を引いてくれてたの。ただ魔力を使いすぎちゃったみたいで、動くのは無理そう」


アルージェはカレンを守る必要がなくなったので、鎧騎士へ肉薄しアイン達から気を反らす。


アルージェは鎧騎士の猛攻を防ぎながら、アインへ指示を出す。

「アインさん!カレン教授を上に連れて行ってください!それで辺境伯様達を援軍として呼んで来てください!」


アルージェをただ一人置いていく訳にはいかないと、アインは断ろうとする。

「だが・・・!」


「お願いします。みんなを守りたいんです」

チラリと見えたアルージェの目は決死の覚悟をした目だった。


可愛い後輩がここまで頑張っているのに、自分のこの体たらくはなんだ。


あの時もっと自分がしっかりと鎧騎士を確認していれば。

アインは相殺爆裂バーストデトネーションで鎧騎士を倒したと思い、完全に油断していた。

今まで相殺爆裂バーストデトネーションで倒せなかった魔物を見たことなかったからだ。

それのせいで形勢が逆転したことを悔いていた。


アインが初めて自分の手で助け出した少年。

アインはアルージェがわざわざ王都まで自分達に会いに来てくれて本当に嬉しかった。

今後アルージェをパーティにも誘うつもりで、本当に後輩だと思って指導していたのだ。

そんな後輩にあんな目で言われたら、やるしか無いだろう。


「分かった!絶対にすぐに戻ってくる。だから死ぬな!アルージェ!」

アインはカレンを背中に担ぎ、梯子を登っていく。


「アルージェ!その剣が魔力源!その剣さえどうにかすればその鎧は・・・」

カレンはそれだけ言い残し、気を失う。


「ありがとうございます。カレン教授」

アルージェは呟き、鎧騎士を睨みつける。


そして剣を破壊することを念頭にアルージェは鎧騎士との戦闘を続ける。


アインがカレンを背中に背負って梯子を上りきり、教会を出た後。


誰もいない筈の礼拝堂の椅子の下からひょっこりと顔を出す少年がいた。

そのまま少年はこっそりと梯子を降りて行く。


少年は梯子の下まで降りて、大広間に繋がる部屋の扉からチラリと中を覗く。


少年はここで姉の婚約者と鎧騎士の戦いを目の当たりにする。

何が起こっているのか全くわからないが、姉の婚約者が得体の知れない大剣を持った鎧騎士と激しく斬り結んでいた。


「な、なんだよ、あれ・・・。何なんだよ!」

少年は得体の恐怖を感じ、体が動かなくなり勝手に震えだす。


そんなの敵に対して、姉の婚約者は果敢に立ち向かい。

互角に戦っているように見えた。


「お前、すげぇよ」

少年の心からの言葉だった。


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