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第二百話

ミスティの部屋に着き、扉をノックする。


マイアさんでは無く、寝巻き姿のミスティさんが扉を開ける。

「アルージェ?どうした?こんな時間に。眠れないのか?仕方ない。今日だけだぞ」

ミスティは何を勘違いしたのか体を翻し、アルージェを部屋の中に案内する。


ミスティと一緒に寝たい気持ちをアルージェはグッと抑える。

「あはは、是非そうしたいんですけど、今はちょっと急ぎでして」


ミスティは首を傾げ、不思議そうな顔でアルージェを見る。

アルージェはミスティの部屋のカーテンを開けて、本館の様子を見せる。

「今日本館で何かあるって言ってましたっけ?なんか至るところで明かりがついてるんですよね」


異様な光景にミスティも冗談を言うのを辞めて、いつもの冷静なミスティに切り替わる。

「むっ、確かに。おかしいな。今日話したメイド達も何も言っていなかったが・・・。マイア何か覚えているか?」


アルージェが来た事に気付いたマイアが自分の部屋から現れる。

「いえ、私も何も聞いていません。もしかしたら何か有ったのかもしれません。確認してきましょうか?」


「いえ、本当に何か有ったならマイアさんが危険になるかもしれない。僕聞いてくるから待っててもらえます?」

アルージェはアイテムボックスから武器を取り出し、臨戦体制で屋敷に向かう。


「待て、アルージェ」

ミスティが咄嗟にアルージェの腕を掴み引き止める。


「大丈夫ですよ。何が起こってるか見に行くだけですから」

アルージェはミスティの方へ視線を移し、ミスティを宥める。


「分かっている。だが、一つだけ約束してくれ」

ミスティはアルージェの目を見る。


「約束ですか?」


「あぁ、そうだ。何か有っても行くなとは言わないけど、無茶だけはしないで欲しい」


「当たり前です!僕はまだまだやりたいこといっぱいあるので!」


「そうか。分かってるなら良いんだ」

ミスティが持っていたアルージェの腕を引っ張り、抱きしめる。


「気を付けてな」

アルージェが本館に行くのを見送る。


玄関にはエマがいてアルージェの前に立つ。

「エマ。どうしたの?」


「アルージェ君。行くの?」

エマはミスティとの会話を聞いていたようで心配そうにアルージェを見つめる。


「うん。心配そうな顔しないで。ただ様子を見に行くだから」


「分かった。けど、なんだか嫌な予感がするの。本当に気をつけてね」


エマの頭をポンポンと撫でる。

「ありがとう。行ってくるね!」


そのまま別館から出て、本館に向かう。


本館に向かう途中でルーネが現れ、横を並走する。

「あれ?ルーネ、どうしたの?」


「バウ!」

どうやら迷子にならないように来てくれたらしい。


「あははは、助かるよ。辺境伯様のところに連れていてくれる?」

アルージェはルーネに飛び乗ると、ルーネが「ワウっ」と返事する。


辺境伯様と書斎の前でルーネが止まる。

アルージェがノックすると辺境伯様の声で返事が返ってきた。


「失礼します」

書斎に入ると辺境伯様、アインとカレン、それと私兵団長のスベンがすぐに目についた。


そして床に倒れている二人の男。

初めて見る顔だった。


男達の横にはラーニャが居て必死で回復魔法を唱えている。


「どういう状況ですか?」

アルージェが辺境伯に問いかける。


「あぁ、私自身まだしっかりと把握出来ていないのだが、ここから少し離れたところに使われなくなった教会が有るんだ。この二人が言うにはそこの地下に何かがあるらしい。何かを聞く前に気を失ってしまったので、聞けなかったが」


「なるほど、なら私兵団の方達が出るんですか?」


「いや、俺達は出られない」

スベンが即答する。


「えっ?なんでですか!?」

予想外の答えにアルージェが驚く。


「何が起こったか分からない以上、俺達は屋敷と町を守る必要が有る。屋敷の中には非戦闘員達ばかりで町で防衛をする可能性もある」

スベンは拳を握り、唇を噛む。

本当は私兵団員を総動員して、調査をしたいと考えているのだろう


「それはそうですね。町の人達はみんながみんな戦える訳じゃないですし、メイドさん達を誰が守るんだって話になりますもんね」

万が一、魔物が攻めてきたなんてことになれば、私兵団達が町の防衛をする必要があるだろう。


「恥を忍んでアインとアルージェ君に調査をお願いしたい。報酬はもちろん出す。何が有るのか分からない危険な依頼になるかもしれないが、お願い出来ないだろうか」

辺境伯は二人の方へ視線を向ける。


「僕は別に構わないよ。アルージェはどうだい?」

「そうですね。放置したらいずれ僕達に影響が出るかもしれないですし。調査くらいならやりますよ」

アインもアルージェも快く承諾する。


「ありがとう。助かるよ」

辺境伯は深々と頭を下げる。


「ラーニャはその人達の傷の手当をするから無理だろう?カレンはどうする?」


「あたしも行くわ。この二人の様子を見る限り、呪いやら呪術の可能性も捨てきれないし。そうなると二人よりも役に立てると思うわよ」


「流石、カレン。頼もしい限りだ。すぐに出発しよう」


「えぇ」

「分かりました」

アルージェとカレンが返事をして、部屋から出ようとすると辺境伯に引き止められる。


「もう一つ、これは個人的なお願いになってしまうのだが、廃教会にはライナが居るはずだ。見つけたら救助もお願いできないだろうか?アルージェ君は嫌かもしれないが、あんなのでも私の子供なんだ。どうか頼む」

辺境伯は以前ライナとアルージェが小競り合いをしているのを見ていた。

偶々通りかかったように装ったが、初めから見ていた。


あわよくばライナがアルージェと仲良くなって、少しでもライナがいい方向に向かわないかと考えていた。

実際は辺境伯の予想を大きく外したものになってしまったが。


「辺境伯様には恩がいっぱいありますから、居たらもちろん助けますよ。ただ、相手の出方にもよるので期待はしないでください」


「それはそうだ。あいつが助けを求めなかったら助けなくてもいい」

辺境伯は苦虫を潰したような顔をする。


「大丈夫です。それでも出来るだけ助けますから」

アルージェは辺境伯に笑いかける。


そして、アルージェ、アイン、カレンの三人は廃教会に急ぐ。


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