ミスティの部屋に着き、扉をノックする。
マイアさんでは無く、寝巻き姿のミスティさんが扉を開ける。
「アルージェ?どうした?こんな時間に。眠れないのか?仕方ない。今日だけだぞ」
ミスティは何を勘違いしたのか体を翻し、アルージェを部屋の中に案内する。
ミスティと一緒に寝たい気持ちをアルージェはグッと抑える。
「あはは、是非そうしたいんですけど、今はちょっと急ぎでして」
ミスティは首を傾げ、不思議そうな顔でアルージェを見る。
アルージェはミスティの部屋のカーテンを開けて、本館の様子を見せる。
「今日本館で何かあるって言ってましたっけ?なんか至るところで明かりがついてるんですよね」
異様な光景にミスティも冗談を言うのを辞めて、いつもの冷静なミスティに切り替わる。
「むっ、確かに。おかしいな。今日話したメイド達も何も言っていなかったが・・・。マイア何か覚えているか?」
アルージェが来た事に気付いたマイアが自分の部屋から現れる。
「いえ、私も何も聞いていません。もしかしたら何か有ったのかもしれません。確認してきましょうか?」
「いえ、本当に何か有ったならマイアさんが危険になるかもしれない。僕聞いてくるから待っててもらえます?」
アルージェはアイテムボックスから武器を取り出し、臨戦体制で屋敷に向かう。
「待て、アルージェ」
ミスティが咄嗟にアルージェの腕を掴み引き止める。
「大丈夫ですよ。何が起こってるか見に行くだけですから」
アルージェはミスティの方へ視線を移し、ミスティを宥める。
「分かっている。だが、一つだけ約束してくれ」
ミスティはアルージェの目を見る。
「約束ですか?」
「あぁ、そうだ。何か有っても行くなとは言わないけど、無茶だけはしないで欲しい」
「当たり前です!僕はまだまだやりたいこといっぱいあるので!」
「そうか。分かってるなら良いんだ」
ミスティが持っていたアルージェの腕を引っ張り、抱きしめる。
「気を付けてな」
アルージェが本館に行くのを見送る。
玄関にはエマがいてアルージェの前に立つ。
「エマ。どうしたの?」
「アルージェ君。行くの?」
エマはミスティとの会話を聞いていたようで心配そうにアルージェを見つめる。
「うん。心配そうな顔しないで。ただ様子を見に行くだから」
「分かった。けど、なんだか嫌な予感がするの。本当に気をつけてね」
エマの頭をポンポンと撫でる。
「ありがとう。行ってくるね!」
そのまま別館から出て、本館に向かう。
本館に向かう途中でルーネが現れ、横を並走する。
「あれ?ルーネ、どうしたの?」
「バウ!」
どうやら迷子にならないように来てくれたらしい。
「あははは、助かるよ。辺境伯様のところに連れていてくれる?」
アルージェはルーネに飛び乗ると、ルーネが「ワウっ」と返事する。
辺境伯様と書斎の前でルーネが止まる。
アルージェがノックすると辺境伯様の声で返事が返ってきた。
「失礼します」
書斎に入ると辺境伯様、アインとカレン、それと私兵団長のスベンがすぐに目についた。
そして床に倒れている二人の男。
初めて見る顔だった。
男達の横にはラーニャが居て必死で回復魔法を唱えている。
「どういう状況ですか?」
アルージェが辺境伯に問いかける。
「あぁ、私自身まだしっかりと把握出来ていないのだが、ここから少し離れたところに使われなくなった教会が有るんだ。この二人が言うにはそこの地下に何かがあるらしい。何かを聞く前に気を失ってしまったので、聞けなかったが」
「なるほど、なら私兵団の方達が出るんですか?」
「いや、俺達は出られない」
スベンが即答する。
「えっ?なんでですか!?」
予想外の答えにアルージェが驚く。
「何が起こったか分からない以上、俺達は屋敷と町を守る必要が有る。屋敷の中には非戦闘員達ばかりで町で防衛をする可能性もある」
スベンは拳を握り、唇を噛む。
本当は私兵団員を総動員して、調査をしたいと考えているのだろう
「それはそうですね。町の人達はみんながみんな戦える訳じゃないですし、メイドさん達を誰が守るんだって話になりますもんね」
万が一、魔物が攻めてきたなんてことになれば、私兵団達が町の防衛をする必要があるだろう。
「恥を忍んでアインとアルージェ君に調査をお願いしたい。報酬はもちろん出す。何が有るのか分からない危険な依頼になるかもしれないが、お願い出来ないだろうか」
辺境伯は二人の方へ視線を向ける。
「僕は別に構わないよ。アルージェはどうだい?」
「そうですね。放置したらいずれ僕達に影響が出るかもしれないですし。調査くらいならやりますよ」
アインもアルージェも快く承諾する。
「ありがとう。助かるよ」
辺境伯は深々と頭を下げる。
「ラーニャはその人達の傷の手当をするから無理だろう?カレンはどうする?」
「あたしも行くわ。この二人の様子を見る限り、呪いやら呪術の可能性も捨てきれないし。そうなると二人よりも役に立てると思うわよ」
「流石、カレン。頼もしい限りだ。すぐに出発しよう」
「えぇ」
「分かりました」
アルージェとカレンが返事をして、部屋から出ようとすると辺境伯に引き止められる。
「もう一つ、これは個人的なお願いになってしまうのだが、廃教会にはライナが居るはずだ。見つけたら救助もお願いできないだろうか?アルージェ君は嫌かもしれないが、あんなのでも私の子供なんだ。どうか頼む」
辺境伯は以前ライナとアルージェが小競り合いをしているのを見ていた。
偶々通りかかったように装ったが、初めから見ていた。
あわよくばライナがアルージェと仲良くなって、少しでもライナがいい方向に向かわないかと考えていた。
実際は辺境伯の予想を大きく外したものになってしまったが。
「辺境伯様には恩がいっぱいありますから、居たらもちろん助けますよ。ただ、相手の出方にもよるので期待はしないでください」
「それはそうだ。あいつが助けを求めなかったら助けなくてもいい」
辺境伯は苦虫を潰したような顔をする。
「大丈夫です。それでも出来るだけ助けますから」
アルージェは辺境伯に笑いかける。
そして、アルージェ、アイン、カレンの三人は廃教会に急ぐ。