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第七十五話

「はぁ、他のも綺麗にしてあげたかったなぁ」

アルージェは人だかりが出来て作業できなくなってしまったので、


ミスティさん達と武器屋を後にして、市場を進む。


「なぁ少年、聞いてもいいか?」

ミスティが声をかける。


「ん?なんですか?」


「少年は鍛冶屋なのか?」


「何言ってるんですか、僕は店持ってませんよ」


「いや、そういう意味ではなくて、いや私のきき方が悪かった、本職は鍛冶屋なのか?」


「本職?一応冒険者ですけど・・・」


「だが、ただの冒険者に人だかりができるほどの鍛冶の技能はないだろ?」


「あれ?そういえばミスティさんには言ってなかったでしたっけ?

僕が生まれた村にはすごい鍛冶屋がいたんですよ、その人が僕の師匠なんですけどね、すごく”可愛がって”育ててくれたので、鍛冶得意なんですよ、ミスティさんと戦った時に使っていた武器なんて全部僕のお手製ですからね!」


「全部・・・?」


「全部は嘘言いました」


「そうだよな、さすがに驚いた」


「弓は狩人の先生に貰って、最後に使った剣は二本とも誕生日にもらったので、その他ですね」


「それはほぼ全部なのでは!?」


「そうですね!あの後全部手入れするの大変でしたよほんと!作り直したやつもあるんですから!」


「そ、そうか」


「あっ、せっかくなのでミスティさんマイアさんにも何か作りましょう?」


「ありがたい申し出だが、私はこの短剣があるからなぁ」


「あぁ、あの短剣超えるのは今の僕には難しそうです・・・すいません」


「私も申し出はうれしいのですが、アルージェ様に作成してもらうほどの武器ではないですので」


「ふと、思ったんですけどマイアさんの得物ってなんなんですか?」


「そうでした、あの犬とは戦いましたが、アルージェ様はあの犬のせいで進まれてしまいましたもんね、こういうのです」

そういってアイテムボックスからどでかい鉄塊が出される。


「か、金砕棒・・・・、マイアさん渋すぎです」


「魔法学校でもお話しましたが、私は少し変わった体質で、これくらいなら」

金砕棒を軽々振り回す。


「このように皆様が木の枝を振るくらいの感覚で振り回せますので」


「す、すごい・・・、そんなに力があるなら、僕がいつか作りたいと思ってる武器があるのでそれを使ってほしいです!」


「もちろん、アルージェ様に喜んでいただけるなら使います」


「うぉー!ありがとうございます!作りたいとは思ってたんですけど誰も使えないだろって思ってやめてたんですよ!作ったとしても今の僕だとアイテムボックスに入れるのも無理そうだったんで!」

そういってアルージェはマイアの手を取り握手してブンブンと上下に振り回す。


「いただけるのを楽しみにしてますね」


「ん?そんな力があったのにルーネはどうやってマイアさん止めたの・・・?」


「バウッ!」

ルーネはお座りの状態で誇らしそうに胸を張る。



「あの犬ころにはだまし討ちで負けてしまいましたので、実際は私のほうが強いです」

マイアがそういうとルーネはニヤリと笑って、マイアを挑発しているような顔で見る。


「くそが」

マイアがボソと呟く。


「あははは」

いつものことだがアルージェからは乾いた笑いが出る。


「そこの者たち!!!」

不意に声を掛けられる。


皆が声のほうを振り向くとずんぐりむっくりした男性が立っていた。


「喧嘩はよくないよ!これでも食べて落ち着いて!」

そういって男性はほかほかの饅頭みたいなものを皿に盛りつけて出してくる。


「えっ?あぁ、ありがとうございます」

アルージェがなんの疑いもなく手を出そうとするとミスティが止める。


「お、おい、毒でも入ってたらどうするんだ!」


「毒!?そんなことあるんですか!?」


ミスティがアルージェを止めている横からルーネが出てきて、

饅頭の匂いを嗅ぎを一つ食べる。


「バウ!」


「おぉありがとうわんちゃん!おいしいかい?毒なんてそんなものは入れないさ!僕は崇高な錬金術師だからね」

そういって皿に置いた饅頭を一つ手に取り食べる。


「うん、我ながら最高の出来だ、おいしいから食べてみてよ!」


「おぉ!ならもらおうかな!」

アルージェも一つ手に取り頬張る。


「中からはちみつ??いやシロップ・・・これはホットケーキみたいな味だ!」


「ふふふ、おいしいだろ!ほら、お姉さん達も食べてよ!」


「む、むぅ、アルージェもおいしそうに食べているしせっかくだからいただくか」

ミスティも一つ手に取り、口に運ぶ。


「う、うまい!マイアも食べてみろ!」


「では、いただきます」

マイアも一つ手に取り食べる分だけちぎって口に運ぶ。


「こ、これはふっくらした柔らかな生地、中からあふれ出る甘いシロップが生地に染み込んでいて、生地だけ千切って食べても伝わってきます!ハムッ」

次は千切らずにかぶりつく。


「はしたなくついかぶりついてしまいしたが、こうすることで中に入っているシロップと生地を一度に味わうことができて、さらに甘さが際立つということですね、ミスティ様この食べ物なかなかに奥が深いです!」

マイアがミスティを見るとミスティは少し驚いた顔でマイアを見ていた。


「あっ、コホン失礼しました、少しはしゃぎすぎてしまいました」


「いや、構わないさ、むしろそういう一面があるのだと今まで知らなかった、私がどれほどこの世界を見ようとしていなかったのか思い知らされたよ」

ミスティは嬉しそうにする一方で、自身がどれだけ自分のことしか考えていなかったのかと表情が暗くなる。


「えい!」

ずんぐりむっくりの自称錬金術師がミスティの口に饅頭を詰め込む。


「ウワ、プッ!?」

ミスティは急に口に饅頭を入れられて驚く。


「この崇高なる錬金術師が作り出したものを食べながらそんな顔するなんて許さないよ!ほら笑うんだ!」


「わ、わかったから私が悪かったよ、それにしても本当においしいな」

ミスティは口に入れられた饅頭を食べながら話す。


「これは私が考案した、蒸し饅頭さ!おいしいだろう!そうだろう!もっと褒めたたえてくれ!」


「ねぇ、本当に錬金術師なの?」

アルージェが気になって聞く。


「あぁ!そうさ!僕は崇高なる錬金術師のペポル!そしてこれが相棒のフェンリル」

そういって、背負っていた鉄製のフライパンを見せるペポル。


「ここまでしても未だ到達できぬ錬金術の高みに日々僕は挑んでいるのさ」


「料理人では・・・?」


「料理人!?何をいう!こうしてただの粉からこのモチモチの食感を作り出すんだ錬金術師といわずなんという!」


「あははは、そうかもしれないね・・・・」


「わかってもらえて何よりだ!僕はこのあたりで屋台をやっているからね、暇なときは是非とも食べにきてほしい、そして感じるんだ、僕がどれほどまでに偉大なのかをね、それでは!また会おう!」

そういって、高笑いしながら颯爽とペポル去っていった。


「なかなかに個性的な人だったね、王都ってすごいな、料理人だと思ってたんだけど錬金術師だって言い張るんだもんな」

アルージェがそういうと、


「あぁ、だが料理にはクセがなくて味のレベルは本当に高かったな、生まれて初めてあそこまでおいしいものを食べたかもしれん」

ミスティもアルージェの言葉に同意する。


「そうですね、私もつい饒舌になってしまいました」

マイアも続けて同意する。


「バウ!」

ルーネからはまだ食べたいと脳内に伝わってくる。


「そうだね、当分王都にいるんだし、余裕ができたら食べに行こうね」


その日の晩ご飯、不意に入ったレストランで食事を取り、確かにおいしかったのだが、

みなあの錬金術師の作り出したものが忘れられず、少しもやもやとした食事となってしまった。

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